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女子会っていうか、親睦会っていうか、夏海をおちょくる会っていうか


  ◇



「……で、何でこんなことに?」

 土曜日。夏海は呻くように呟いていた。彼女がそんなことを口にしたのは、当然ながら相応の理由があるわけで。

「へぇー、ここがナツミの部屋なんだぁー!」

「ふむ、同年代の女子の部屋というのは初めてだが、思っていた以上に女の子らしい部屋だな。私も見習わなければ」

「素敵なお部屋ですわ」

 そしてその理由たちが、口々に感想を述べていた。……彼女たちがいるのは、夏海の自室である。部屋の印象としては、前述のように女の子らしいと言うべきか。クリーム色の壁紙に、同色のカーペット。白いベッド上にはペンギンのぬいぐるみが置かれ、ガラス板のテーブルを囲むように敷かれた座布団にはペリカンのイラスト。どちらもアメリカ発祥の有名なキャラクターだ。机の上は片付いており、設置されているペン立てや文房具は女子中高生に人気のもの。本棚には少女漫画が並び、姿見の後ろの壁には制服が掛けてある。掃除や整頓が行き届いた、綺麗な部屋である。

「それはどうも」

 部屋の掃除も基本自分でしている夏海としては、部屋を褒められるのは誇らしいものである。けれども、休日のプライベートな時間に、他人が部屋に押しかけてきたことは、彼女にとっては煩わしいことでもあった。無論、昨日のうちに(半ば強引に)彼女から許可を得た上でのことであり、決して突然の訪問ではない。片付けやら諸々の準備やらも済ませてあるのだが、だからといって心置きなく客人を招けるようなことはなかった。何せ、来客はいずれも夏海が苦手意識を持っている人物だったからだ。

「それで、どういう風の吹き回しなんです、部長? 突然女子会だなんて」

 微かに覚える頭痛を堪えながら、今回の集まりの主催者である黒原秋姫に尋ねる夏海。……そう、女子会である。女子たちが集まって、お菓子を摘みながらお喋りしたりする催しである。昨日の部活中、秋姫が唐突に企画してきたのだ。しかも、場所は夏海の家。夏海も最初は渋ったものの、秋姫の強い要望と、「女子会? やってみたい!」と乗り気になったメルティや、何故か部員ではないシスティまでもがやって来て参加の意思を表明し、結局彼女たちに押し切られるようにして承諾したのだ。

「いや何、一度くらいはこういうことをやってみたくてな。折角だから、後輩たちとも親睦を深めておこうかなと」

 そう話す秋姫がばつが悪そうに見えたのは、果たして夏海の気のせいか。……他の二人ほどではないが、夏海は秋姫にも苦手意識を抱いている。とはいえ、その理由は単純に付き合いの短さ故なので、彼女の言うように親睦を深めるのは悪くないようにも思える。他の二人さえいなければ。

「お菓子持って来たよー!」

「わたくしもですわ」

 メルティとシスティが、持ち寄ったお菓子をテーブルに並べる。ポテチやチョコ、マシュマロなどの菓子類と、秋姫が持参した各種ジュースが所狭しと並べられ、いかにも女子会という感じだ。

「はぁ……仕方ないか」

 準備は万端。ここまで来て、今更駄々を捏ねるのも躊躇われる。夏海は諦めたように嘆息した。

「では、オカ研’s女子会withシスティさん、これより開始だ!」

「いぇ~い!」

「ですわ~!」

「……はぁ」

 部屋の主を取り残して、女子会はハイテンションな雰囲気で始まるのだった。



「そういえば、メルティ君は春彦君と一緒に暮らしているんだったな」

「同棲という奴ですわね」

「うん~」

 お菓子を摘みながら、ガールズトークに花を咲かせるメルティたち。話題は、メルティと春彦の同居について。秋姫は知っていたが、システィに話すのはこれが初めてだった。……メルティは同棲という言葉を正しく理解しているとは言い難いので、システィの言葉を訂正することはなかった。

「……ふん」

 そんな会話を、夏海は不機嫌そうに聞いていた。……彼女は未だに、メルティと春彦の同居に納得していない。だというのに、その話を目の前でされているのだ。不機嫌にもなる。

