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Act8-ex-7 先代と継嗣~特別扱いではなく~

 本日は九話目です。

 レアママはいつもとは違ってとても真剣な表情を浮かべていた。


 普段のレアママとはまるで違っている。


 いつものレアママは怖いところもあるけど、基本的にはニコニコと笑っている。


 そんなレアママがいまは怖いくらいに真剣な表情で私を呼び止めていた。


 私を呼び止めるということはだ。


「……レアママも知っていたの? プーレママが」


「プーレちゃんの命が残りわずかだということは、なんとなくわかっていたよ」


 レアママはたしかに頷いた。


 予想はできていたよ。


 だってそうじゃなければ私を呼び止めることなんてしないもの。


 でもならなんで──。


「なんで? なんで知っていたのであれば、なんで教えて──」


「……で?」


「え?」


「教えてどうするの? あなたに教えてなにができたの?」


「そ、それは」


 教えられたところで私にできたことはなにもなかった。


 はっきりと自分でもわかるよ。私はプーレママのためになにもしてあげることはできなかったって。はっきりと言い切ることができた。


 七のが宣告したということは、七のの謹製の呪いを受けたということ。その呪いを解いてあげることは私にはできない。


「空」を得られはした。「空」であれば、きっと助けることはできるかもしれない。


 でも「空」をまだうまくは使うことはできない。


 下手に「空」を使って逆効果になったら?


 助けるどころかプーレママの命を削ることになったら?


 いや、もしかしたらその時点でプーレママが──。


「……だから言えなかった。あなたは優しい子だから。優しすぎるくらいに優しい子だから。だから下手なことは言えなかったの。言ったらあなたはきっとプーレちゃんを助けようとしてしまうから」


「助けちゃいけないの? だって私はっ!」


「……プーレちゃんが望んでいないことであっても?」


「望んで、いない?」


 言われた意味をすぐに理解することができなかった。


 望んでいない?


 なんで?


 だって助かるかもしれないんだよ?


 可能性は低くても助かるかもしれないのに、なんで望んでいないなんて──。


「望んでいるのであれば、あの子は言うと思うよ? でもプーレちゃんはなにも言わなかった。それはつまりプーレちゃんは望んでいないのよ。いえ、そもそも自身の命がわずかであることを知られたくないのかもしれない」


「なんで?」


「……もしプーレちゃんの命がわずかだと知ったら、「旦那様」はどうするかしらね?」


「それは」


 考えるまでもない。「我が君」であれば、プーレママをいま以上に大事に扱うはずだ。


 無茶をしないように言い聞かせるはずだ。


 たとえプーレママ自身が望んでいることであっても、決して無理をさせない。


 きっとベッドの上で一日中寝かせ続けていたと思う。「我が君」はそういう人だから。


 ああ、レアママが言いたいことがわかった。プーレママはそれが嫌なんだね。


 腫れ物のように扱われるのが嫌なんだ。いや、もしかしたらそういう風に特別扱いをされるのが嫌なのかもしれない。


 ああ、たしかにプーレママであればそう考えそうだ。


 プーレママはしなくてもいい遠慮をしてしまう人だ。


 だからプーレママは、口にはしなかったんだ。


 自分が死んでしまうことを口にしようとしなかったんだ。


 すべては特別扱いをされないために。なんでもない日々をいつものように過ごすためだけに。


「……バカだよ。プーレママは」


 プーレママの気持ちはわかるよ。


 だけどそんなことをしたってなんにもならないじゃないか。


 そんなことをしたって、かえって傷つくだけじゃないか。


 プーレママであればそんなことはわかっているはず。


 それでもプーレママは自分の意思を貫いたんだ。


 妙なところで暴走しちゃうのは、本当にプーレママらしいことだ。


「……本当にね。プーレちゃんらしい。だからこそなにもしてあげられないのよ。あの子のしたいままにさせてあげることしかできない。あの子が我を通すなんて珍しいからね。その意思を尊重してあげたいと思ってしまうもの。特にこれが最後の願いとあれば、なおさら、ね」


 レアママの目じりから涙が零れ落ちた。


 プーレママのことを昔からよく知っていたレアママだからこそ、それこそプーレママが産まれた頃から知っているのであれば、プーレママの意思を尊重しようと誰よりも思ってしまうのかもしれない。


「……シリウスちゃんには辛いことを言うと思う。酷なことをさせるとは思う。それでもあえて言うね。……プーレちゃんのしたいようにさせてあげてほしいの」


 レアママはそう言って頭を下げた。


 もうなにも言うことはできなかった。私はただ頷くことしかできなかった。


 大好きなママをまたひとり失ってしまうのか。


 悔しかった。悔しいけれど、それ以上はなにもできない。それがなによりも辛かった。


「ごめんね、プーレママ」


 なにもできない娘で、力のない娘でごめんね。


 項垂れながら私は涙を流し続けた。大好きなプーレママを想いながら、ただ泣き続けた。

 続きは九時になります。

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