Act9-2 久しぶりのラース
本日十三話目です。
あれから「蝿の変」が終わり、「ベルル」の街に戻ってから数日が経った。
「蝿の変」の功労者として正式にクルルさんが「ベルゼビュート」の総指揮官となった。
それに併せて「ベルゼビュート」は「ベルゼバブ」と名を変えることになった。
名を変えることになっても行うことはほぼ変わらないらしく、隊員たちもほぼそのまま元の任務に就いているそうだ。
それはククルさんの立ち位置も同じだった。
いままでは「蛇の王国」のギルドマスターだったが、「ベルゼバブ」の総指揮官も兼任することになったんだ。
というのもレアとグラトニーさんがククルさんをお互いに譲らなかったというのが原因なんだ。
「俺の親衛隊の総指揮官なんだから、当然うちの国の所属だよな?」
「あら、なにを言っているの? もともと私の部下なのだから、元のままに決まっているでしょう?」
にこにこと笑いながらレアもグラトニーさんもククルさんの肩を掴んでいた。
間に挟まれたククルさんはどことなくぐったりとした顔をしていたのが、とても印象的だった。
結論、双方の国所属になるということで落ち着いた。
これが敵対国であれば、ダブルスパイのようなことになったかもしれないけど、友好国同士なので折半し合う形になったんだ。
……ククルさんの意見はまるっと無視される形でだけども。別れる際のククルさんはいつものようにお腹を押さえていた。
本当に各国の上層部にいる人たちってみんなお腹を痛めてしまう呪いでもかけられているんじゃなかろうか? 我ながら信ぴょう性がある仮定に至ってしまったものだよ。
まぁ、それはそれとしてだ。
グラトニーさんには個人的な話を聞いた。「剣聖」と言われたこと。
その理由を尋ねたのだけど、結果は芳しくなかった。というか、あっさりとあしらわれてしまった。
「……すまねえが教えることはない。どうしても知りたいって言うなら、剣で聞いてみろ」
愛刀の鯉口を切りながら、グラトニーさんが笑った。
ティアリカともどもありえない腕前を見せられてしまっているのに、わかりましたなんて言えるわけもなかった。
グラトニーさんは少しつまらなそうな顔をしていたけど、「お嬢ちゃんらしいかな」と最後には笑っていた。
でもいま思えば俺はあのとき戦うべきだったのかもしれない。
あのとき俺はたぶんグラトニーさんに測られてしまっていたんだろう。
俺がどの程度の存在なのか。いや、俺がどういう考えの持ち主なのかを測られてしまったんだろう。
「……まぁ、それくらいじゃねえとレアの「旦那様」は務まらねえか」
喉の奥を鳴らしながらグラトニーさんは笑っていた。
でもどこか悲しそうでもあった。どうして悲しそうな顔をしていたのかはわからなかった。
まるで昔はレアとグラトニーさんが恋仲だったとか、そんな邪推をしてしまうほどに。
実際その邪推したことをレアに尋ねてみた。レアは一瞬あっけに取られた顔をしていた。
でもすぐにレアらしい笑顔を浮かべてくれた。
「……おバカさんですねぇ。私が過去誰と恋仲だったかと、そんなのはどうでもいいじゃないですか。いまの私は、あなたへの愛を誓っております。それでは、ダメなのですか?」
ちょうどふたりっきりになったタイミングだった。戦後処理が重なり、たまたま夕食が遅くなった日。
レアとふたりで夕食を取った日だ。夕食を食べ終えたところで思い切ってグラトニーさんとの関係を聞いたんだ。その返答がその言葉だった。
レアからもはぐらかされてしまったと思える内容ではあったけれど、レアがはぐらかしていないということだけはわかっていた。
レアは俺に嘘は吐かない。隠し事はしていたとしても、彼女は嘘だけは吐かない。優しく頬を撫でる手のひらのぬくもりを感じながら、俺はレアにされるままになった。
そうして「蠅の王国」でのやることも終わり、今日こうして俺たちは「竜の王国」の首都である「ラース」へと戻ってきた。
大量の書類仕事が待ち受けているかと思うと気が重いけれど、やることはやらなきゃいけなかった。
「頑張りますかねぇ~」
せめて執務室が書類で埋まっていないことを祈りたい。そんな願望を抱きながら、久しぶりの「ラース」へと俺は帰ってきたんだ。
続きは十三時になります。




