Act8-142 憤怒と絶叫
本日二話目です。
お食事をしている方やグロイのが苦手な方はご注意をば。
忌々しい。
ああ、まったくもって忌々しい!
なぜこの場にこの女がいる!?
この戦に参加しているのは知っている。
しかし、なぜここまでこの女がやってこられる!?
雑魚と「ベルゼビュート」の叛乱は予想外だったが、通路にはカオス兵たちが。
いや、カオスグールの大群がいるはず。
そのカオスグールたちをこの短時間ですべて倒したというのか?
いくらなんでも無理だ。そんなことができるはずがない。
カオスグールは一体一体であれば、私やアリアでも殲滅はできる。
しかし無数のカオスグールを相手では、私やアリアでは突破はできない。
できるとすれば最低でも姉様クラスの実力がいる。この女はそこまでの実力を得たと言うのか?
母神の娘というだけで、そこまでの力を得たというのか?
ありえない。なんの危険もない世界で、なんの不自由もない生活をして、ただ生きていただけの女が私よりも強いというのか!?
あっていいいわけがない。そんなことあっていいわけがない!
「よう、初めましてだな、アイリス」
「貴様っ!」
しかも馴れ馴れしい。私を呼び捨てにするだと? そんなことができるのは姉様とお父様だけ。
なのに、この女は。この高貴たる私を呼び捨てにした。許されることではない。許していいことではない!
「まずは自己紹介をさせてもらおうか。俺の名はカレン。カレン・ズッキー。おまえを打ち倒すものだ!」
なによりも許しがたいのは、この私を倒すと言ったこと。
血塗られた道を歩み続けてきたこの私を。
「母」をも喰らい尽くしたこの私を、倒すと言ったことだ。
「調子に乗るなよ、貴様ぁっ!」
受けとめられた剣に力を込める。
このままこの女の後ろにいる「混ざり者」ごと叩き斬ってやる。
全力で力を込めて奴の剣を押す。だが──。
「どうした? そんなものか? おまえの怒りと憎しみはそれぽっちのものか?」
──奴の剣を押すことができない。押しているはず。力を込めているはずなのに、まるで動かない。
岩山と対峙しているかのようだった。
岩山のように奴の足は地面とぴたりとくっついていて、その身を動かすことができない。
「バカな。たかが人間が私の力を超えている、だと?」
たとえ「異世界からの旅人」であろうとも、人間であることには変わらない。
人間である以上はどうやっても限界はある。
その限界は私やアリアにとってみれば、片手で捻れる程度だった。
しょせんはただの人間。どれほどに恩恵をあずかろうとも限界はある。
その限界を超えようとすれば、それこそ身を滅ぼすことになる。
たとえば戦うたびに、子供の喧嘩のようなことであっても、命を削ることになるか、息をするたびにひどい激痛に晒されることになる。
具体的に言えば、神経をむき出しにされて、そのうえでゆっくりと爪を剥がされていくような痛みが、少しずつ体を損傷していく痛みが常に付き纏うことになる。
特別な力を得るのに、なんの代償もないことはありえない。
ありえるとすれば、それは神の寵愛を受けているということ以外にはありえない。
その寵愛をこの女は受けているのか?
母神の娘というだけで、それほどの寵愛を受けていると言うのか?
手を汚すこともなく、血で喉を潤わすこともなく、腐肉で腹を満たすこともなく、それほどの力をなんの代償もなく得たというのか!?
「ふざけるなぁぁぁーっ!」
腹の底から叫んだ。あってはならないことだ。
そんな理不尽などあってはならない。そんな不条理などあっていいわけがない!
「殺す。殺してやる! なんの努力も、苦労もなく恩恵をあずかる貴様など生きていいわけがない!」
そうだ。殺す。殺さなきゃいけない。でなければなんで私は「母さん」を殺さないといけなかった?
「母さん」の血を飲み、「母さん」の肉を喰らわらければならなかった!?
すべては強くなるため。「お父様」の娘として、「アイリス」としてあるために私は母を殺し喰らった。
その私の強さをこの女が超えるなどあってはならない。
たとえ力だけであったとしても、この女よりも下回ることなどあってはならんのだ!
「死ね。死ね、死ね、死ねぇぇぇぇ!」
受けとめられた剣を無理やり跳ね上げて、渾身の力で振り下す。
受けとめられてしまったが、それでも構うことなく何度も何度も振り下す。
剣と剣がぶつかり合う、不愉快な高い音が鳴り響く。
早く切り裂かせろ。貴様の肉を切り裂かせろ!
怒りと憎しみで目の前が真っ赤に染まっていく。
それでも構わずに剣を振るい続けていた。しかし──。
「……軽いな」
奴はぽつりと呟いた。そう思ったときには奴の剣がまるで生き物のように動いた。
絡み取るようにして剣が、私の愛剣が宙を舞った。なにが起こったのか、すぐには理解できなかった。
「まずは右だ」
また奴が呟いた。同時にひどい痛みが、死にたくなるような痛みが右目に走った。
自分のものとは思えない絶叫が響くのを私は他人事のように聞いていた。
時間的にお食事をしている方やグロイのが苦手な方には申し訳ありませんでした。
続きは明日の十六時予定です。




