Act8-172 蠅の変
十二月の更新祭りその一開始です。
まずは一話目になります。
その後、戦はあっという間に終結した。
もともと相手方の本隊が壊滅していたこともあり、残りの戦力もまともな反抗はできなかったみたいだ。
アトライトさんが巨大化した姿は、戦に参加していた全員が見ていた。その最期もまた。
ククルさんは首謀者である「狂人」を打ち倒した勇者として広く名を轟かせることになった。
ハーフフッドとエルフのハーフであるククルさんを悪く言う連中は少なからず存在していたそうなのだけど、今回のことでそれを言う連中は表面上はいなくなった。
特にエルヴィス卿とかいう、あのテンプレなおっさんなんか戦の前後では対応がまるで違っていたよ。
「おぉ、勇者殿よ。此度の戦果お見事でありましたぞ」
「清風殿」から引き上げて、エルディード卿の部隊と途中で合流してから陣地に戻るとそこにはあの偉そうなエルヴィス卿が待っていた。
待っていたのだけど、ふんぞり返っていたのが、急にへりくだるようになっていた。
そのあまりの変わりように俺とティアリカは唖然としてしまった。
ただ当のククルさんだけは、一礼をしていたけども。
「あやつは、時流に乗るのが上手でしてな。いまの地位もそうして手に入れたのですよ」
いつのまにかそばにいたエルディード卿がため息混じりに教えてくれた。
時流に乗るのが上手。つまりは長いものには巻かれよ主義ってことか。
世渡り上手とも言えなくもないけど、味方の数よりも敵の方が多そうだなと思わなくもない。
でもそれも大人としての戦略だった。
なにが正しくて、なにが間違っているとかではなく、人それぞれにやり方があるということ。
それを非難しちゃいけない。わかっていても言いたくなるのもまた人の業なのかもしれない。
エルヴィス卿をあしらうようにして対応するククルさんを見つめながらそう思った。
「お礼を申し上げます、ご亭主殿」
不意にエルディード卿が頭を下げられた。
いきなりのことで驚いてしまった。
だけど当のエルディード卿はあまり気にはしていなかった。
そうするのが当然だと言っているかのようだった。
頭を下げてもらう理由なんてないのだけど、エルディード卿は頭を下げていた。
「孫娘を支えてくださった。お礼を言うのは当然でしょう」
ククルさんを支えたと言われてもそんなことはしていない。
いやできなかった。
俺にはなにもできなかった。
だから支えたわけじゃなかった。
でもエルディード卿は首を振っていた。
「ククルと少し話す時間がありましてな。「青臭いことを言われた」と笑っていました」
青臭いこと。
それは俺の行動すべてに対してだろう。たしかに青臭いことを言ったし、していたと思う。
でもそれのどこが支えになったのかがわからなかった。
「あれが素直ではないのはご存知でしょうが、ククルがそう言うということは、正論だったとも言えます」
「正論、ですか?」
「ええ、正論です。正論とは時に人を奮わせることもありますからね。おそらくはあなたの正論があの子を奮わせたのでしょう。そしてその結果、アトライトの最期を看取ることができた。あの子だけでは決してできなかったことでしょう。あの子だけでは最期を看取ることもできなかった。すべてが終わったあとに姿を現す。あの子ができたのは、あの子だけでできたのはそこまででしょうな」
エルディード卿は俺を気遣ってくれていた。でも同時に俺に感謝もしてくれていた。
前夜の宴で俺の腕の中で泣いていたククルさんを思い出すとたしかにエルディード卿の言うとおりなのかもしれない。
あの夜のククルさんは俺が知っているククルさんとは違っていた。
あれが本当のククルさんだったのかもしれない。
「ゆえにありがとうございました、ご亭主殿」
もう一度エルディード卿は頭を下げられた。
自分の力のなさを嘆いていた俺にとってその言葉こそが最大の報酬だった。
こうして戦は終わった。
この後、この戦は「蝿の変」と呼ばれる「蝿の王国」における最大の反乱と呼ばれるようになった。
最大の功労者としてククルさんは「ベルゼビュート」の総指揮官として抜擢された。
そしてアトライトさんは祖国に敵を招き入れ、王族を手にかけた売国奴兼狂人として名を残すことになった。
アトライトさんの願いどおりの結果になってしまったんだ。
続きは一時になります。




