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9.気が付いたら環境を変えていた

なんとか婚約破棄騒動をごまかしたレオポルド王子だったが、その代償として父であるトリスタン国王から課題が与えられた。

課題がクリアーできなければ廃嫡である。


「五年以内に何らかの成果を上げよ」


というのは


「五年以内に何か国に貢献せよ。」


つまり何らかの国家事業で結果を出せという事である。

どう考えても無理難題だ。

通常、国家事業は十数年かけて行うもので、それも即位してからである。

それが五年以内に結果を出さなくてはならないのだ。


(どうする、これは。)


部屋の中を行き来しながら考えるが良い考えが浮かばない。

異世界で技術レベルが中世程度とは言え転生前は17才、大学の受験生である。

凶悪な姉の手伝いでいくつかの事にはある程度詳しくなったが、国への貢献につなげるほどでは無いと思う。


部屋の中で歩き回っていても良い考えが浮かばない。

同じ歩き回るなら外、それも街に出るべきだろう。

部屋を出ると声をかけてくるものがいる。


「殿下、どちらにお出かけですか?」


ビニスティ・セザール、取り巻き五人の内の一人、伯爵の息子だ。

あの騒ぎから何故か俺によく一緒に行動するようになった。

学者肌である彼には何か思うところがある様だ。



ビニスティと連れ立って街に出る。

流石に王都だけあって道は石で敷き詰められ、車道と歩道に分かれている。

通りの両側には様々な商店が立ち並び人々が行き来する。


街並みは今も変わりつつあるらしく、所々に建築途中の物が存在する。

その中の一つを見てみる。

石組の中に、白い砂(消石灰?)や煉瓦、砂を投入し、時々、水を入れかき混ぜている。


「殿下。どうされましたか?」

建築現場で考え込んでいるのを見て話しかけてきた。

「ビニスティ。あれは何をやっているのだ?」

「ああ、あれはオブスと言われるものです。

水を入れて混ぜることで石の様になるのです。」


この世界にもコンクリートの様な物があるみたいだ。

「だが何故、入れる前に混ぜておかないのだ?」

コンクリートとの違いを聞いてみる。

「オブスは固まるのが早いため、先に混ぜますとうまく入らないのです。」

「ふむ。少しの量を先に作っておいて、その都度投入すると早いと思うのだが・・・。」

コンクリートとは固まる速度が変わらない様に見えるが、もう少し聞いてみよう。


「あと、柱や梁に鉄筋を入れないのか?」

「鉄筋?」

「直径10セントメルトぐらいの太さの鉄の棒だよ。

それを何本か中に入れることで窓を大きくするとか、高い建物を作るとかが出来るようになる。」

そう言うと、ビニスティは驚いた表情でこちらを見ている。

「殿下。それはどの様に使う物なのですか?」


「ああ、柱と梁の中にこんな感じで鉄筋を入れて・・・。」

地面に図を描いてビニスティに説明する。

ふと、気付いた時には昼をまわっていた。


「そろそろ、昼だな。ビニスティ。どこかで食事にするか。」

通りにある食堂で取ることにする。

市民の食事事情を知るのも重要なことなのだ。


食事をしていると路地の奥から饐えた匂いがする。

見ると窓から家の住人が汚物を捨てている。

食事時のこれは問題がありすぎるだろう。


街を歩き回り王宮に帰るとすっかり埃っぽくなっていた。

その上、何となく臭う。

(風呂に入りたい・・・。)


だが、この王宮に風呂は無い。


川で体を洗うか井戸の冷たい水で体を拭く程度。

中身が日本人である俺としては無性に風呂に入りたかった。

しかも、王宮のいくつかの部屋自体が臭い。

トイレが無いためである。

人々はオマルで用を足しているのだ。


「あ、そうだ。課題(国家事業)を風呂とトイレ作りにしよう。」


コンクリートはあるから、水路は作れる。

鉄筋コンクリートならより丈夫なものが出来るだろう。

水は、ラロック川の源流となっているルマン湖から引けばよい。

直接の水路を作ればより多くの水、大浴場も可能だ。

トイレで使う水にもできる。


そう考えて地図に線を入れてゆく。

途中の村々のため池に繋げてれば村からの協力も得易いだろう。


使い終わった後の風呂水の処理も考えなくてはいけない。

トイレの水と一緒にして排水。

そうすると、郊外に処理場もいるな。


あと、風呂といれば風呂釜。

これはビニスティに相談して鍛冶屋に作らせて・・・。


そうそう、石鹸も必要だな。

ガラスがあるから炭酸ソーダはあるだろう。

これとオリーブオイルを使い石鹸を作らせよう。

何ならハーブやバラの花びらを入れても良いな。


かくして、大浴場計画はスタートしたのだ。




大浴場計画をスタートさせて三日後、計画の為の水路の線を描かれた地図を持って、ビニスティが王都の研究所を訪れた。


「主任!これを見てください!!」

「おお、ビニスティ君か。急にどうしたんだ?」

「この地図をご覧ください。」

「どれどれ・・・・・おお!!これは!」

主任の驚きの声に研究員たちが集まって来た。


「ルマン湖から王都へ水路の建設ですか。何々それと同時に排水路と処理場の建設もか。」

「それだけでは無いぞ。見たまえ、ルマン湖での取水位置を。」

「・・・これは、ルマン湿地帯!そうか、湿地帯を通ることで灌漑も兼ねているのか!」

「その上、山岳よりを通るルートにした上、途中の村に給水を行うのだ。」

「素晴らしい!山岳の村は水不足が多く発生しますからな。」


「まだあるぞ。排水路は王都の中央を通り、各家々からの排水を集め処理場に送るのだ。」

「すると、王都のし尿処理なども?」

「ふむ、王都の各所にトイレを設置して排水する計画だ。」

「ならば、王都の衛生事情も格段の改善が期待できます。」


「だが、この水路の建設には問題がありますね。」

「それについてはこちらを」

ビニスティは自分の書いた書類を提示する。


「オブスを少量ずつ先に作ることで、出来上がりを均一化するのか。」

「しかも内部に鉄の棒を入れることで割れやすい特性を補強する!」

「して、これはいったい誰が?」

「レオポルド王子です。」

「なに?」

「先ほどのオブスの改良や鉄の棒を入れることも王子の発案なのです。」


「何と言いう発想!何という慧眼!」

「主任!」

「これは我らが総力を持って協力せねばならぬな。」


と、王子の知らぬ間に環境改善されてゆくのであった。


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