理想のタイプ
僕は榊原洋介。中学1年生だ。自分で言うのも変だが、勉強も運動も得意で、クラスでも人気がある方だと思っている。ただ、女子は苦手だ。上手く話すことが出来ない。というより、何を話していいか、よく分からない。クラスの女子は、父さんが言うような「か弱き生き物」だとは、到底思えない。自分の考えを押し付けて、逆らえばギャーギャー騒ぎまくり、気に入らなければ、先生を味方にする。これが弱い生き物だと誰が言える。むしろ、強いではないか。だから、関わるのは、まっぴらごめんだ。
『榊原、お前はどうなんだ?どういうタイプの女子が好みなのか教えろよ。ちなみに、俺はアイドルの菊池桃香だなあ。まじ可愛いから。』
同級生の山田剛が話しかけてきた。剛とは、部活も同じで、仲のいい友達のひとりだ。
『タイプかあ。うーん、全く思いつかないけど、そうだなあ、月並みだけど、やっぱり優しい子がいいな。』
『もっと具体的に教えろよ。好きな芸能人とかいないのか?』
『テレビを見ていて、可愛いと思うときはあるけど、特に推している女の子はいないよ。』
『ダメだなあ、榊原は。そんなんじゃ、彼女出来ないぞ。好きな子とかいないのか。俺が仲を取り持ってやるよ。クラスの女子で、付き合いたい子って誰だ?』
『同じクラスの女子で?冗談はよせよ。クラスの女子に優しい子なんていないぞ。』
クラスの女子は、ほんと苦手だ。それに、優しさなど全く感じられない。
『だからダメなんだよ。お前は、表面だけしか見てないから。もっと、女子と会話をしてみろ。岡田歩美とか、佐藤理恵とか、結構、可愛いぞ。』
『剛、本気で言ってるのかあ?お前こそ、見る目がないぞ。あの2人のどこがいいんだよ。見た目は悪くないけど、だけど、ただ騒がしいだけの女子だ。』
『つまらん奴だなあ。でも、その気になったら、俺に相談しろよ。そしたら、ダブルデートとか、しようぜ。』
剛が、どこまで本気なのか分からないが、僕のことを心配してくれるのは嬉しい。でも、今の僕には、彼女などいらない。必要性が感じられない。何より、心がときめかない。自分の理想は分からないけど、少なくとも、同じクラスの女子に、理想の子などいない。
部活が終わり、剛と別れ、帰宅を始めた。ありふれた日常である。ところが、この日は、僕にとって特別な日となるのであった。それは、三学期の期末テストが終わり、1年生も、あと数週間で終わる木曜日の出来事であった。