Act8-157 そういうところですよ!(By恋香
恒例の土曜日更新です。
まずは一話目です。
ティアリカが死んでしまった。
肉体的にではなく、精神的にティアリカは死んでしまっていた。
目に光がない。端から見たら、俺がキスしたせいでそうなってしまっているように見えて、醜聞が立ちそうで怖い。
いや、まぁ醜聞が立っても問題なんてなにもないんですけどね?
ただ人の上に立つ者として、そういうスキャンダルは大問題な気がするんだよね?
日本にいた頃は代議士等の政治家や官僚等の一部のお役人方、はたまた有名芸能人などの地位を確立した方々の女性問題が日常茶飯事のように報道されていたし。
まぁ毎日そういう報道があるわけではないけども、そういうスキャンダルが多いのは事実だ。
俺なんか「お金持っている人は考え方がすごいなぁ」という程度にしか考えていなかったけど。でも俺と同じように考えている人は少なからずはいるはずだ。
「報道の自由」がなんだのと言われているけど、要はそういう話が好きという人が一定数存在するからこそ、スキャンダルが後を絶たないわけだと思う。
でもまさか日本にいた頃は、そんなこととは一生無縁だと思っていたのに、まさか俺もスキャンダルに関わることになるとは。
いや正確には関わりそうになるかもしれないなんて考えてもいなかったよ。
だってキスし終えたというのに、ティアリカの目はいまだに死んでいる。
それどころかぶつぶつとなにかを呟いていた。
ためしに耳を近づけてみると──。
「死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい……」
──とまぁ、延々と「死にたい」と連呼していた。
この場に人目がなくてよかった。
俺たち以外にもいるけど、グラトニーさんたちはグラトニーさんたちで集中しているようだし、この醜聞を知られることは──。
『ふふふ、ついに崩せますよ! あなたの圧倒的な牙城を!』
──失念していたよ。
ここに恋香という名のパパラッチがいたわ。
というか牙城ってなんだよ、牙城って。俺がいつそんなものを建設したよ?
本当にどうして俺を貶めることに全力を出そうとするのかな、こいつは。
『あたりまえですよ! 私はあなただというのに、ほぼ同一の存在だというのにも関わらず、私は「変態」だの「脳内ピンク」だのと貶められるというのに、私とさほど変わらないあなたばかりオイシイ目に遭うなんて、納得できますか!? いいやできません! できるはずがない! この怒りも悲しみもすべて私のものなのですよ!』
体があったら、クワッと目を見開いていそうなことを抜かす恋香。しかしどこかで聞き憶えのあるセリフだな。
『そもそも私はずっと待っていたのです!』
『なにを?』
『ギシアンの際の交代に決まっているでしょう!?』
『……クリスマスプレゼントみたいなことを言わないでくれません?』
どこのジョ◯サンだ、おまえは。というか、また俺の記憶を勝手に──。
『いいから替わってよ! 私もギシアンしたいの! いい子でいるから替わって、替わって!』
『駄々っ子か』
手足をじたばたとさせる恋香を想像してしまったが、そもそもそんな駄々は認められん!
というかなぜにこいつとうちの嫁ズのそういうところを見なければならんのやら。NTRは見るのもされるのも嫌いなのです!
ゆえに却下だ、却下!
『香恋の意気地なし!』
『意気地なしもないわ! あたりまえのことを言っただけだっつーの!』
『いいえ、意気地なしです! 香恋のばーか、ばーか!』
『子供か、おまえは』
相手するのも面倒になってきた。
適当に相手するのを切り上げて、腕の中のティアリカを見やる。ティアリカはまだ目が死んでいた。
「あー、その、なんだ。嫌だったら謝るけど」
ここまで目が死んでしまっているのだから、俺にキスされるのが嫌だったのかもしれない。であれば悪いことをしてしまったのかなと思ったのだけど──。
「……嫌ではありません。嫌なのは、「旦那様」に軽蔑されそうなことを考えていた手前自身にでありまして」
──嫌ではなかったようだ。
目は相変わらず死んでいるけど、説明してもらえた。してもらえたのだけど、どうにも勘違いをしているみたいだ。
「俺はティアリカがティアリカであればそれでいいよ?」
軽蔑なんてするわけがない。
それをわかってもらうためにティアリカの体を強く抱き締めた。
ティアリカが腕の中で慌てるけど、無視して抱き締めた。ティアリカは次第に落ち着きを取り戻してくれて──。
『そういうところですよぉぉぉぉぉーっ!』
──代わりに恋香が荒ぶってしまったが、まぁ仕方ないかな。荒ぶる恋香をまるっと無視して俺はティアリカを抱き締め続けたんだ。
香恋はどうしてこうもタラシちゃうんでしょうね?←
続きは二十時になります。




