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7.気が付いたら別の頂上を目指していた

コゼット・オーランシュは愉悦に浸っていた。


自らの周りには見目麗しく身分の高い殿方が六人もいる。

それは、この学園に来た目的が達成されつつあることを意味していた。


コゼットは辺境の男爵の娘である。

跡継ぎに年の離れた兄がいる。

よって、家の力を維持もしくは大きくするためどこかに嫁に行くほかはない。

男爵家の娘に生まれた以上、それは避けられない事と言えた。


(だけど私はこのままで終わる気はありませんわ。)

そう考えたのはいくつの時だっただろうか?

辺境男爵の嫁入り先など同じ男爵か良くて子爵か伯爵が限度だろう。


同年代の貴族ならまだしも、年老いた貴族の後添えになったら、人生終わったも同然だろう。


そんな人生はお断りである。


生まれてきた以上、頂点を目指す。

その為にはあらゆる努力や手段を使った。

中には口を憚れる方法が必要な事もあった。


が、そんなことでコゼットはあきらめない。

躊躇なくその方法を実践する。

望みをかなえる者は自ら行動する者だけであると教えられてきたし、行動してきた。

ターゲットを篭絡する為には義妹さえ利用する。

彼女にとって義妹でさえコマに過ぎない。

人の噂になろうとも、それが真実と判らなければいいのだ。


その甲斐あってか今の状況がある。


(後は王子の婚約者として次期王妃になれば完璧ですわ。)

次期王妃そして王妃となれば頂点に立ったと言えるだろう。

そうなる為の布石は全て打った。

後は仕上げだけである。


卒業パーティに王子たちと六人と共に入場し公爵令嬢を糾弾する。

その後、王子自ら婚約破棄を告げることで締めくくる。

完璧な計画プランである。

その為に、公爵令嬢のやりすぎた指導を少し拡大し、王子には伝えてある。


(さて、わたくしの為のショーの始まりです。)


そして、コゼットは扉を開け王子たちと共に入場した。


しかし、事態はコゼットの計画とは異なる方向に進んで行く。


「ロザリー・ベルレアン公爵令嬢、お前の悪行は全て白日の下にさらされた。

よって、おまえとの婚約を破棄する!」

(はい?)


計画プランでは公爵令嬢の罪状を読み上げから始まる。

それをいきなり、破棄から始まった。

出来れば軽い挨拶から入るべきだと言っておいたのだが覚えていなかったのだろうか?


(でも、この後に罪状を述べれば問題ありません。)

少しの変更で問題は無いはずである。

そう考えた次の瞬間、


スパーン!!


小気味のいい音が鳴り響き、婚約破棄を宣言した王子が張り倒され階段を転がり落ちる。

ロザリーが王子に手をあげたのだ。

(これは思わぬ収穫ですわ!!)


公爵令嬢が王族に手をあげる。

この事だけでも罪は免れないだろう。

<王子に手をあげる様な令嬢は婚約者にふさわしくない。>

そう判断されるだろう。

全ては私の望む方に進んでいる。


義妹のセシリアを見ると、王子を心配そうに見つめている。

そういえば、この子の前で王子は素晴らしい人であるとか、婚約者になることは大変名誉であるとか、繰り返し言っていたことが影響しているのかもしれない。

義妹の中では理想の男性像になっているだろう。

全ては義妹から私が王子を高評価していることを流すために画策したのだが、少しやりすぎたかもしれない。


王子は一向に動き出す様子はない。

このまま王子が返らぬ人となった場合、自分の計画が大幅に狂ってしまう。

計画の是非を心配するその顔が王子を心配するような姿見えていた。

(あ、動きましたわ。)


ヨロヨロと王子は立ち上がった。

取り敢えず大事には至ってないが、何か様子がおかしい。

「・・・最悪だ、最悪だ・・・。」

王子は何か呟いている。


そんな王子の前にロザリー嬢が前に立ち

「では、あなたはそこのコゼット・オーランシュ男爵令嬢を選ぶというのですね。」

涙を浮かべながらレオポルド王子に詰め寄る。


いよいよだ。

王子の宣言と共に私が婚約者となるのだ。

そして、次期王妃となる。


「ふん!コゼットの様な尻軽女ビッチはこちらから願い下げだ!!」


「な!」

思わず目をむくコゼット。

王子は冷めた目つきで

「私が何も知らないと思っていたのか。

フェリクスやジョエル、セザール、リシャールと関係を知らないとでも?」

と糾弾してくる。


「そ、それは・・・。」

言い淀んでしまった。

迂闊に否定しようものなら、取り巻きの五人をも失う可能性が極めて高くなる。

この王子はこれ以上ないタイミングでコゼットを糾弾してきた。

(この王子、今までの頭の軽い愚かな振りは演技?!)

この王子の資質を見誤っていたのか?


「まあいい。それは当事者同士の問題だ。私には関係のない話だ。」

王子は話を続ける。

これ以上コゼットを糾弾する気はないようだ。

だがそれと同時に王子はコゼットから手を引くと宣言したのも同然である。


「では、一体誰を???」

ロザリーは意外な発言に戸惑いながらも王子に尋ねる。

王子はため息をつきながら言う

「共に入場してきた令嬢は他にもいるだろう。」


「・・・・・え?」


「私は、このセシリア・オーランシュ男爵令嬢を新たな婚約者に選ぶ。」


あまりの事にコゼットは義妹のセシリアを睨みつける。

だが、コゼットとセシリアの間に王子が割って入る。


「控えよ!セシリアはわたし、レオポルドが婚約者に望むのだ。

そなたに邪魔をすることは許されぬ。」

「・・・。」


(どこで間違えたのか?やはりこの王子の資質を見誤っていたことが一番の問題か。)


「お、恐れながら、レオポルド王子。」

義妹のセシリアがおずおずと王子に話しかける。

「お姉さまは王子を慕っておりました。咄嗟の事で気が動転しただけで、普段は優しいお姉さまなのです。」

「ふむ、そうか。セシリアがそう言うのならばそうなのだろう。」

だが、王子がコゼットを見る目は冷たく全てを見透かしている様だ。


(これ以上の失態は、今後にも影響します。)

コゼットはしばらく沈黙していた後、レオポルド王子とセシリアに恭しく礼をする。

「失礼しました。あまりのことに気が動転いたしました。」


「よい。許す。」

「はい。格別の温情ありがとうございます。」

そう言うと、今度はセシリアに向かい

「セシリア、おめでとう。あなたは今後王子を支えるべく努力するのですよ。」

「お姉さま・・・ありがとうございます。」


はたから見ると、姉が幸運を射止めた義妹を祝っているように見える。

コゼットの心中はどれほどの物なのだろうか?


だが、意外にもコゼットの心中はあっさり切り替えていた。

(王妃も女としての頂上の一つです。ですが、頂上はそれだけではないのです。)

既に別の頂上を目指す決意を固めたようであった。


これは後に恋多き女、社交界の薔薇と言われるようになるコゼット・オーランシュの一幕であった。


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