「ナツミ様とハルヒコ様は幼馴染だと聞きましたわ」

「それが何か?」

「色々とお話を伺いたいですわ」

 すると、春彦について話を振られる夏海。幼馴染ともなれば、他人が知りえないようなことも沢山知っているだろう。積み重ねてきた時間の分だけ思い出がある。それは幼馴染だからこそ得られるもので、他人が羨み、話を聞きたがるのも無理ないのかもしれない。彼に興味がある人間ならばなおさらだろう。

「嫌」

 だが、夏海はそれを素っ気無く突っぱねた。

「どうしても駄目ですの?」

「駄目」

 それでも食い下がってくるシスティに、夏海はにべもなく告げた。……彼女にとって、春彦との思い出は、彼女自身のものだ。大切な思い出なのだから、独り占めしたいし、自分から他人に話すようなことはしたくないのである。

「ふむ……松山さんは、春彦君のことが余程大事らしいな」

「……否定はしませんけど」

 秋姫の言葉を受けた夏海は、認めるのは不本意だと言わんばかりの口調で答えた。それでも、あくまで肯定する彼女に、秋姫は苦笑を隠せなかった。

「ハルヒコ様のこと、お好きなのですか?」

 そんなやり取りを見て、システィは夏海にそう尋ねた。すると今度は露骨に顔を顰める夏海。

「なんでどいつもこいつも……男子と女子が仲良くしてたらすぐにそうやって恋愛にもっていこうとする。そういうの、ほんとに不愉快なんだけど」

 憎からず思っていることは否定しないが、恋愛感情を疑われると不快に思う。なんてことはない、ただの幼馴染に対する、普通の反応である。

「相変わらずツンデレだね」

「ツンデレ幼馴染ですわ」

「ツンデレ言うな! デレ要素なんてないし!」

 だがメルティたちは、そんな夏海の心情をツンデレで片付けてしまう。……これは相性が悪いわけだ。彼女たちを見て、秋姫はそう思った。メルティたちは図太いというか、夏海の態度が悪くても気にしないが、同時に彼女の神経を逆撫でしてしまう。自分の気持ちを理解してもらえなかったり、勝手に決め付けられるのは、誰だって快く思わないものだ。

「ったく……やっぱ、あんたたちとは仲良く出来そうにないわ」

 それでも、普段の夏海はちゃんとしている。メルティを苦手としつつも、部内の雰囲気を悪くしない程度には良好な関係を維持しているのだから。けれど、我慢にも限界というものがある。システィが加わったことで、いつもより負担が大きいのもあって、夏海の不満は爆発寸前だった。

「ま、まあ、春彦君を恋愛対象に見れないというのは分からないでもないな」

 このままでは、折角の女子会が台無しになりかねない。秋姫は仲裁も兼ねて、夏海の意見に賛同した。

「確かに彼は良い後輩だが、付き合うとなると、ちょっと違うというか」

「そう! さすが部長! 分かってる!」

「あ、ああ……」

 すると、夏海がそれに食いついた。散々メルティたちに不本意なことを言われたためか、フォローしてくれた彼女を嬉しく思ったのだろうが、肝心の秋姫は若干引き気味だった。

「あいつったら、昔からデリカシーがないっていうか、私のことを女の子として見てないんですよね。男子相手と同じように平然と下ネタ振ってきたり、私の前で平気で着替えたり……小学生のときに「生理来たってマジ?」って聞いてきたのと、中学のときに彼氏が出来て根掘り葉掘り聞こうと質問攻めにしてきたことは未だに許せん」

「それはその、さすがにあれだな……」

 夏海の愚痴に、秋姫の中で春彦の評価が何段階か下がった。……とはいえ、それらは全て子供の頃の話であり、彼も反省しているので、今は同じことをしたりしないのだが。それを秋姫が知ることはないのだった。

「そういうわけだから、ツンデレとかあり得ないの。分かった?」

「えー?」

「そういうところもツンデレみたいですわ」

「違うってば!」

 一方で、メルティとシスティは相変わらずで。そんな風に、女子会は良い意味でも悪い意味でも盛り上がったのであった。

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