Act1-5 外道少女ヘタレ☆カレンちゃん
一応注意として、百合っぽくなっちゃっています。
あくまでも一方通行的な感じで、個人的には微百合の範疇ですが、ダメっぽいと思われる方がいましたら、ご注意ください。
厳かな謁見の間に、笑い声が響いていた。
字面で見ると、とても悪役臭のする光景ではあるけれど、実際はそんな悪役臭なんて欠片もない。
ただただ笑われていた。見下すように笑われているのではなく、バラエティー番組を見ているかのように笑われている。
笑っているのは、この謁見の間、いや「竜の王国」の王さまであるラースさんだった。
ラースさんは謁見の間の中央にある玉座に腰掛けながら笑っていた。
謁見の前には俺のほかに、アル―サさんたちと、俺が助けたアルトリアが一緒にいる。
ほかには、護衛の兵士さんがいるのだけど、兵士さんたちは表面上平然としているけれど、実際は笑いを堪えているようだった。よく見れば、ぷるぷると体を震わせていた。
アルーサさんたちは、なにも言わない。
ラースさんを前にして、硬直しているようだったが、まぁ、問題はない。
そりゃあ「魔大陸」の支配者のひとりと顔を合せたら、普通は緊張するよね。
でもアルーサさんたちと同じ、「魔大陸」出身者であるはずのアルトリアは緊張していなかった。
緊張してくれていたら、どんなによかったか。そう思わざるをえないが、あえて確認をする気はなかった。
アルトリアをできるだけ見ないようにしながら、俺はラースさんを見上げていた。
「──それで? どうなった?」
ひとしきり笑うと、今度は喉の奥を鳴らすようにして笑いながら、ラースさんは玉座で脚を組んだ。
個人的には、この話題はもういいんじゃないですかと言いたいけれど、パトロンであるラースさんの機嫌を損ねるわけにはいかなかった。が、少しくらいは抵抗させてもらいかった。
「どうなった、とは?」
「言わせるつもりかね、カレン殿。その人魔族の少女を「俺の女だ」と」
「……スキンヘッドのおっさんたちを、ぶっ飛ばしました」
遮るようにして言い切った。この人はわかっていて言っている。
エンヴィーさんにもこういうところがあったけれど、ラースさんは輪をかけてひどい。
けれどやらかしたのは俺自身なので、文句を言うこともできなかった。
「ほうほう。どういう反応だったかね?」
「……ご想像にお任せします」
血を吐き出すかのように、俺はそういうので精いっぱいだった。
あの後、アルトリアを「俺の女~」と言った後は、ひどかった。
いきなりのセリフに、みんな唖然としていたもの。
当のアルトリアは、言葉の意味をすぐに理解できなかったのか、固まっていたけれど、その後顔を真っ赤にしてくれた。思えば、それがまずかった。
だって、その反応は、事実だと捉えられてしまうことだった。
もっと言えば、なんでこの場で本当のことを言っちゃうの、みたいな反応に捉えられてしまいかねない反応だった。
そのうえ、アルトリアが橋の手前で立っていたことも、俺と待ち合わせしていたようにも捉えられることだった。要は間が悪かった。
俺も口裏を合わせてくれとは言ったが、どういうことを言うかまでは言わなかった。
ひと手間惜しんでしまった。それがまずかった。
でもそれに気づいたときには、すでに遅く、アルトリアは誤解されるような反応を見せてくれた。
なんで赤面しちゃうんだよ、と言いたかったが、仏頂面をされるよりかはましだった。
だって仏頂面なんてされたら、確実に嘘だってばれてしまっていた。
実際嘘ではあったから、ばれてしまうのは仕方がなかったけれど、なんでそこで赤面してしまうのかが、まるでわからない。
そもそもそういうのは、王子さま的なさわやか系イケメンに言われてする反応だろうに、なんで中身がほぼ男だけど、同性の俺に言われた程度で、赤面するのかが、意味がわからなかった。俺はひとりで動揺していた。
だが、動揺していたのは、俺ひとりだった。
スキンヘッドたちは、悔し気に表情を歪め、ギャラリーの皆さんは、俺に対して惜しみない拍手をし、アルーサさんたちは、「モーレ姉さんが本命じゃなかったのか」とよくわからんことを言って、ゴンさんに至っては、腹を抱えて笑い転げていた。
正直、状況をまるで理解できなかった。理解できないまま、さらに状況は混沌とした。
なぜかスキンヘッドたちが、唸り声を上げながら突っ込んできた。
顔面を殴った手下のひとりは伸びていたけれど、ほかの手下たちと一斉にスキンヘッドが突っ込んできた。
なんでと思いつつも、ひとりにつき、蹴り一発をお見舞いしてあげた。
スキンヘッドには三発ほどお見舞いしてあげた。
美少女を殴ったうえに、セクハラをかましたという重罪の償いがまだ終わっていなかったので、念入りにしてあげたのだけど、それがかえって状況を悪化させてしまった。
スキンヘッドに対する仕打ちが、あろうことか、恋人に手を出したことに対する報復と取られてしまったんだ。
最初は、え、なにそれと思ったけれど、すでに時遅し、ギャラリーの皆さんたちにとって、スキンヘッドに対する仕打ちは報復と取られてしまっていた。
加えて、アルトリアがなぜか遠くを見るようにして俺を見つめていた。顔も赤いままだった。
そんなアルトリアの反応がより一層ギャラリーの皆さんを駆り立たせてしまっていた。
アルーサさんたちは、悔しそうに天を仰いでいた。
なぜそこで悔しがる。
ゴンさんは、笑いすぎたのか、痙攣していたよ。
なんで人助けをしたはずなのに、あんな状況になったのか、さっぱり理解できなかった。
