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ナキウサギのぴょんちゃん

作者: んが

春が待ち遠しいナキウサギのぴょんちゃん。

春はまだかと草原のみんなに聞いて回ります。


 まだ寒い、冬の草原。

 ナキウサギのぴょんちゃんは、たったかたったか雪道を走っていました。


「寒いぴょん!」

「ぴょんちゃん、元気だねえ」

 まだ雪の下にいる芽たちが答えます。

「もう寒いのはあきたぴょん。春はまだぴょん!」

「春はまだ冬の途中だよ」

 芽たちはもごもごと土の中から声を出しました。


 ぴょんちゃんは、走ります。

「走っても寒いぴょん!春はまだ?」

「まーだだよ」

 トガリネズミさんが顔を出しました。

「まだまだぴょん?」

「春は、まだだよ。僕の鼻の先っちょがかわいたころ」


 ぴょんちゃんは、もっと森の方に行ってみました。

 岩の上からキツネのおばあさんが声をかけました。

「かわいい子ウサギだねえ」

「春はまだぴょん?」

「春はまだ冬の中に隠れているよ」

「そうぴょん」

 ぴょんちゃんは、がっかりしました。

 おばあさんは、ぴょんちゃんをのぞき込みました。

 ぴょんちゃんは、少し後ろに下がりました。

「私を食べるぴょん?」

 ぴょんちゃんは、岩陰に隠れました。

 まだふんわりと雪が冠っています。

 キツネはケッケっと笑いました。

「見てごらん」

 おばあさんは、ボロボロになった歯をい~っと見せると、

「食べたくても、この歯ではとても食べられやしないよ」

 そういってまたきっきっと笑いました。

「春が恋しいかい?」

「恋しいって?」

「早く来てほしいか、ってことだよ」

「それじゃあ、恋しいぴょん」

「春になったら、ひな祭りをしようと思うんだよ。その時にはお前さんもきておくれ」

「きっと行くぴょん」


 ぴょんちゃんは、雪の上を駆け回りました。

 お母さんのいる岩場に戻ります。

「ただいまぴょん」

「おそかったきょん」

「おなかすいたぴょん」

ぴょんちゃんはお母さんの周りをくるくる回りました。

「岩場の間からおやつを持ってくるといいきょ」

「わかったぴょん」

「周りに気をつけるきょん」

 

