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Act1-2 首都「ラース」

本日二話目です。

「大赤字だよ」


「知りませんよ。ギルドマスターが独断専行するからでしょう?」


「だって、俺が一番偉いんだから、別に独断専行したって」


「組織の長がそんなのでどうするんですか?」


 シリウスを抱き締めながら、アルトリアがため息を吐く。


 シリウスもジト目で俺を見ていた。


「こいつは本当にどうしようもないな」と顔に書いてある気がする。


 シリウスのくせに生意気だった。今日の餌は半分にしてやる。


 でも、餌を半分にしたことを知られたら、アルトリアに怒られそうな気がする。子供みたいなことをするな、って。


 十五歳なんてまだまだ子供だと思うのですよ。だから子供っぽいことをしてもいいんじゃないかなと思うんだよね。


 以前大真面目でそう言ったら、アルトリアが、どうしようもないものを見ているように感じられたので、あれ以来そういうことは言っていない。


 どうしようもないものから、しょうもないものを見る目にクラスチェンジされたら、堪ったものじゃない。


 だが、それでもシリウスへの報復はしておきたい。


 俺とシリウス、どちらが上位者であるのかを、そろろそろはっきりさせてあげないといけないと思うんだ。うん、これは飼い犬に対する躾のようなものであり、虐待というわけでは──。


「シリウスちゃんのご飯を減らすようなことはしないでくださいね? こんなにもかわいい子のご飯を減らすなんて、ただの虐待ですし」


 じろりと俺を見やるアルトリア。


 心を読む能力があるのだろうか。そう思えるほどに、行動が読まれてしまっていた。


 これでは躾と言っても虐待のひと言で切り捨てられてしまう可能性が高い。


「ぎゃ、虐待じゃなく、どっちがより上位者なのかをだね」


「そんなのギルドマスターが下位に決まっているじゃないですか。シリウスちゃんはこんなにもかわいいんですよ? ねぇ、シリウスちゃん」


 アルトリアがシリウスに頬ずりをした。


 シリウスはアルトリアの胸部装甲に挟まれる形になり、心地よさそうにしている。


 あの野郎。俺が抱きしめているときは、あんな顔をしないくせして。これだからオスって奴は困るんだよな。


「……ギルドマスター、変な目で見ないでくださいよ」


 そう言ってアルトリアは胸元を隠すように背中を向けてきた。


 ちょっと待て。俺は胸部装甲なんてものはありませんが、一応女だ。その俺が、アルトリアの胸なんて見ているわけがないだろうに。言いがかりはよしてほしい。


「だって、ギルドマスター、私の胸をじろじろと見ているんですもん。身の危険を感じましたよ」


「失礼な! 俺は女だって言っているだろう!? その俺がなんでアルトリアの胸をじろじろと見るんだよ。見ているのはシリウスだよ!」


「本当ですかぁ? いやらしい目で見られているように感じましたよ?」


「ちげえし! だいたいアルトリアくらいの胸なんて、俺にとっては大きくないもんね! エンヴィーさんの方がとんでもないし!」


 アルトリアの胸は年齢にしては大きめだ。


 キュートレベルはあるだろう。だが、エンヴィーさんの最低でもグレートレベルのそれとは比べようもない。


 俺が男だったら、確実にどぎまぎとしていたはずだ。


 まぁ、女であっても、普通にどぎまぎさせられているけれど、それはエンヴィーさんが相手だからしょうがないと思うんだ。


 だというのに、アルトリアと来たら、まるで自分以上に大きな人はいないと言うかのような、自意識過剰すぎる意見はどうかと思うんだよね。


 たしかに俺よりかははるかに大きいが、エンヴィーさんと比べたら、まさに大人と子供で、って、あれ? アルトリアがなぜか顔を真っ赤にして、ぷるぷると震え始めたんですが。


 いや、ちょっと待ってよ。同じ女なんだから、これくらいは聞き流すべきじゃないかな。


 いや聞き流してほしいんですけど。そう言う間もなく、アルトリアが顔を真っ赤にして近づいてくる。


 いつのまにか、シリウスはアルトリアの腕の中から抜け出し、首都の方へととことこと歩いていた。


 おい、待てよ。そこで逃げ出すな。そう言いたかったが、アルトリアが俺の前に立つ方がより速かった。


「あ、アルトリア、さん?」


「このセクハラマスター!」


 そう言って、アルトリアの平手打ちが飛んできた。


 目を細めても、その平手打ちを回避することはできなかった。


 大きな渇いた音があたり一帯に響き渡った。


 アルトリアは、鼻を鳴らしてから、俺に背中を向けて歩き出した。俺はその背中を慌てて追いかける。


「ご、ごめん」


「知りません」


「ごめんってば、アルトリア~」


「知りません」


 アルトリアは先行していたシリウスに追い付き、再びシリウスを抱きあげて、歩いている。


 俺は痛む頬を押さえながら、アルトリアのご機嫌取りというか、謝ったのだけど、許してもらえなかった。許してもらえないまま、気づいたら、首都「ラース」にまで帰りついていた。


