Act9-15 正体
本日二話目です。
希望のふりをした誰かの正体がわかります。
あぁ、危ない、危ない。
危うく馬脚を現すところだった。
ようやく「アマミノゾミ」でいることに慣れてきたというのに、まさかこんなジョーカーがいるなんて聞いていないよ。
でも、まぁ、どうにか言い包められたかな?
私はあんまり頭がよくないけれど口八丁でごまかすことはできるんだよね。一応それなりに記憶力はいい方だし。
しかし参ったなぁ。まさか「アマミノゾミ」の従姉がこの世界に来るなんて、さすがの「お父様」も想定外だと思うよ。
というか、こんなの反則じゃん。
私じゃなかったとしてもこんな反則なんて想定できるわけないよ。
まぁ、姉様であれば、どんなことがあるかわからないのだからできる想定はすべてしておきなさい、とか言いそうだなぁ。
……実際その通りの展開になってしまっているし。
ああ、もうこんなことだったら、アマミノゾミの記憶すべてを見ておけばよかったよ。
私が見たのはここ数年のカレンちゃんとの関係だけ。
だってそれ以上の記憶なんて見たところで意味なんてないし。というか必要がないと思っていたよ。
仮にそれ以前の話をされても「忘れちゃった」って言えばいいだけだからね。
それはそれで怪しまれるだろうけれど、当場をしのげることには変わりない。
当場さえしのげれば、姉様に頼んで本国に戻ってアマミノゾミの記憶を覗けばいいだけだもの。
いままではそうする予定だった。
でもなんの因果なのか、いままではそうする必要がなかった。
というか、カレンちゃんが不思議とギルドにいることが少なかったんだよね。
おかげで怪しまれることなく、この半年を過ごせることができていた。
だからなのかな。今回みたいなことになってしまっているのは。
こればかりは完全に想定外、いや、気を緩ませすぎたんだろうね。
でも、アマミノゾミの従姉をどうにかごまかすことができたのは僥倖だった。
最初に会ったときは「誰だろう、この子」と思ったけれど、まさか従姉だったとは。
あのときの私の焦りはひどいものだった。
どれだけアマミノゾミの記憶を思い出しても従姉の名前なんて一切なかった。
あのときはほぼ詰みに近い状況だった。
でもまぬけなことにアマミノゾミの従姉はみずから名乗ってくれた。おかげでどうにかしのぎ切れたよ。
とりあえずギルドに戻ったら今夜中に姉様に頼もう。本国に戻って洗いざらいアマミノゾミの記憶を見させてもらおう。
この従姉はどう考えてもジョーカーになる。
正直排除したいところだけど、下手に排除したらカレンちゃんに勘付かれる可能性がある。
かと言って泳がせておくのは怖い。放置しておいたせいで追い込まれてしまった、なんて笑い話にもならないもの。
だけど、どうすればいいのかな? 食べちゃえばそれですむのだけど、下手に食べてしまうのはまずい。
死体を隠滅するのは食べるのが一番手っ取り早い。
幸いなことに相手は女。私の好物である柔らかそうなお肉の持ち主だ。
きっと食べたらすごく美味しいはず。
男の肉は硬くてまずいけれど、女の肉はとても柔らかくてまろやかだ。
おそらくこの従姉は女の肉の中でも特に美味しいに違いない。
なにせアマミノゾミの従姉だもの。
アマミノゾミ自体がとびっきり美味しかったことを踏まえると、この従姉も同じくらいに美味しいはずだ。
「お腹空いたなぁ」
考えていたらお腹が空いてしまったよ。
この従姉をくびり殺すのはいつでもできる。それこそいますぐに頭から飲み込むことだってたやすい。
でもそれをしたら私がアマミノゾミではないことを知られてしまう。そればかりは避けなきゃいけない。
だけどこの状況は私には難しすぎる。
アイリス姉さんであれば別なんだろうけれど、困ったことにアマミノゾミになりきっているのは私──「冥」のアリアだからなぁ。どうしたものかなぁ。
「ふふふ、少し見ない間に食いしん坊になったのね、希望」
「え? あ、いや、だってもうお昼時だから」
「ああ、そう言えばそうね。希望が好きなお肉の美味しいお店ってあるかしら?」
「え、あ、そうだね。たしか──」
「ラース」で生活をしてもう半年以上は経つ。
どこのお店のお肉が美味しいかは知るのには十分すぎるし、行きつけのお店ができてもおかしくはない。
従姉に行きつけのお店を教える。あたり前の会話だった。
でもそのあたり前の会話をしたとたん、カレンちゃんが悲しそうに顔を歪めた。
なんだろうと思ったけれど、カレンちゃんは「なんでもない」と言った。
もしかして私はなにかしでかしただろうか?
いや間違ってはいない。でも妙な胸騒ぎがする。胸騒ぎを感じつつも、従姉との会話は続いて言った。
希望のふりをしていたのは、ずいぶんと登場していなかったアリアさんでした。
続きは明日の十六時となります。




