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親馬鹿と馬鹿は紙一重


  ◇



「それで、話というのは?」

 週明け月曜の昼休み、俺は黒原先輩と会っていた。場所はオカ研の部室。……部活のときでも良かったけど、夏海たちに隠れて話すのは難しかったので、今の時間と相成った。

「メルティのことについてですよ。話すって約束だったでしょ」

「そうか……律儀なんだな。私はてっきり、ずるずると引き延ばした上で有耶無耶にされるんじゃないかと思ったぞ」

 先輩の発言に、俺は若干呆れてしまう。……そんな不義理を働くように思われてたのか。確かに、そのほうがこっちには都合がいいけど、口止めが出来てないからリスクも大きいんだよな。やっぱり、こういうことはちゃんとしておくに限る。

「それはそれとして……その、それは一体どういう?」

「これはその……色々事情があるんで、気にしないでもらえるとありがたいです」

「あ、ああ……分かった」

 先輩が目線を向けているのは、俺の右腕に抱きついているメルティだ。……先日、彼女と和解してから、ずっとこの調子だった。学校が始まっても、授業中以外はずっとこの調子である。お陰で、クラスの女子たちは大騒ぎで、男子たちからは嫉妬と殺意の視線を浴びせられた。これからの学園生活が不安で仕方ない。

「?」

 自分のことを話していると気づいたのだろう。メルティがきょとんとしながら首を傾げる。そんな仕草が一々可愛らしいけど、今は愛でている場合じゃない。

「メルティ。先輩に見せてやってくれ」

「うん!」

 事前に打ち合わせたとおり、俺は彼女に指示を出した。メルティは右手を俺から離すと、腕の先を触手に変化させる。

「……やはり、常人ではないみたいだな」

 その光景を目にして、先輩は驚きながらも冷静な様子だった。前に一度見ているからだろう。

「メルティの父親は俺の叔父さんです。でも―――母親は、宇宙人です」

「……!?」

 だが、俺の言葉には、さすがに動揺したようだ。当然だろう……何せ、先輩が今まで探し続けていた宇宙人の身内が、身近なところにいたのだから。

「メルティのこの能力は、宇宙人である母親から受け継いだものです。普段は隠してますけど」

「そう、だったのか……」

 先輩は未だに衝撃から立ち直れていない様子だった。……とはいえ、こちらの本題はここからだ。先輩には悪いけど、畳み掛けさせてもらおう。

「それで、先輩にお願いがあるんです」

「お願い、だって……?」

「はい。メルティのサポートを手伝ってくれませんか?」

 俺は先輩に事情を説明する。メルティが実は三歳児であり、人間社会に不慣れなため、色々フォローしなければならないこと。けれど、俺だけでは手が回らないため、先輩にも助力を頼みたいと。

「なるほど。他ならぬ後輩の頼みだ、聞いてやりたいのは山々なんだが……」

 荒唐無稽な話ではあったが、先輩はこちらの事情を理解してくれた。けれど、予想していた通り、先輩の反応は芳しくない。……当たり前だ。先輩からすれば、衝撃的な事実の連続だ。戸惑うのも無理ないだろう。まして、宇宙人の話を持ち出されれば、心穏やかではいられまい。

「……すまない。少し考えさせてくれないか?」

「分かりました」

 結局、先輩はそう言って引き下がった。……先輩にも、少し考える時間が必要だろう。無理に結論を出させるのは得策じゃない。

「それじゃあ、先輩。話は変わるんですけど」

 だから俺は、別の用件を切り出すことにした。

「今週末、予定空いてます?」



  ◇



「ウェルカーム!」

「……」

 ハイテンションな叔父さんを前に、圧倒されているのは黒原先輩だ。……週末、俺は先輩を家へと招いた。うちには叔父さんがやって来ていて、いつもの調子で先輩を出迎える。

「いやー、君が噂の黒原先輩かー! 僕がメルティの父親だよー! 娘と甥っ子がいつもお世話になってるねー!」

「ど、どうも……」

 叔父さんのテンションに、初対面の人がついていけるわけもなく。案の定、ドン引きしてしまっている。これはちょっとまずいな……。

「叔父さん、ちょっとは抑えてよ」

「すまないねー! 現役JKと聞いて舞い上がっちゃってさー!」

 一応注意してみるけど、叔父さんに反省の色はない。……現役JKとか言うなよ、おっさん臭い。大体、あんたの娘も現役JKだろうが。

「あー、えっと、申し訳ないです先輩」

「い、いや……君が気にすることじゃないさ」

 いたたまれなくなって、俺は先輩に頭を下げた。先輩はそう返してくれるけど、早くも帰りたそうにしている。……早速、先輩を招待したことを後悔してきた。こんなことのために呼んだんじゃないんだけど。

「さて、挨拶も済んだことだし、込み入った話は座ってしよっか」

 叔父さんはそう言うと、先輩を食卓へと招く。……現在、我が家にいるのは俺と叔父さんと先輩だけだ。両親とメルティは買い物に行ってる。別にメルティがいても良かったんだけど、叔父さんが遠ざけたのだ。曰く、「父親が裏で頑張っている姿を見られるのは恥ずかしい」とのことらしい。この叔父さんに羞恥心があるとは、意外な発見だ。出来ることなら、その羞恥心をもっと別の場所で発揮して欲しかったな。

「それでなんだけど、うちの娘については聞いているかな?」

「は、はい……」

 叔父さんの問いかけに、先輩はオドオドしながら答えた。叔父さんの言動があれすぎて、完全に怯えてしまっている。大丈夫なんか、これ……?

