Act8-144 蒼と紅
まさか二日連続で遅れてしまうとは←汗
でも、明日は大丈夫です。
うん、大丈夫デスヨ? 本当ダヨ?
こいつがなにを言ったのか、すぐには理解できなかった。
「──アルトリアが俺を想う気持ちも偽物、なんだろう?」
言われた言葉を解することはできる。けれど、その意味をすぐには理解できなかった。
いや理解したくなかった。その言葉は私をこれ以上となく苛立たせるものだった。
「姉様の気持ちが偽物、だとぉ!?」
目の前が真っ赤に染まり上がる。
なんだ、それは。なにを言っているんだ、こいつは!?
ホムンクルスだからなんだ? ホムンクルスが抱く気持ちはすべて偽物だと言いたいのか!?
試験管で産まれた存在はすべてまっとうに恋をしないと言いたいのか!?
「ふざけるなよ、貴様ぁぁぁーっ!」
眼球を切られた痛みはある。
あるけれど、そんなものなどどうでもいい!
いまは目の前にいるこの女を殺してやりたい。
そんな怒りが私を突き動かした。まるで獣のような雄叫びを上げながら、目の前の怨敵に掴みかかった。
目を切られはした。しかし、体格は私の方が勝っている。であれば押し倒すことなど容易くできる──はずだった。
「……じゃれつくのが好きなのか?」
なにをしたいのかがわからない。
奴はそんな顔で私を見つめていた。
なぜ? なぜ、なぜ私の力が通用しない!?
私の身体能力は強化されているはずなのに。
常人程度では、たとえ「異世界からの旅人」であったとしても、私が本気になれば、肉塊にできるはずなのに。
なのになぜこいつは平然としていられる?
私の力がまるで通用していないんだ!?
「「異世界からの旅人」とはいえ、ただの人風情が」
「俺はただの人じゃないよ」
ぽつりと、いくらか傷ついたような顔で奴は言った。
なにを言いたいのかがわからない。
ただの人ではないというのであれば、こいつはなんなんだ?
いったいこいつは何者なんだ!?
「俺はカレン。冒険者ギルドのマスターであり、現役の冒険者。母親は母神スカイスト。その血を継いだ半神半人だ」
そう言った奴の目が蒼くなった。
「まさか、貴様」
「覚醒者」だというのか?
「七王」以外に「覚醒者」が現れたと言うのか!?
それも神気を纏った「覚醒者」だと?
そんな存在いままで聞いたこともない!
それが母神の娘だからか? 母神の娘だからそんな恩恵を与えられたというのか!?
「ふざけるな。ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなぁぁぁ!」
なんの苦しみもなく、なんの悲しみもなく、そしてなんの怒りも抱かない。
そんな存在が、ぬくぬくと育てられてきた存在が、規格外の力を得たというのか?
ふざけるな。ふざけるなよ!
「認めん! 私はおまえを認めない! 苦しみも悲しみもそして怒りも抱いたこともない貴様などを、絶対に認めはしない!」
全力で奴の体を押した。押し倒して殴り殺してやる。そう思ったのに、奴の体は動かない。
どんなに押しても、まるでびくともしない。
なぜだ? なぜここまでの差がある?
「覚醒者」というだけでなぜここまでの差ができてしまう!?
ありえない。いや、認めない! こんなの。こんな理不尽など認めてたまるものか!
「……知っているよ」
「なに!?」
「苦しみも悲しみもそして怒りさえも知っている」
ぞっとするような目だった。
神気を帯びた蒼い瞳ではなく、「地獄」の使者の思わせるような紅い瞳になっていた。
無機質な紅い瞳に小さな悲鳴が自然と漏れ出していた。
「愛した人を喪った。目の前で殺された。その怒りも悲しみも苦しみも。すでに知っている。ああ。そうだ、知ったうえで俺は──」
「おまえを殺さないと決めたんだ」そう奴が言ったと同時に腹が爆発したような衝撃が走った。
胃の中のものが逆流するなんてレベルじゃなかった。内
臓が破裂したかのような激痛に苛まされた。大量の血を吐き出していた。
「おまえを殺したところで、カルディアは戻ってこない。シリウスだって笑ってくれない。ああ、そうだ。俺はおまえを殺してやりたいと思っていたよ。でも、でもな。愛妻と愛娘が望まないことだ。だから俺はおまえを殺さない!」
奴の拳が飛んでくる。見えない速さの一撃が無数に飛んでくる。
そのすべてが私の体を穿つような威力を持っていた。
血が宙を舞う。痛みが全身に走っていく。
「本当は殺してやりたいよ。カルディアがどんなに痛かったのか。どんなに苦しかったのか。どんなに悲しかったのか。そしてどんなに生きたかったのか。おまえに、おまえにわかるか!?」
私を殴りながら奴が涙を流していく。
なにを言っているのかがわからない。
こいつはなにを言っている? 言われた意味を理解できないまま、奴の攻撃を受けることしかできなかった。




