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Act8-138 真の「担い手」

 カレンちゃんが走り去っていく。その後をククルさんも追いかけていく。


 ふたりが遠ざかっていくのを眺めつつ、私は静かに息を吐いた。そして手元のジールヘイズを見つめた。


「さて。私を「担い手」として認めているのであれば、力を貸しなさい、ジールヘイズ」


 カレンちゃんたちの前では言わなかった。


 いや言えなかったことがある。それはジールヘイズが私を認めたのは半分だけだということだ。


 私を「担い手」として認めてくれはしたけれど、真の「担い手」として認めてくれたわけではなかった。


 だって「神器」であるジールヘイズからの声を私はまだ一度も聞いていなかった。


 ただジールヘイズと意思を疎通することはできたのだと思う。


 はじめてジールヘイズを見たとき、ありえないものを見た気分になった。


 だってカレンちゃんの手にあったのは存在しているはずなのに、存在していない物体だったんだもの。


 たしかに物体としては存在していた。けれどその存在はあまりにもおぼろげだった。


 まるで幻を見ているかのような気分だった。


 なのに肌を打った。その圧倒的な存在感が肌を打ち続けていた。


 幻のようで、幻ではない。私にとってジールヘイズはそんな存在だった。


 夢幻の中に存在しているようにさえ感じられる。


 いまだってジールヘイズを握ってはいる。なのに感触がほとんどなかった。


 ずしりとした重さがあるはずなのに、とても軽い。


 相反する感覚を同時に感じさせる存在だった。


 ゆえに夢幻の存在。あるはずなのにない。ないはずなのにある。そんな不思議な感覚だった。


 それはきっとジールヘイズが私を試しているからなんだと思う。


 私を真の「担い手」であるかどうかを確かめているからなんだと思う。


 みずからを操るにたる「担い手」なのか。


 それとも「担い手」の資格があるだけの半端者なのか。


 それをジールヘイズは確かめている。確かめようとしている。


 であれば、だ。私がするべきなのはひとつだけだった。


「なんて言うと思ったか!? いい加減にしろ、このクソ槍が!」


 ジールヘイズの柄に向かって頭突きをしてやった。


 周囲を伺っていたカオスグールたちの動きが止まる。


 困惑しているように感じられるけれど、そんなことはどうでもいい。


 いまは人を勝手に試そうとしているなどという、ずいぶんと調子に乗ったことをしてくれているクソ槍に、立場の違いを教えてあげることが大切だった。


「いい? よく聞きなさい、ジールヘイズ。私はおまえを使わせてもらうわけじゃない。私がお前を使うんだよ。「神器」だかなんだか知らないけれど、たかが槍一本の分際で上から目線しているんじゃない! おまえはさっさと私のために力をふりしぼれ! おまえの「担い手」は私だ! このモーレ・ゼルストリアだ!」


 そう言って私はもう一発頭突きをかましてやった。


 ずきずきと額が痛むけれど、そんなこと知ったもんか。


 この調子に乗ったクソ槍に立場の違いってもんをはっきりとわからせてやらないといけないんだ。


 こんなことくらいで痛がってなんかやるもんか。


『……ふふふ、我をクソ槍呼ばわりか。いいだろう、モーレ・ゼルストリア。いや我が主よ。そなたに我が力を──げふんっ!?』


 クソ槍がなにやら長ったらしいことを言っているけれど、どうでもいい。


 というか前置きが長い! さっさと本題を、力をよこせ! 


 苛立ちとともに頭突きをもう一発かましてやると、「……生意気なことを言ってすいませんでした」と低姿勢になった。


 それでいいんだよ、それで。まったく面倒なことをさせないでほしいね。


『いや、あれは我の荘厳さをですね』


「無駄口はいいからさっさとしな、クソ槍。叩き折るよ?」


『……はい』


 クソ槍は静かに頷いた。同時に風が吹いた。吹き荒れるような強い風が「清風殿」の中で吹き始めた。


「さっさとカレンちゃんに追い付くんだ。腐肉どもなんて一蹴するよ!」


『承知』


 短く返事をしたジールヘイズを手に、私はカオスグールたちへと向かっていった。

 カレンの影響を受けているのか、わりと豪快なモーレさんでした

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