いや、まぁ、俺がやりすぎたってことだったのだろうけれど、やりすぎくらいがちょうどいいはずなのに、なんでああなったのだろう。本気で解せない。
そうしてひと悶着が終わり、俺はアルトリアを入れた四人を連れて、ラースさんの居城へと向かった。
もともとアルトリアも連れて行く予定だったけれど、ひと悶着のおかげで連れて行かないという選択肢が完全になくなってしまった。
考えようによるけれど、アルトリアを説得する手間が省けたのでかえってよかったのかもしれないが、非常に目立つアルトリアの見目のおかげで、ラースさんの城にたどり着くまでの間で、カレン・ズッキーにはアルトリアという恋人がいる、という噂が広まってしまっていて、そのせいか、ラースさんの城の謁見の間で、再会し、かけられた第一声が──。
「金貨十枚を稼いだだけではなく、嫁まで連れて来るとは。カレン殿は、我を楽しませてくれるものよ」
恋人さえも通り越しての嫁発言だった。
俺の意識が遠くなったのは、言うまでもない。
隣にいたアルトリア(なぜか俺の隣から離れようとしない)は、顔を真っ赤にして、俯いてしまう。
いやかわいかったよ。かわいかったけど、そこは否定するところでしょう。というか否定して、と言いたかった。
けれど、アルーサさんたちが、「二股をするような人だったなんて」とよくわからんことを言ってくれたおかげで、言いそびれることになってしまった。
二股ってなんだよ。二股もなにも、誰とも付き合っていないつーの。
そもそも俺はノンケなの。かわいい女の子や美人さんを見るのは好きだけど、恋愛対象としては見ていないの、とは言ったけれど、アルーサさんたちは信じてくれなかった。
が、アルトリアは信じてくれた。信じてくれたのだけど──。
「そ、そうですよね。私みたいな「混ざり者」なんて、興味ないですよね。ごめんなさい、その、ご迷惑をおかけして」
そう言って、涙目になってくれたアルトリア。
とたんに謁見の間中の視線が俺に突き刺さった。
無言の謝れコールが聞こえてくるようだった。
なぜに俺が謝らなければならんのだ。
突き刺さる視線を浴びながら、そう思わずにはいられなかった。
が、紅い瞳が涙に濡れ、目じりからこぼれた涙が頬を次々に伝っていくさまを見ていると、どうしようもない罪悪感が襲い掛かってきた。
良心の呵責でもいい。いたたまれない気持ちになっていると、ラースさんがため息混じりに口を開いた。
「よいか、カレン殿。亭主の一番の仕事とは、女房に笑顔を浮かべさせることだ。逆に一番してはならんことが、女房に涙を流させることだ。みずからが選び、愛した伴侶を泣かせるなど言語道断よ」
ラースさんは立派なことを言っていた。
うん、立派だ。奥さんを大切にしていない世にいる旦那さん方に聞かせてあげたい内容だった。
ただ一言だけ言いたかった。
それ、いま言う必要あるのか、と。
そもそも亭主もなにも、俺は女なんだよ。亭主じゃなく、奥さんになる側なの。
そりゃあ、いままで好きになった男の人なんていないよ。
初恋もまだだよ。だからと言って、初恋を飛び越えるどころか、嫁をこさえるのはさすがにありえない。
そりゃあ地元では、昔からの友達には、冗談で「嫁になってよ」と言ったことは数えきれないくらいにあるよ。
あくまでもお得意のギャグ程度だ。たとえば、調理実習の際に、料理上手な友達に、低身長なことを活かして、友達の胸に飛び込み、上目遣いで「俺の嫁になれぇ」と言うとかね。
そうするとみんな顔を真っ赤にしてくれるからそれを見るのが、楽しいんだよね。
もっともやりすぎると、「香恋ってひどいよね」とか「この子は、なんでこんな外道なんだ」と言われてしまったけれど。まぁ、みんなも本気で言っているわけじゃないだろう。
しかしだ。地元とは違い、そのときの俺に突き刺さる視線はかなりガチだった。
なんでこんなことになっているんだろうとは思うけれど、どうも俺が悪いようなので、仕方がない。
理由が本当に解せないのだけど、女の子を泣かしてしまっていることだけはたしかだった。
そして俺は女の子の涙が苦手だった。
となれば、やることは限られていて、腹を括るしかなかった。
「あ、アルトリア!」
とっさにアルトリアを抱き締めてしまった。
アルトリアが息を呑み、周囲の人たちがおおと騒ぎ、ラースさんはおかしそうに笑っていたが、アルトリアが笑ってくれるのであれば、構わない。
もうこのときの俺は完全に混乱していたのだと思う。
そして自分で盛大にとどめを差した。
「まずはお友達からで、お願いします!」
嫁になれ、と言ったら確実に詰む。
だが、それ以外の言葉が思いつかなかった。
下手なことを言えば、より傷付けるだけなのは確実だった。
しかし冗談でそういうことを言うわけにはいかない。
となれば、もう言うことは限られていた。その結果、俺が言ったのは、友達からというひと言。
腹を括るとか言いながら、友達からと言った俺。
ノンケの俺からしてみれば、これ以上は言えないので仕方がない。
へ、ヘタレじゃないもん。
「はい、カレンさん」
アルトリアはすごく嬉しそうに笑ってくれた。
その笑顔の前には、ノンケだとか、そうじゃないとか、どうでもよくなってしまった。
が、その後ラースさんにことのあらましを根掘り葉掘り聞かれることになった。
その間、俺の精神力がごりごりと削れていったのは言うまでもない。
しばらくして、ようやくラースさんんは真面目な顔をしてくれた。
「さて、それでは、ビジネスの話をするとしようか」
ラースさんは、そう言って、仕事の話を始めてくれた。助かったと思ったのは言うまでもない。




