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理恵ちゃん泣かないで  作者: ミスターT
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鳥のおじいちゃん

 インターフォンを鳴らすと、すぐに、おじいちゃんが出てきた。年齢を聞いたことはないが、多分70歳くらいだと思う。70歳くらいなのに、背筋はピンとして、腕とかの筋肉もいっぱいある。だけど、髪の毛は、ほとんどない。昔、警察官だったそうで、目つきが鋭く、一見怖そうな感じのおじいちゃんである。でも、僕には、いつもニコニコしてくれる。

『こんにちは。』

『おや、洋介君じゃないか。どうした? ん?後ろの女の子は彼女かい?』

『ち、違いますよ。』

僕は、きっぱりと否定した。僕には彼女などいない。女子が苦手なのだ。だから、好きになった女子などいたことない。

『この人は、僕の同級生で、幼馴染の理恵さんです。あのー、聞きたいことがあって来ました。』

『初めまして、佐藤理恵と申します。当然の訪問をお許しください。小鳥のことで教えて欲しいことがあります。おじいさんは、鳥のことが詳しいと、洋介君に聞いたので。お願いします。』

理恵は、深々とお辞儀をした。同級生なのに、理恵はしっかりしている。僕とは全然違う。理恵はハンカチを開き、雛を差し出した。雛はハンカチの上で震えていた。

『ははあ、スズメの雛だな。だいぶ弱っているのお。それで、これをどこで見つけたのかな。』

『すぐそこの桜並木の歩道です。木の根元で震えていたのを見つけました。』

僕が答えると、おじいちゃんは腕を組んで、雛を見つめていた。何か考えているようだ。

『洋介君、君はいくつになった?』

『13です。』

『そうかあ。随分と大きくなったんだなあ。ついこの前、生まれたばかりだったのに。わしも歳をとるはずだ。二人とも、中学生なのかな。だったら、誤魔化さずに、正直に話した方が良いだろう。あのな、普通、スズメの雛は親鳥なしでは育たない。残念だけどな。』

おじいちゃんの言葉で、理恵の目が赤くなっている。この時、なぜか、僕は父さんの言葉を思い出した。


『、、、男は優しくなければいけない、、、』


 僕は、何とかしないといけないと思った。

『おじいちゃん、今、普通って言ったよね。だったら、助けられる場合もあるってことだよね。お願いです。どうすれば、助けられるのか教えてください。』

僕は、つい大きな声を出してしまった。その声に、おじいちゃんは、にこりと笑った。

『洋介君は、優しいのお。確かに不可能ではない。難しいことだがな。野生の鳥を人が育てるのは、極めて難しい。』

『だったら、ぜひ育て方を教えてもらえませんか。』

おじいちゃんは、また、腕組みをして考え始めた。

『一つ、約束をしてもらえんか?』

『約束ですか。どんなことですか?』

『少し難しい話になるが、日本には鳥獣保護法という法律があってな。野鳥を保護したり、飼ったりすることが禁止されているのじゃよ。つまり、スズメを飼うことは法律違反にあたる。だからの、雛が育ち、大きくなったならば、自然の元に戻すことを約束してくれ。』

僕は、そんな法律があることなど全く知らなかった。言われてみれば、スズメを飼っている人など見たことない。

『はい、約束します。』

僕は、おじいちゃんの目を見て返事をした。おじいちゃんは、優しい目で僕を見ている。

『わしは元警察官。若い君たち二人に、法律を破らせるわけにはいかない。だがの、法律を守ることを優先して、そのスズメの雛の命を見過ごすことより、小さな命を優先する君たちの優しい心が、何より嬉しい。ちょっと待っておれ。』

おじいちゃんは家の奥に入っていった。そして、しばらくすると、小さな箱を手に戻ってきた。

『この箱に、雛用のエサが入っている。これを水に浸して、少しずつ与えてみなさい。』

僕と理恵は、おじいちゃんにお礼を言って、おじいちゃんの家を離れた。


 すぐに、僕の家で、鳥のエサを与えようと思った。もちろん、理恵も付いてきた。その時の僕は、ただ理恵を喜ばせたいと、それだけを考えていたと思う。ところが、理恵がハンカチを開いた時、雛はピクリとも動かなくなっていた。小さな体が硬くなっていた。理恵を見ると、目に涙が浮かんでいた。あの強い眼力の瞳から涙がこぼれた。

 もちろん、生き物が死んでしまうのは、とても辛いことだとは僕だって知っている。だけど、どうして、スズメの雛にこだわっているのか。この時は全く分からなかった。

『おじいちゃんの言ってたことが当たっちゃったね。悲しいけど、仕方ないよ。』

僕は慰めるつもりで、そう話したが、理恵は黙ったままであった。僕は、いつもの理恵と違うということにやっと気がつき始めた。理由は分からないけど、物凄く悲しんでいることだけは、よく分かった。

『ねえ、理恵。そのスズメの雛だけど、さっきの桜の木の根元に埋めてあげようよ。自然の元に戻そう。僕が手伝うから。』

泣いている理恵が小さくうなずいた。落ち込んでいるのが、痛いほど伝わってくる。僕は急いで物置に入り、小さなスコップを持ち出した。



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