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幼馴染は心中複雑


  ◇



「夏海、ちょっといいか?」

 放課後。俺は夏海を呼び止めていた。彼女と話をするためだ。

「何ー?」

「話がある」

「ハルヒコ?」

 夏海は丁度、メルティや冬樹、システィさんと一緒に部室へ向かおうとしていた。システィさんは黒原先輩に挨拶をしに行くとのことだ。……そのまま入部したりしないよな?

「メルティたちは先に行っててくれ。すぐに行くから」

「えぇ~? でも……」

「ほらほら、行こうぜ。どうせすぐ来るって」

 渋るメルティの背中を冬樹が押す。……冬樹には事前に事情を話しておいたので、協力してくれたのだ。

「部室で待っててくれよ」

「分かった……」

 不承不承ながら、と言った様子で、メルティはみんなと一緒に部室へと向かった。

「……それで、何さ? 話って」

 メルティたちがいなくなって、夏海が若干不機嫌そうに尋ねてくる。俺が何を言いたいのか、薄々察しているのだろうか?

「その前に、場所を移さないか?」

「分かった」

 教室にはまだ他にも生徒がいる。このままでは話しづらいので、移動することにした。



「この辺でいいか」

 俺たちがやって来たのは、屋上の入り口前。屋上は扉が施錠されていて生徒は立ち入れないが、階段を上れば入り口までは来れる。こんなところまで誰もやって来ないだろうし、丁度いいだろう。

「で? 結局何の用なの?」

 改めて、夏海が用件を尋ねてくる。……ここは回りくどく言っても駄目だろうし、単刀直入に行こう。

「夏海、システィさんに対してきつく当たるのはどうしてなんだ?」

「……別に、そんな風にしてるつもりはないけど」

 俺の問いかけに、夏海はばつが悪そうに顔を背けた。……口では否定してるけど、ちゃんと自覚はあるみたいだな。いつの間にか彼女の性格が歪んでいた、なんてことはなさそうだ。その点については一安心。

「まあ、システィさんは気にしてないみたいだけど……どうしたんだよ? 前はあんな態度取ることなんてなかっただろ?」

「……何さ」

 続けて問い掛けると、夏海はぽつりと呟いた。

「え?」

「私の、何を知っているって言うの!? 勝手なこと言わないで!」

 そして突然、声を荒げてそう言う。あまりのことに、俺は呆然として言葉を失った。

「……ふん」

 それだけ言って、夏海は立ち去った。あいつがヒステリーを起こすのは稀にあったけど……あの台詞はなんだったんだ? 夏海とはそれなりに長い付き合いだけど、あんな突き放すようなことを言われたのは初めてだった。

「……なんかミスったかな」

 だが、対応を誤ると機嫌が悪くなるのは前からだ。今回も、何か間違えたのだろう。俺はそのくらいに考えて、部室へと向かうのだった。



  ◇



「まずったな……」

 それから数日後、夏海の態度はより悪化していた。いや、悪化なんてもんじゃないか。

「ねっ、ナツミ。見て見て」

「ん? これ、ただの流れ星じゃないの?」

 部活中、メルティと夏海は天体写真を漁っていた。これもオカ研の活動の一環で、UFOの痕跡をこうやって探すのだ。

「そうかなー?」

 正直、面倒な作業ではある。目ぼしい成果が出ないことのほうが多い。黒原先輩はネットの情報も併用していたけれど、それでも中々有益な手掛かりは得られない。けれど、メルティは毎日楽しそうだった。念願の部活動だからというのもあるだろうが……宇宙人の調査は、彼女にとっては自身のルーツを探すことでもある。だからこそ、やりがいを感じているのだろう。

「さっきも似たようなのあったじゃん」

 そんなメルティに、夏海は普通に接している。時折悪態を吐くこともあるが、こちらは前より多少は改善している。俺の話を聞いて……というよりは、単純に慣れによるものだろう。なんだかんだで、自分に好意的に接してくる相手を邪険に扱い続けるなど無理なのだ。

「大丈夫そうだな、あの二人」

 そんな彼女たちを見て、冬樹はそう漏らした。確かに、そっちは解決したと言ってもいいのかもしれない。少なくとも、メルティとはうまくやっていけそうだ。まだシスティさんとのこともあるし、また同じことが起こらないとも限らないが……それよりも深刻な問題が浮上したのだ。

「……で? まだ夏海と口利いてないのか?」

「ああ……」

 夏海と話をしたあれ以来、夏海は俺と会話をしなくなった。部活にはちゃんと出てるし、他の人にはいつも通りなんだが、俺との会話は徹底して避ける。こちらから話し掛けても無視するか、逃げられる。

「なんか怒らせたのか?」

「だと思う」

 夏海がこうなることはたまにある。大抵は俺が彼女を怒らせたときだが……今回の場合は、この前話したことが原因だろうか?

「やっぱあれが原因だと思うんだけど、何であれで怒ってるのかが分からん」

 冬樹には、夏海と話したときのことは言ってある。だから恐らくそれが理由だろうとは答えたものの……正直、本当にそれで彼女が怒っているのかは疑問だった。そりゃ、説教をされて喜ぶ人間はそういないだろうが、夏海だって子供じゃないんだ。自分の行いを咎められただけでここまで不機嫌になるとは考えにくい。とはいえ、他に心当たりもないんだが。

「そっか。頑張れよ」

「冷たいな、おい」

「夏海との付き合いは俺よりお前のほうが長いだろ。そんなお前に分からんことを俺が分かるわけない」

 悩む俺に、冬樹は突き放すようなことを言った。……確かにこれは俺の問題だ。けれど、怒った夏海と仲直りするのは容易ではない。せめてきっかけくらいはないと難しい。

「ま、俺からは頑張れとしか言えないな。自分の尻くらい自分で拭けや」

「……はぁ」

 真っ当すぎる悪友の言葉に、俺は溜息を漏らすことしか出来なかった。



「……これは、私がなんとかしなければならないようだな」

 そんな彼らを見て、部長の黒原秋姫は危機感を覚えた。……後輩が出来て、部活も賑わい、彼女の生活も充実してきた。最初こそ煩わしかった新入部員も、今では可愛い後輩だと思えるようになった。更には進路についても一定の目処がついて、後は受験勉強をしつつ残りの高校生活を謳歌するだけだった。そんな矢先、後輩たち―――正確にはうち二人だが―――が険悪になってしまったのだ。

「とはいえ、どうしたものか……」

 だからこそ、部長である自分が対処しなければと思ったのだが……生憎と、彼女は人付き合いが得意なほうではない。まして、仲違いした幼馴染を仲裁するなど、難易度が高すぎる。

「こうなれば、頼れるものは何でも頼るしかないか」

 こういうとき、頼れる人物を、彼女は一人しか知らない。幸いにも、その人物とは最近、連絡先を交換している。早速、相談のメッセを送った。

「おっ、もう返事が……ふむ、なるほどな。そういうのもあるのか」

 早速届いた提案に、彼女は感心したように頷き、問題解決のための企画を考えるのだった。

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