「先輩、大丈夫ですよ。叔父さんはこんなどうしようもないろくでなしですけど、一応これでもちゃんと分別はあるんで」

「春彦君、その言い方はちょっと失礼じゃないかなー?」

 俺のフォローに、叔父さんが不服そうに抗議してくる。とはいえ、そもそもの元凶が叔父さん自身の言動なのは事実なんだから、少しは反省して欲しい。

「っと、話が逸れたね。今日来てもらったのは、改めてお願いするためなんだ。これでも一応、メルティの父親だからね」

 そうして、ようやく本題へ。話の内容は、先日先輩に依頼したこと―――メルティのサポートについてだ。態度を決めかねていた先輩を再度説得するのが、今日の目的である。

「そ、それは……」

 けれど、先輩の反応はやはり芳しくない。無論、これは叔父さんがどうとかって意味ではなく、彼女自身がまだ決断できていないからだ。いや、寧ろ先輩の中では否よりなのだろう。ここから説得するのは、叔父さんくらいの強引さがないと難しい。

「勿論、相応の見返りは用意させてもらおうよ」

「見返り……?」

「ああ。例えば―――」

 叔父さんはそこで言葉を切り、勿体つけるようにしてから、こう続けた。

「僕が勤めている大学に宇宙人研究をしている教授がいるんだけど、彼の研究室に入れるように口利きしてもいいよ」

「!?」

 叔父さんの言葉に、先輩は驚愕した。……先輩の夢は宇宙人について研究すること。それを考えれば、叔父さんの申し出はとても魅力的だろう。

「宇宙人の研究をするのが夢なんだよね? さすがに裏口入学の手配はできないけど、そのくらいならできる。彼の研究は日本では一番進んでいるし、志願者もそれなりにいるから、競争率も高いしね。どうかな? 悪くない条件だと思うけど?」

 叔父さんは有名大学勤務だ。優秀だから出勤は免除されているらしいけど、それでも人脈くらいはあるのだろう。そして、その教授とやらも、その筋では有名人らしい。

「……どうして、そこまでするんですか?」

 叔父さんの出した条件に、黒原先輩は疑問を口にした。メルティのサポートは確かに楽ではないが、提示されている報酬に比べれば大したことはない。少なくとも、先輩からすれば、釣り合いが取れてるとは言い難いのだろう。

「そこまで、ね。……そうだね。やっぱり、親馬鹿ってことなのかな」

 問われて、叔父さんはそう答えた。確かに、叔父さんは明らかに親馬鹿だろう。メルティに英才教育を施し、高校に入学できるよう根回しをして、うちの両親に下宿の打診をして、今もコネを駆使してまで彼女のフォローをしている。そこまでする親なんて、俺の両親は当然として、余所にもそうそういないと思う。

「つまりさ、僕はメルティのために全力を尽くしているんだよ。娘のためなら何でもするし、何でも利用する。それ以上でも以下でもない。ああ、勿論、君の不利益になるようなことはしないよ。約束する」

「そう、ですか……」

 叔父さんの言葉に、先輩は何を思ったのか。……叔父さんは変わり者だ。けれど、決して悪人ではない。独自の思考回路を持って、自分の価値観に沿って行動しているだけで、根っこのところは善人である。寧ろ、普通の人よりお人好しかもしれない。それが、今の会話で先輩に伝わっているといいんだけど。

「分かりました。この話、お受けします」

「そっか。ありがとう、助かるよ」

 どうやら、先輩には無事に伝わったらしい。交渉もうまく纏まって良かった。……一時はどうなることかと思ったけど。

「じゃあ、メッセのアカウント交換しようか。メルティをお願いする以上、色々連絡を取らないといけなくなるだろうし。いやー、現役JKとメッセのやり取りするの夢だったんだよねー」

「え、えっと、その……」

 と思ったのも束の間、叔父さんは最初のテンションに戻って、先輩に馴れ馴れしい口調で迫りだした。先輩も、また表情が引き攣っている。……ほんと、余計なことさえ言わなかったら、丸く収まってたのに。

「叔父さん、アリシアさんに言いつけるよ?」

「ちょ、春彦君! それだけは勘弁だよ! アリシアって、ああ見えて結構嫉妬深いんだから!」

 とりあえず、折角先輩がやる気になってくれたんだ。翻意される前に、叔父さんにはちゃんと釘を刺しておかないと。

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