 首都「ラース」は、「蛇の王国」の首都「エンヴィー」とは違っていた。


 首都「エンヴィー」は、街の西側は港になっていた。


 国土のほとんどが海に面している「蛇の王国」の通説は、首都でも変わらなかった。


 けれど「ラース」は、「エンヴィー」のように、海に面してはいない。


 それどころか、「竜の王国」自体が「魔大陸」の中央にある国だからか、湖や川はあるけれど、海がない。


「ラース」はそんな「竜の王国」のちょうど中央に当たる場所にあった。


 周囲は高い山々と谷やがけに覆われているため、天然の城塞となっている。


 加えて、首都の正面には崖を思わすような深い堀があり、その堀のうえに広大な橋が架かっている。


 その橋がいま俺とアルトリアが渡っている橋だった。


 橋は石でできていて、とても安定感があった。それこそ大軍が通っても大丈夫なくらいに頑丈そうだ。


 だが、大軍は通れても、この首都を囲い込むのは無理だろう。


 堀は、どうやっても埋めることはできそうにない。


 だって堀のはずなのに、底が見えないし。耳を澄ますと、水の音がするから、底に水があるようだけれど、その底がどこにあるのかは、俺の目では確認しきれない。


 そんな深すぎる堀を埋める方法があるなんて、俺には思えない。


 仮に埋めようとしても、城壁から攻撃を受けるだけなのは、目に見えていた。


 それに埋められたとしても、まだ周囲を囲むには足りない。


 まだ高い山と崖と谷が残っている。堀を埋めつくしても、まだそれらが残っている以上、攻められる方向は自然と正面だけになってしまう。


 堀を埋めることだって、普通であれば考えることもない。


 となれば、進軍路は自然とこの橋だけになってしまい、門を突破できなければ、その時点で身動きが取れなくなってしまいかねない。


 まさに守るがやすし、攻めるに難しな首都だった。


 もっともいまは身動きが取れなくなるほどの大軍の姿はなく、ちらほらと冒険者の姿やこの首都への観光に訪れた人たちの姿が見受けられる。


 その人たちの視線が、いまは俺とアルトリアにと向けられていた。


 怒っているアルトリアと頬を押さえながら、アルトリアの後を追う俺。


 俺の見た目が、まだ女とわかるからいいけれど、これでスポーツ刈りであったら、確実に嫁を怒らした旦那という体になっていたはずだ。


 よかったよ、女の子らしい顔立ちで。


「ギルドマスター、また秘書ちゃんを怒らしているよ」


「やれやれ夫婦喧嘩なんて、犬も食わねえんだがなぁ」


 うちのギルド所属の冒険者の何人かが、なにやら聞き捨てならないことを言っている。


 とりあえず言わせてほしい。


 夫婦じゃないから。そもそも同性だっつーの。夫も妻もねえだろうに。なんてことを言っているかね。


 これじゃあアルトリアがまた怒りだしそうだ。


 先行しているアルトリアの顏は見えない。


 だが、角度によるが、横顔くらいなら見られる。


 横顔が見える位置に逸れて、アルトリアの様子を窺うと、なぜか顔を赤くしている。


 まだ怒っているのかな。本当にアルトリアはヒス一歩手前だから困るよ。


「出会ったときは、まだかわいかったんだけどなぁ」


 小さくため息を吐いた。


 すると、アルトリアが立ち止まると、なぜか振り返った。


 その表情は笑顔だった。とても攻撃的な笑顔だった。


 あれ、地雷踏んだ。そう思ったときには、アルトリアがまた近づいてきた。


「まだかわいかった? まだってなんです? いまはかわいくないってことですか?」


「え、いや、そういうことじゃなくてですね」


「じゃあ、どういうことですか? 教えてください」


 詰め寄ってくるアルトリア。


 そのたびに一歩下がるが、俺が下がるよりもアルトリアに詰め寄られる方が早かった。


 逃げ道を塞がれながら、どうしてこうなっちゃったかなぁと俺は涙ながらに思った。


 出会ったときは、もっとかわいげがあったのに。


 それがどうしてこんなバイオレンスな性格になってしまったのだろうか。


 アルトリアとの出会いを振り返りつつ、そう思った。

明日は十六時更新になります。

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