 モモンガのもんちゃんが飛んできました。

「やあ、ぴょんちゃん」

「あー、もんちゃん。おはぴょん」

「おはぴょんじゃないよ。もう3時過ぎてるよ」

「間違えたぴょん」

「ぴょんちゃんは、何をしていたの?」

「みんなに春はまだか聞いてたぴょん」

「そうなんだあ」

「そういえば、キツネさんが春になったらひな祭りをするって言ってたぴょん」

「キツネだって!ぴょんちゃん、食べられてしまうよ」

「大丈夫だぴょん。おばあさんの歯はボロボロだったもん。食べたくても食べられないぴょん」

 ぴょんちゃんが、もんちゃんと楽しくおしゃべりしていると……


 ふわり

 音もなく、フクロウが飛んできました。

 ぴょんちゃんをがしっとつかみます。

 もんちゃんは、あわててぴょんちゃんの体にぶら下がりました。

「ぴょん~~~」

「二匹捕まえたほうー」

「ふ、ふ、フクロウさん、ど、ど、どこに連れて行くぴょんー」

 ぴょんちゃんが震えながら聞くと、

「もちろん、うちに連れて行くのさほー」

「う、うちに連れて行ってどうするぴょん?」

「それはもちろん、うちの子のご飯にするのさほー」

 ばさっばさっとフクロウが大きく羽を動かします。

 もんちゃんは、腕が痛くて気を失いそうでした。

「今日は、ラッキーだよ。こんなおいしそうなナキウサギを捕まえたかと思ったら、モモンガまでくっついてきたんだからねえ。ほうっほうっ」

「ぴょ、ぴょんちゃん。ぼ、ぼく……。う、腕が抜けそうだよ」

 もんちゃんの小さな手がプルプル震えています。

「もうだめだー 落ちるー」

 もんちゃんの手がずるっと抜けそうになりました。

「フクロウさん! もんちゃんが落っこちちゃう!」

「うるさいナキウサギだねえ。モモンガは食べにくいから、落ちても構わないよ」

「なんてひどいフクロウぴょん!こんなフクロウなんて、えいっ えいっ」

 ぴょんちゃんは、フクロウの爪にかみつきました。

「ナキウサギがかじったってちっとも痛くないよ」

 フクロウは、ほうっほうっと鳴きました。

 ぴょんちゃんは、首をねじってフクロウの柔らかそうな足の部分を探しました。

 ちょっと首をねじれば噛めそうです。

「もんちゃん、もうちょっと頑張るぴょん!」

 がぶり、ぴょんちゃんはフクロウの足をねらいました。

「いたたた……」

 フクロウは、ぴょんちゃんを落としてしまいました。

「あれぴょんーーー」

「落ちるーーー」

 こそっ

 二匹は運よく枯れ枝に引っ掛かりました。


「ん?何か音がしたかい?」

 キツネのおばあさんは、この間森に落ちていた丸くて平たいガラス玉を手に取りました。

 透き通った薄い氷のようでした。

 目に当ててみると、遠くの枝がよく見えました。

 上を見上げると、モモンガとナキウサギが木の枝に引っ掛かっています。

 ぴくりともしません。

「あれま、木の上にモモンガとナキウサギがいるよ」

 おばあさんは、目を丸くしました。

 よっこらしょ、と腰を上げると

「おーい、タカオ」

 と口笛を吹きました。

 ばさり、と鷹が舞い降りました。

「はーい、なんですか。こんばあさん」

「木の上にモモンガとナキウサギが引っかかっているようなんだよ。助けてあげておくれ」

「合点承知の助」

 鷹はヒューっと木の上に舞い上がりました。

「おい、モモンガ、ナキウサギ」

 口先で軽くつつきました。

「うん……」

「ぴょん……」

 二匹は目をあけました。

「あれれ」

「ここはどこぴょん!」

「ここは、木の上だ。」

 鷹が、羽をたたみました。

「怖いぴょん」

「お前さんたち、どこから来たんだ」

「僕たちは、あっちの岩場から来たんだ。フクロウにつかまって連れ去られるところだったんだよ」

「そうだぴょん。フクロウのエサにされるっていうから、足を噛んだら離したぴょん」

「勇敢だな」

「僕たちは、こう見えたって勇敢なんだよ。ね、ぴょんちゃん」

「そうだぴょん。ぴょんちゃん、もんちゃんが落ちそうだったから助けたぴょん」

 二匹は得意げにうなずきました。

「勇敢なナキウサギさんたち。たまたま枝に引っ掛かったからよかったけど、場所が悪かったら下に落ちて頭を打っていたぞ」

