2.気が付いたら意識不明なった
「聡ぃ。コンビニでポカリ買ってきて。」
こたつに入ったまま、4つ年上の姉が俺に言う。
「えー。姉ちゃん自分で行きなよ。俺寒いの苦手なんだよ。第一今勉強中だぞ。」
俺は大学受験を控えた受験生なのだ。
だがそんな世間一般の大義名分は姉には通じない。
思えばこの姉にはずいぶん理不尽な目にあわされていた。
何が悲しくて、受験に関係の無い技術革命と系譜とか建築学とかのレポートを仕上げなくてはならないのだろうか。
この間やったレポートなどは
「ハー何たらボッシュ法って?」
「ここに応用化学の本があるわよ。」
「プラントってなんだ?」
「化学工学の本はこちらよ。」
「姉ちゃん、この行列ってなんだ?」
「この線形代数でも読みな。」
「このトラスにおけるモーメントのつり合いって・・・」
「ほい、構造力学」
「・・・」
「あと、計算のチェックも忘れずにね。」
「・・・・・・」
「あら、弟君はなにかお姉さまにご不満なのかしら?」
「・・・・・・・・・・」
「この私が弟君の将来の為に勉学の手伝いをさせてあげてるのよ。」
グリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリ
万時この調子なのだ。
不平不満は暴力で持って押さえつける。
小さいころからの習性で逆らえない。
まったく、年上の狂暴な女は御免である。
嫁にするなら年下の大人しい女の子が良い。
決めた!魂に刻み込もう。
そして現在、その狂暴な姉は今何をしているかと言うと
「今いい所なんだから・・・よっしゃー!5又完成!後は糾弾イベントをこなして王子と・・・ぐひひひひひ。」
世間で言う乙女ゲーム“大空の縁”の愛好者で、この手のゲームをやり込んでいた。
「くくくくく、ロザリー・ベルレアンに関してはいろいろ罪を被せたのが良かったんだねぇ。」
驚くべきことに、この手のゲームにしては主人公の取る手段がいろいろ用意されており、清廉潔白な方法もあれば悪逆非道な方法も取れることが売りで人気を博していた。
尻軽女さながら攻略対象全てと結ばれることも可能なのだ。
「聡、ほら肉まん買ってきていいから早く早く。」
「ちぇ、しかたねぇな。」
俺はこたつの上に置かれた財布から千円札を2枚取るとコンビニに向かうべく外へ出る。
外は一面の銀世界であった。
(うわー。寒いと思ったら、けっこう積もっているな。)
アパートの階段から見える雪景色を横目に下りて行く。
トントントン
(寒い中肉まんだけじゃ割が合わないね)
トントントントン・ズル
よそ見をしていた為か、雪が積もっていた為か階段を踏み外した。
ドドドドドドドドド、ゴン!
(いてててて。頭がくらくらする。)
すぐに立ち上がるが、頭を打った衝撃でバランスを崩し倒れ込む。
落ちた衝撃と倒れ込んだ衝撃が重なったのか、屋根の上から大量の雪が落ちてきた。
屋根から落ちた大量の雪は倒れた体を覆い隠す様にかぶさった。
そして、冷たい雪は朦朧とした意識を覚醒させることなく、暗い底に沈めてしまった。