Act9-12 従姉妹
本日二十三話目です。
プーレとシリウスが抱き合っていた。
ふたりとも泣いてしまっている。
ふたりだけの間で会話があった。
でもそれだけとは思えない。というかふたりのやり取りはとても短かった。
あの短いやりとりだけでお互いに泣くというのはありえない。
なにかしらのやり取りがあるんだと思うんだけど、その内容は俺にはわからなかった。
わからないけれど、でも、どうでもいいのかもしれない。
だってふたりの涙は決して卑しいものじゃないから。
ふたりの涙はきれいだった。だからとやかく言う気にはなれなかったし、言うつもりもなかった。
ただ気になったのはふたりの涙はあまりにも悲しみを帯びていたということと、その悲しみはあのやり取り内のものではなく、まったく別のものに対してだということ。
でも重ねて言うけれど、俺にはとやかく言うつもりはなかった。
俺はふたりが落ち着くまで待ち続けた。やがえてふたりが泣き止んだ頃にはそれなりの人だかりができてしまっていた。
無理もないとは思う。
シリウスはうちの看板娘として有名だし、プーレはうちのギルドのスイーツ担当として名をはせていた。
そんなふたりが王城の前で泣きながら抱き合っていたら、目立たないわけがなかった。
そのことをふたりはすっかりと失念していたようだった。
無理もないけどね。泣き止んだふたりは囲むようにしてできていた人だかりを見て、顔を紅くしていた。
そういうところも二人そろってかわいらしかった。
「あれ? 香恋?」
でも、そのおかげなのかな、人だかりの方から聞きたかった声が聞こえてきた。
見れば人だかりの向こう側に希望が立っていた。
その手には買い物袋があったし、希望自身の服装はコック服のままであることを踏まえると、足りない材料を仕入れに行っていたのかもしれない。
「希望、久しぶり」
人だかりの向こうにいる希望に向かって大きく手を振った。
それに合わせて人だかりも割れていく。
まるで海を割ったあの逸話のようだった。
希望も同じことを考えているのか、それとも俺の反応に呆れているのか。
もしくはまるで別なのかはわからなかった。
わからないけれど、希望は笑ってくれていた。笑いながら作られた道をまっすぐと進んでくる。
数か月ぶりの希望。その姿に胸がとくんと高鳴った、そのときだった。
「……久しぶりね、希望」
俺と希望の間に入り込むようにしてタマちゃんが立った。
いつもであればなんで邪魔をするんだとか言えたのだけど、なにも言えなかった。
というか、唖然としてしまったと言う方が正しいのかもしれない。
だってタマちゃんはいつものタマちゃんらしくなかったのだから。
「え、タマ、ちゃん?」
口調も雰囲気もなにもかも違っていた。
いつもは子供っぽいところが多いタマちゃんが、いまはとても大人っぽいというか、とても上品だった。
それこそ深窓の令嬢と言ってもいいくらいに。いや、いまのタマちゃん以上にその言葉が似合う人はいないと言ってもいいくらいに。
タマちゃんの口調と雰囲気は劇的に変わってしまっていた。
「ごめんなさいね、レンさん。少しだけこの子とお話をさせていただきます」
「え? いや、でも、ってこの子?」
この子って。まるで希望のことを昔からよく知っているみたいな言い方だ。
それこそ母親とか姉とかが言いそうな言葉だった。
でもタマちゃんも希望もそんなことは一度も言っていなかったはずなのだけど。
「そうよ。この子は──希望は私の従妹ですもの。そうでしょう、希望?」
タマちゃんは笑っていた。笑いながら希望にと声を掛けていた。
でも希望はなにも言わない。ただ唖然としてタマちゃんを見つめていた。
続きは二十三時になります。