 ぴょんちゃんともんちゃんは、しゅんとうなだれました。

「ほら、下を見てみろ」

 キツネのおばあさんが、豆粒みたいに小さく見えました。

「さっきのおばあさんだぴょん!」

「え?さっき話していた?」

「そうだぴょん。おばあさんが助けてくれたぴょんね」

「そうなんだあ」

 もんちゃんは、感心しました。

「それにしても、モモンガは飛べるはずなのにどうして飛ばなかったんだ?」

「だって、僕まだそんな遠くまで一人で飛んだことないんだもの」

「まだ子供だものな。だけど、お前さんたちを見つけたのが、こんばあさんとおれ様で本当によかったぞ。他のキツネや鷹に見つかってみろ。あの世行きだぞ」

「あの世って何ぴょん?」

「天国か地獄だよ」

「天国って?」

「ぴょんちゃんは、ちっちゃいからなにも知らないんだね」

 もんちゃんは、あきれた顔でぴょんちゃんを見つめました。

「死んじゃうってことだよ」

「死ぬって?」

「お父さんやお母さん、森のみんなにもう絶対会えなくなっちゃうこと」

「そんなのやだぴょん!やだぴょん。うわーん」

 ぴょんちゃんが泣き出しました。

「ほれ、つかまれ」

 鷹は、二匹を背中にのせました。


「お嬢ちゃん、また会ったね」

 キツネのこんばあさんは、やさしく二匹に話しかけました。

「おばあさーん」

「怖かったぴょん」

 もんちゃんとぴょんちゃんは声を上げて泣きました。

 こんばあさんは、二匹をぎゅっと抱きしめます。

「それにしても、なんだって木の上にいたんだい」

「フクロウに連れ去られていく途中で、勇敢にもナキウサギがモモンガのために戦って下に落ちたようです」

「おやまあ、勇敢なお嬢ちゃんだね」

  おばあさんは、もう一度ぴょんちゃんをじっくりと眺めました。

「首のところに傷がついているよ。血は出てないようだね」

 こんばあさんは、自分の舌でナキウサギの首をなめてあげました。

「首……。スカーフ落としたぴょん」

「モモンガの方は、大丈夫そうだね」

  おばあさんは二匹を隅々まで確認すると、ほっと木の幹にもたれかかりました。


 ぴょんちゃんのお母さんは、お父さんにぴょんちゃんが帰って来たか尋ねました。

「さっき、岩場にいるのは見かけたけど……」

「遅すぎない?」

 二匹は、顔を見合わせました。


 ぴょんちゃんのお父さんとお母さんは、岩場に行ってみることにしました。


 岩場のところまでくると、ぴょんちゃんの足跡とみられるものと別の足跡が残っていました。

 二匹とみられる足跡は、途中でなくなっていました。

 ぴょんちゃんのお母さんは、はっとほおに手を当てます。

「もしかしてぴょんちゃん……」

 空を見上げました。

  お母さんは、ダダダっと見晴らしの良い雪道を猛スピードで森の方へかけていきます。

 お父さんも後を追いかけます。

 トビがぴーひょろろ、お母さんの近くに来ました。

「トビさん、トビさん、うちの子を見かけなかったきょん?」

「ナキウサギの子かい?フクロウに連れて行かれるのを見たよ」

「フクロウ?ぴょんちゃん!」

 お母さんは、まわりを確認もせずに岩場を走り続けました。

 お父さんが時々お母さんを岩場に引き込みます。

「あの子ったら、あんなにフクロウには気を付けなさいって言ったのに……」


  仲良しのフクロウの福さんが声をかけて来ました。

「ぴょんちゃんのお母さん、血相変えてどうしたの?」

「ぴょんちゃんが……。さらわれたきょん!」

「えっ、誰に?」

「フクロウにさらわれたらしいきょん」

「フクロウですって?あの性格の悪い、クロかね」

「わ、わからないきょ。と、トビさんが、フクロウに連れ去られているぴょんを見たって……。はっはっ……」

 ぴょんちゃんのお母さんは、息が苦しくなって来ました。

 お父さんが、お母さんに鼻を近づけます。

「ぴょんちゃんママ、私と一緒に探しましょ」

 フクロウの福さんは、ぴょんちゃんのお母さんをひょいっとつかみました。

「お父さんも一緒に。う、重い……」

 福さんはおなかに力を入れました。

「あんなおチビちゃんを捕まえるとしたら、クロしかいないわ。クロのうちはあっちの方よ」

 福さんは森の奥の方へ飛んでいきました。

