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Act9-13 ニセモノ

 本日二十四話目となります。

 タマちゃんが希望の従姉だった。


 そう言えば、五つ年上の憧れのお姉さんがいるって昔希望が言っていたことがあった。


 でもそれがまさかタマちゃんのことだったとは思わなかった。


「ふふふ、普段は猫を被っているからね。一応素はあっちなの。でもこちらはこちらで嫌いではないのよ?」


「そ、そうなんですか」


「ふふふ、レンさん。いままで通りでいいのよ? いまさらあなたに畏まれてもちょっと気味が悪いからね」


「いや、そう言われても、って気味が悪いは言いすぎなような」


「だって、いまさら畏まれるような間柄じゃないでしょう? ねぇ、あなたもそう思わない、希望」


 タマちゃんはにこやかに笑いながら希望に話を振った。


 希望は慌てて「そ、そうですね」と頷いていた。


 希望も畏まっているのか、さっきから態度が固い。でも無理はないと思うんだよね。


 だって希望にとってはタマちゃんがまさか憧れのお姉さんだったとは思ってもいなかっただろうし。


 そもそもその当のタマちゃんがこっちの世界に来ていることだって驚くことだったはずだ。


 だから固いというよりもちょっとだけそっけない反応なのも無理もないことだ。


「希望? 緊張でもしているの?」


「そ、そんなことはないですよ? まりも姉さんにお会いできてすごく嬉しい、です」


「そう? その割にはいつものあなたらしくないけれど。まるで必死になにかを繕っているかのようね。なにかあったのかしら?」


「あ、あははは、なにを言うんですか、まりも姉さんってば。私がなにか隠し事をしているわけがないじゃないですか」


 あははは、と目を泳がせながら笑う希望には明らかな動揺が見て取れる。


 なにかあったのかと心配になってしまう。


 けれどいまはタマちゃんと、ひさしぶりに会えたまりもさんと積もる話もあるだろうし、あまり声を掛けてあげられない。


 なにせ希望は昔から憧れのお姉さんの話になると饒舌になるし、そのお姉さんと話をしているときに邪魔をされるのを嫌っていたからなぁ。


 こっちに来る前だって不意にお姉さんから電話が掛かってきたときとかすごかったよ。


 あれはちょうどほかの友達も一緒に下校していたときだった。


 小腹が空いたのでどこかのファミレスでも寄ろうかって言っていたときだった。


 希望のスマホから着信音が鳴ったんだ。そのときはまだ話の途中だったのにも関わらず、表示された名前を見た瞬間──。


『ごめん、ちょっとタイム!』


 ──と言ってそそくさと距離を取ってくれたからね。


 普段そこまで動きが速くないはずなのに、そのときのスピードは恐るべきものだった。


 なにせ目にも止まらない速さだったもの。気付いたら数メートルは離れていたからね。


 あまりの変化にほかの友達は唖然としていた。俺はいつものことかと思いつつ、こっちで話を進めるよと声を掛けたんだ。そうしたら──。


『……邪魔しないで、香恋。私はいま──』


 ──とてもきれいな笑顔でそう言ってくださいました。


 きれいな笑顔と書いて、なんと読むのかはあえて言わない。


 そのときの俺が、いや、その場にいた希望以外の全員が即座に敬礼をしていた、とだけ言っておこうか。


 あのときの希望は、本当に怖かった。すごく怖かった。


 とにかく憧れのお姉さんことまりもさんとの話を邪魔することは許されていないんだ。


 それはこの状況においても変わらない。


 下手したらブチ切れたときのレアのように頭を掴んで振り回されかねない。


 ……どうしてだろうね、希望がそういうことをしないとわかっているはずなのに、たやすく想像できてしまったのは。どういうことなんだろうね。


「そう、ならいいけれど。それよりもそろそろかしら? ねぇ、レンさん?」


「あ、はい。もうすぐですよ」


 まりもさんが遠くを見やる。見やっているのはうちのギルドだった。


 すでに俺たちはラースさんの城の門前からギルドへと移動している最中だった。


 先頭を俺が歩き、その後を希望とまりもさん、そしてプーレとシリウスたちが続いていた。ちょっとした大名行列のようだ。


「ふふふ、敬語じゃなくていいのに」


「あ、は、はぁ。でもなんとなく」


 まりもさんからのお願いではあるけれど、どうにも慣れない。


 というか、あまりにも俺の知っている「タマちゃん」から変わりすぎていて、対応の仕方がわからないんだよなぁ。


 どうしたもんかな、って、あ、ヤバい!


「ご、ごめん、希望! いきなり」


 まりもさんに声を掛けられたとはいえ、まりもさんとの話を邪魔してしまった。


 怒られるのが目に見えていた。だから先んじて謝ったのだけど、許してもらえるかな? 恐る恐ると希望を見ると──。


「へ? なんで謝っているの? 香恋」


 希望は謝られた意味がわかっていないようだった。不思議そうに首を傾げている。思わぬ反応に俺は思わず立ち止まりそうになり──。


『立ち止まらないで。そのまま普通に対応して、レンさん』


 ──まりもさんに言われてそのまま歩き続けた。言われた意味はわからないけれど、言われた通りに歩きながら普段通りに答えた。


「いや、だってまりもさんとの話を邪魔されたら、いつも怒るじゃんか。だからだよ」


「そ、そうだった? いや、私ももう子供じゃないんだし、いつまでもそんなことで怒ることはないよ」


「……そう、だね」


 希望は笑っていた。怒ることなく笑っていた。


 まりもさんに言われたとおり、普段通りに答えた。


 答えたのだけど、ひどい違和感に襲われた。そんな俺にまりもさんは再び念話で声をかけてきた。


『……決まり、だね。あってほしくないことではあったし、こうして直に会ったけれど、やっぱり、か』


『やっぱり、とは?』


『……私たちの前にいるのは希望ではない、ということね』


 まりもさんは悲しそうに、でも有無を言わさぬ口調でそう言いきった。

 これにて十二月の更新祭りその一は終了です。

 続きは明日の十六時になります。

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