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Act8-159 叛乱

 ありえない。


 なんなんだ、この男は!?


 いくら「七王」たちが規格外揃いとはいえ、剣の刀身をはるかに超えたカオスグールの脚を、切り傷をつけるならともかく切断するなどできるわけがない。


 なのになぜだ?


 なぜ「蝿王」はカオスグールの脚を斬ることができる!?


 ありえない。


 たとえ姉様であってもそんなことはできない。


 なのに「蝿王」にはなぜできる!?


「なぜだ! なぜ貴様はカオスグールを切れる!?」


 悪夢のようだ。


 その剣はまるで悪夢のようでさえある。


 ありえないことをなせる剣。できるはずのないことを、まるで当然のようになせる剣。


 そんな剣など悪夢以外のなにものでもない!


 あぁ、やはり「お父様」が仰ったとおりだった。


「いいかね、娘たちよ。「七王」たちには気をつけるのだ。彼奴らには常識は通用しない。むしろ彼奴らにとっては自分たちの行うことこそが常識であり、当然のことなのだよ。こちらの常識で当てはめてはいけない。大自然そのものだと思いなさい。特に「蝿王」は危険だよ」


 ルシフェニアを出る際、「お父様」が珍しく助言をしてくださった。


 普段の「お父様」はそんなことはしてくださらない。


 しかしそのときだけはなぜか助言をしてくださった。


 そしてその助言の際、唯一口にされたのが「蝿王」のことだった。


「彼は「七王」の中ではさほど目立たぬ存在だ。こちら側の常識に一番近いところにいるとも言っていい」


 常識が通じない「七王」の中で唯一常識に近いところにいる王。


 異質と言ってもいい存在。しかしそれだけでは警戒するにあたらない。


 アリアとて「お父様」の助言に首を傾げていた。


 しかし姉様だけは違っていた。


「……なるほど。たしかに危険ですね」


「ふふふ、さすがはアルトリアだな。アリアは致し方ないとしても、アイリスとて見抜けぬことをわかったか」


「お父様」は嬉しそうだった。姉様は静かに一礼をすると、私とアリアにわかるように言ってくださった。


「常識から外れているからと言って、必ずしも強いわけではない。しかしその常識に近いところにいる存在が、なぜ「七王」として在位しているのか。常識はずれの魔性の塊とも言っていい「七王」の一角として長らく数えられているのか。そのゆえんたる「なにか」が「蝿王」にはある。「お父様」はそれを教えてくださっているのよ」


「「なにか」ってなんですか?」


「さぁ。そればかりは直接見てみないとわからない。でも「お父様」がご助言をくださったことを踏まえると、決して軽視していいことではない。「蝿の王国」の担当はアリア、あなたよね?」


「はい、そうですよ」


「であれば、目で見たもの、耳で聞いたこと、肌で感じたこと。そのすべてを正確に報告しなさい。なにひとつとて漏れがあってはいけない。「蝿王」とはおそらくそれくらいはしないといけない存在だから」


 姉様は真剣な表情でアリアに言い聞かせていた。


 アリアも姉様と「お父様」の様子からただ事ではないと思ったようだった。


 ただ私はそこまで警戒することだろうかと思っていた。


 当代の「七王」たちはとても良好な関係を築いている。


 それこそまるで兄弟や姉妹のような関係だった。


 だからこそ、弱くてもお情けで「七王」のままでいられているのではないか。


 私はそう考えていた。


 思えば、アリアからの報告はたしかにずさんなものだった。


 協力者である「ベルゼビュート」の団長の名前さえ教えなかったほど。


 しかしアリアはたしかに言っていた。


「なんか気持ち悪いんだよね、この国。「世界樹」がそこら中にあるからなのか、空気は美味しくて食べ物も美味しいものが多いし、「獅子の王国」や「狼の王国」とは違って、過ごしやすい気候なんだけど、どこか気持ち悪いんだよね。なんか常に視線を感じるんだよ。王宮に近いところまで手を伸ばしているからそう感じていだけなのかもしれないけど、なにか妙な違和感があるんだよね。それがなんなのかはさっぱりわからないんだけども」


 アリアはおバカだけど、抜けているわけじゃない。


 そのアリアが言い様のない気持ち悪さを常に感じていた。


 それをもう少しまともに受けとればよかったのかもしれない。


 しかしまだだ。まだ挽回はできる!


「カオスグール! なにをしている! さっさと踏み潰しなさい!」


 こちらにはまだカオスグールがいる。これがいる限り、私が負けることはない!


「……」


 しかしカオスグールは不意に黙ってしまった。


 なにをしていると思い、顔を見ると理性の光が宿った瞳と目が合った。


 気づいたときにはカオスグールに握り絞められてしまっていた。

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