Act8-136 無自覚すぎる「旦那様」
本日二十三話目です。
剣が無数にあるようだった。
カレンちゃんの剣は一振りのはずなのに、最後の一撃は剣が無数にあったように見えた。
しかもご丁寧なことに、すべての斬撃に天、嵐の力を刀身に付与したうえでのもの。
しかもそれをほぼ同時で無数に放っていた。
カオスグールはなにがあったのかさえもわからなかったはず。
気づいたときには懐に入られたどころか、致命傷を負わされていた。
なにがあったのかさえも理解できないまま、カオスグールは沈んだ。
もう活動することはできないはず。
一撃の威力はもちろんのこと、その攻撃を無防備な状態で無数に受けた。どう考えて致命的だ。
攻撃を仕掛けるどころか、活動限界さえ超えてしまったダメージのはず。
実際カオスグールの体は、組織の結合さえできなくなってしまっていた。
ぶよぶよの体は黒く濁った水溜まりになって、「清風殿」の廊下を汚していく。
「……強くなりすぎでしょう、小娘ちゃん」
ククルさんが呆れていた。
「神器」を装備している私でさえも、その動きはほぼ見えなかった。
「神器」を装備したからか、身体能力は向上していた。
さすがにレア様方、「覚醒者」ほどではないけども、規格外な方々を抜かせば、この世界でも上位には至れていると思えるのに、その私であってもカレンちゃんの動きはほぼ見えなかった。
最後は無数の光がカオスグールを切り刻んだとしか見えなかった。
ギルドマスターとは言え、一般人であるククルさんにはなにが起こったのかもわからなかったはずだ。
おそらくは強い光があったとしか思えなかったはず。
この世界に来た当初からしてみれば、あまりにも強くなりすぎている。
あの頃でもだいぶ強かったけど、隙を見いだせば殺せる程度だった。
けれどいまのカレンちゃんを殺すとなると、隙を見いだしたところで殺せるわけがない。
カレンちゃんを殺すためには、レア様方クラスの実力者でなければたぶん無理だ。
「そうですか?」
当の本人は理解できていないのが、また困り者だ。
どうしてこの子は、こうも自己評価が低いのやら。
「とりあえず行きましょう。主様の自己評価が低すぎるのはもういまさらですので」
「そうですね。あなたも大変ですね」
「もう慣れました」
やれやれとため息を呟くと、ククルさんの同情然とした眼差しを向けてくれた。
やめてほしいけども、たぶん無理だ。
「……え、なにこの空気?」
そして当の本人はやはり無自覚。本当に困った子だった。
でもそういうところも私は好きだった。
いや、きっとカレンちゃんのお嫁さんたちは全員、この子のこういうところが好きなんだと思う。
無自覚だけど、無自覚な優しさが。無自覚な温かさが。私たちは好きなんだ。
好きなんだけど、自分の魅力に無自覚なところはどうにかしてほしいな。
カレンちゃんってば、もとから美少女なのに下手な男よりもはるかにカッコいい。
だというのに、本人は自分の見目はちんちくりんでかつ、がさつとか思っているからね。
本当に困った子だ。本当に困った「旦那様」だ。
「なんでもありませんよ、さぁ、行きましょう、主様」
そんな「旦那様」と一緒に私は「謁見の間」へと向かっていった。
続きは二十三時になります。




