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Act8-150 怒れる王

 本日二話目となります。

「なんだ、貴様は?」


 突如として現れた仮面の騎士にアイリスは少し困惑していた。


 無理もない。俺だっていきなりの乱入に戸惑っているんだ。


 そもそもなんでこの騎士はこの場にいるんだ? ティアリカはどうしたんだろう?


「あいつは眠っているぜ? ちょっと不意を討ったというか、卑怯なことをして眠ってもらったよ」


「ティアリカに勝ったのか?」


 不意打ちや卑怯なことをしたという聞き捨てならないことを言ってはいるけれど、要はティアリカに勝ったということだった。


「剣仙」と謳われたティアリカに勝った? 


 いくら動揺させたからといって、あのティアリカに勝った?


 すぐには信じられない。


 けれど騎士がこの場にいることがその証拠か。でもにわかには信じがたいな。


 だってどんなに動揺させたところで、ティアリカの動きは決して鈍らない。


 そのティアリカを気絶させた? いったいどうやって。いや、そもそもこの騎士は何者なんだ?


 だってティアリカは「剣聖」と百戦した百回引き分けるほどの腕前だとレアが教えてくれた。


 そのティアリカに勝てるということは、この騎士は「剣聖」と同等ないしはそれ以上の腕の剣士ってことになる。


 でもそんな剣士がいるのであれば、噂が広まっていそうなものだ。


 でもそんな噂は聞いたこともない。そもそもそんな剣士なんて存在するのか?


 だって「剣聖」は史上最高の剣士だ。


 その史上最高の剣士と同等ないしそれ以上の剣士が現れたら、どんなに隠したところで噂のひとつやふたつは流れてきそうなものだ。


 特に俺は冒険者ギルドのマスターをしているんだ。凄腕の剣士の噂をまるで聞かないというのはありえない。


 この騎士はいったい何者なんだ? 「剣仙」であるティアリカをどうやって打倒したと言うんだろうか?


「あんた、一体何者だい?」


 尋ねている場合じゃないのはわかっていたけれど、聞かずにはいられなかった。


 すると騎士は「なに言っているんだ?」と聞き返してきた。


 いや、なにを言っているんだと言われても、こっちのセリフなんだよな。


 なんでそんな俺がこの人を知っているという前提で──。


「いや、前提もなにもラースのところで一緒に飯を食って話をたよな?」


「へ?」


 ラースさんのところで話をした? 


 そもそもラースさんを呼び捨て? 


 あのとき、一緒に食事して、話もした相手でラースさんを呼び捨てにできる相手と言えば──。


「え? ま、まさか?」


「おう。いまさら気づいたか? いやぁ、まぁ、俺ってば最強系だからな? 変装してもやっぱり最強系かなぁ。あははは」


 その言葉は聞き憶えがあった。


 そしてその笑い方もだ。


 ということは、この騎士は。


 いや、この人はもしかして──。


「なにやらごちゃごちゃと言っているみたいだけど、ティアリカというのはたしか「剣仙」ティアリカのことね? あの「剣仙」ティアリカを倒せるとはね。ふふふ、見所があるじゃない。どう? この雑魚の部下じゃなく、私の部下にならない? 思う通りの報酬を約束してあげてもいいけれど?」


 アイリスはこの人の正体に気付いていないのか、まさかのヘッドハンティングを始めた。


 無知というか、事情を知らないというのは怖いね。


 穏やかなこの人の逆鱗にみずから触れてしまうのだから。


「……おい、嬢ちゃん。いま誰になにを言ったかわかっているのかい?」


「誰にって、あなたよ? こんな滅ぶのが決まった国に忠義を果たす必要などないでしょう? むしろその忠を我が祖国に」


「滅ぶ? この国が? 面白い冗談だな」


「冗談? ふふふ、残念ながら本当のことよ? あなたも聞いていたでしょう? この国の王である「蠅王」はすでに死に、その後を継いだ雑魚もこの通り、化け物と化した。すでにこの国が滅ぶことは必定であって──」


「「蠅王」が死んだ? へぇ。そうかい。いつ「蠅王」は死んだんだい?」


「なにを言っているの? たしかあの場にはあなたもいたじゃない。規格外と言われる「七王」のくせして、あんなにもあっさりと私に殺された名前だけの」


「ああ、それは間違いだぜ?」


「間違い?」


 アイリスが困惑を強めた。同時に警戒を始めたようだ。


 なにせアイリスとやり取りしているこの人から、尋常じゃない殺気が放たれているのだから。


 そしてその殺気はまっすぐにアイリスへと向かっていた。アイリスの表情がわずかに恐怖に染まった。


「な、なにが間違いよ? だってあのとき「蠅王」の首を私が」


「ああ、落としたよ。俺の目の前で、うちのバカ息子の首をな」


「え?」


 拳を強く握りしめる音が聞こえてくる。爪の色が真っ白になっていた。


 抑えられない怒りにこの人が突き動かされている。


「本当に、あいつはバカ息子だよ。なにが影武者だ。いつ俺が、そんなことをしろと命じたんだっつーの。おまえに守られるほど、おまえの親父は、俺は弱くなんかねえんだ。なのにあいつは親の言うことをまるで聞かずに、笑って死にやがった。死に際に「あとはお任せします」だぁ? ふざけんなよ。本当にふざけんなよ、あのバカ息子が!」


 身に着けていた仮面を地面に叩きつけてから、怒号が飛んだ。


 抑えきれない憤怒を纏うこの人を見て、アイリスは驚愕に顔を染めていた。


「な、なんで? たしかにこの手で」


「……言っただろう? 影武者として息子が死んだってな。そうさ。おまえが殺したのは俺の息子だ。そしておまえが肩に乗っているのも息子のように思っていた奴だった。ああ、そうだよ。おまえは俺からふたりも息子を奪いやがった。この俺から、この「蠅王」グラトニーから息子を奪ったんだよ!」


 グラトニーさんは涙を流しながら叫んでいた。血の涙を流しながらアイリスを睨み付けていた。

 続きは明日の十六時予定です。

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