 福さんが木々の間を抜けていくと……

「福さん、待って」

 フクロウは、近くの木にとまりました。

「ぴょんちゃんいた?」

「あそこに……」

 指差した枝には、小さな黄色いスカーフがぶら下がっています。

「下を見て!」

 下を見ると、キツネと鷹がいるのが小さく見えました。

 なんと、その間に挟まれるように黒い二つの生き物が見えます。

「ぴょん……」

 ぴょんちゃんのお母さんの体が小刻みに震え始めました。

「きょんさん、きょんさん、しっかりして」

「おい、お母さん、大丈夫か?」

 お父さんも、声をかけました。

 フクロウの福さんは、そうっと地面に着地しました。

「しっかりして」

 雪をお母さんの顔にかけました。

 お父さんも、お母さんの顔に足を当てます。

「ん、ん……。きょ、ぴょんは?」

「近くにいるわよ。行ける?」

「行くきょん」

「おれも行くよ」

「お父さんは、ここで待っていてちょうだい。たくさんだと目立つから……」

「そうか……。じゃあ福さん、頼んだよ」

「まかせてちょうだい」

「何かあったら、鳴くきょん」

 福さんとお母さんは、キツネのところに向かいました。


「ところで、こんばあさんは、ここで何をしてたぴょん」

「私はね、もうおばあさんだろ。さっき見せたように歯もボロボロだ。今では、エサも思うようにとれない。だから、鷹に頼んで時々エサを持ってきてもらっているのさ」

 もんちゃんは、ぷるるっと震えました。

「じゃあやっぱり、僕たちも……」

「ぴょ!」

「あっはっはっは。だから言っただろ。歯がボロボロだって。お前たちは食べたくても食べられやしないよ。安心しな」

 キツネのこんばあさんは、きっきっと笑いました。

「鷹のタカオが、熊の食べ残しのエサや木の実を細かく砕いて私に食べさせてくれるんだよ」

「そうなのぴょん」

 二匹はほっと胸をなでおろしました。

「もうすぐ春になったら、私も体がだいぶ楽になるよ。そうしたらひな祭りパーティをしたいね、ってタカオと話していたんだよ」

「そうなのぴょん」

 ひな祭りならぴょんちゃんも知っていました。

 人間の女の子が幸せになるようにってお祝いすることだと、前にお母さんが話してくれました。

「僕たちもお手伝いするよ」

「みたことはないけど、なんとなくわかるぴょん」

「私は、昔エサがなくて下まで降りて行ったことがあるんだ。その時に人間の家で見たんだよ。男と女の着物を着た人形が窓の向こうに飾られていたのを」

「知ってる、トガリネズミさんから聞いたことがあるよ」

 もんちゃんが大きな声で叫びました。

「ぴょんちゃんも聞いた!人間の子供が『お雛様』と『お内裏様』の前で歌ったり踊ったりするんだよ!」

「他にも三人のお姫様や五人の男の人形が飾ってあるって、トガリネズミさん話していたよ」

「そうだよねー。ぴょん!」

 二匹は、大きくうなずいています。

「じゃあ、ぴょんちゃんが『お雛様』。もんちゃんは、『お内裏様』になるぴょん」

「えー、僕はずかしいよ」

 もんちゃんが、ぽっと顔を赤くしました。

「ぴょんちゃん、もうお日様が沈んでしまったよ。帰らないと」

「おーい、タカオ」

 こんばあさんが、ぴゅいっと口笛を吹きました。

 

 ナキウサギのお母さんとフクロウの福さんは、そっとナキウサギのお父さんのところへ戻りました。


 明日から、お雛様の準備が始まるでしょうか。

「楽しみだぴょん」

 ぴょんちゃんは、鷹の背中でうとうとしながらつぶやきました。


 

 



















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― 新着の感想 ―
[良い点] 動物たちのほのぼのしつつも波もある日常が上手く描かれていて良いと思いました。 ひな祭りに絡んでいるところも季節感があって良かったです。
[良い点] 優しいタッチの登場する動物たち。でもその中でも良いフクロウと悪いフクロウも出てきて、同じフクロウでも違いがあることが、人間社会でも善人と悪人がいることを暗示していて、より深みのあるお話にな…
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