6.気が付いたら婚約破棄されていた
ロザリー・ベルレアンは困っていた。
と言うのは婚約者のレオポルド王子が
よりによって、あのコゼット・オーランシュと共に入場してきたのである。
その意味を王子が知らないはずは無いだろう。
(思えば、この王子。あまり出来のいい方ではありませんでした。)
この王子、はっきり言って頭が良くない、いや悪い。
言ったことや本の内容は覚えているのだが、虚言癖がある。
剣の腕も惨憺たるものであったが、厳しく鍛えて少しはマシな程度だった。
それでも小さい頃は素直でかわいらしかった。
だが今は将来を思っての進言も蔑ろにされるようになった。
愛想が尽きたとしても仕方の無いことだろう。
ロザリーは頭を痛めつつ、この場をどう凌ぐのかを考えていた。
だがそんな彼女にレオポルド王子が追い打ちをかける。
「ロザリー・ベルレアン公爵令嬢、お前の悪行は全て白日の下にさらされた。
よって、おまえとの婚約を破棄する!」
市井の人の婚約と違い、貴族の婚約は破棄するにしてもしかるべき手続きが必要である。
それをこの王子は全てすっ飛ばしてきたからだ。
卒業パーティとは言え、公式の行事での事なので無かったことには出来ないだろう。
婚約破棄は確定事項なのだ。
問題は、それに対する王家と公爵家の間に溝が入ることである。
それは国にとっても悪しきことである。
それを考えた時、反射的に王子をひっぱたいていた。
スパーン!!
王子がロザリーに詰め寄ったタイミングと平手打ちが合ったためか、その一撃の反動はあまりに軽かった。
正に会心の一撃である。
ガガガガガ、ゴツン!!!
階段を転げ落ちたはずみで頭を階段の支柱にぶつる。
流石のロザリーもあまりの出来事に少し呆然としてしまった。
呆然としているがロザリーはそんなことは表情にも出さない。
(大丈夫でしょうか?)
王子に何かあっては逆に公爵家に大きな被害をもたらしてしまう。
運悪く死亡した場合、公爵家の断絶も視野に入れる必要が出来るだろう。
そんな心配をよそに王子はヨロヨロ立ち上がった。
取り敢えず大事には至ってないが、何か様子がおかしい。
「・・・最悪だ、最悪だ・・・。」
コゼットは王子が立ち上がったのを見てホッとしている。
その表情は体を心配してのそれではないようだ。
逆に妹のセシリアは王子の無事を心配そうに見ている。
姉と違いその姿は好感が持てる。
ここは国家の為にも最後の進言をしなければならない。
ロザリーは奥歯で頬の内を噛み、涙を浮かべた。
「では、あなたはそこのコゼット・オーランシュ男爵令嬢を選ぶというのですね。」
涙を浮かべた状態でレオポルド王子に詰め寄る。
だが帰ってきた答えは予想しなかったものだった。
「ふん!コゼットの様な尻軽女はこちらから願い下げだ!!」
(!!!!!!!!!)
「私が何も知らないと思っていたのか。」
王子はコゼットの悪行も糾弾する。
「フェリクスやジョエル、セザール、リシャールと関係を知らないとでも?」
「そ、それは・・・。」
(まさか判っていて、こんな事を?その真意は?)
ロザリーは王子を興味深く観察する。
「では、一体誰を???」
王子はため息をつきながら言う
「共に入場してきた令嬢は他にもいるだろう。」
「・・・・・え?」
「私は、このセシリア・オーランシュ男爵令嬢を新たな婚約者に選ぶ。」
「「「「「ええええええええええ!!!!!!」」」」」
沈黙を保っていた一同が一斉に声を上げる。
それと同時に卒業式用の帽子が乱れ飛ぶ。
周りにいる者は王子に称賛を送っている様だ。
そしてコゼットはセシリアを睨みつけ、今にも掴みかかりそうである。
だが、その行動を王子が身を挺して守る。
それを見ていたロザリーは驚き感心したように考え込む。
(それなりに本気?の様ですね。その場しのぎだと思っていましたが・・・。)
ロザリーの慧眼は真実を見抜いていたのだが、別の事が頭に浮かんでいた為、それ以上の考える事は無かった。
(レオポルド王子、今まで頭の軽い愚か者だと思っていましたがここに来てその考えを改める必要があります。)
そうと決まれば話は早い。
ロザリーは幼少より傍に使える執事を呼ぶ。
「セバスチャン!」
「は、ここに。」
「公爵、侯爵、伯爵までのご子息で10歳以下。将来有望そうな人物を選出して頂戴。」
「はつ!仰せのままに!」
(そうよ。年齢が近すぎると失敗するのです、
理想の殿方は幼いころから教育すべきなのよ!)
ロザリーはこれからの事に心をときめかせていた。