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Act8-134 カオスグール、再び

 本日二十一話目です。

 惨劇の音を聞きながら、俺たちは「清風殿」の内部を進んだ。


「清風殿」の内部は、「ベルゼビュート」のみなさんが言っていたように黒騎士たちの死体がところどころにあった。


 ただ「ベルゼビュート」のみなさんが黒騎士たちを圧倒していたという証拠だった。


 中には壁にめり込んでいる死体や天井にまでぶらさがっているものもあった。


 いったいどうやったんだと思う死体もある。


 でも圧倒はしているようだけど、被害が皆無だったわけじゃない。


 大半が黒騎士の死体だけど、十にひとつは「ベルゼビュート」の兵の死体もあった。


「ベルゼビュート」はグラトニーさん直属の親衛隊という話だけど、その親衛隊を以てしても被害が出るほどに黒騎士たちは強かったようだ。


 しかもそれが戦闘メインではなく、後方担当というのだから、戦闘メインでかつ精鋭たちとなれば、どれほどの強さなのかは窺い知れる。たしかに決死の覚悟をしてしまうのも頷ける。


 とはいえ、その精鋭たちを短時間で殲滅してしまったのだから、本当に「七王」陛下方の規格外さがわかるよ。


「「清風殿」の内部とは思えない荒れようですね」


 すっかりと変わり果てた「清風殿」の内部を見て、モーレはため息を吐いていた。


 たしかに少し前に見た「清風殿」とはまるで違ってしまっていた。


 同じ場所であるはずなのに、ところどころに死体が散乱しているとか悪い冗談かなにかかと勘違いしてしまいそうだった。


 けれどこれは冗談でもなんでもない。


 現実だった。


 現実で「清風殿」は死体で溢れていた。


 清浄な雰囲気な西域が、ほんの数日で戦場と化してしまうんだから、人の世の業というものがわかる気がしてしまう。


「しかし本当に激戦だったんだなぁ」


 あまりにも散乱した死体を眺めながら呟いた、そのときだった。


「止まってください。なにかおかしいです」


 ククルさんが不意に立ち止まると、周囲を見渡していた。


「おかしいって」


「……あまりにも死体が散乱しすぎています。通路に倒れていたり、壁に寄りかかっていたりというのはわかりますが、壁にめり込んだり、天井にぶらさがっていたりなどというのは、人力でできるとは思えません。それに敵兵だけではなく、「ベルゼビュート」たちの死体もそうなっている。明らかにおかしいです」


 言われて気づいた。たしかに黒騎士たちだけじゃない。


「ベルゼビュート」たちの死体もそうなっている。


 あまりにも凄惨な光景で感覚が狂っていたのかもしれない。


 しかも奥に進めば進むほど、おかしな光景が続いていた。


「……なにかいますね」


 周囲を注意深く見回していると、地面を引きずるような音が聞こえてくる。


 いや地面を這いずっているのか? 聞き憶えがある音だった。


「まさか」


「その名」を口にしようとしたとき、それは現れた。黒いぶよぷよとした塊が通路の奥から現れた。


「カオス、グール」


 カティを閉じ込め、その両親を喰らった神代における最悪の化け物のひとつ。


 それが再び俺たちの前に現れた。


 カオスグールは雄叫びをを上げていた。


 雄叫びを上げながら、まっすぐに俺たちにへと真っ黒な触手を伸ばしてきた。


「避けて!」


 とっさにククルさんを抱えて横に跳んだ。


 モーレは翼で飛んで避けていた。


 とんでもない速さの触手だった。


 少なくとも「禁足地」で戦った奴とは違っている。


 あれはカティの両親が抑えこんでくれていたからというのもあるけれど、あそこで戦った個体よりも強い。


 いや、あの個体よりもはるかに喰らっているのかもしれない。


 ドラームスさんの話では、カオスグールは喰らえば喰らうほど強くなる存在だということだ。


 少なくともこいつは「禁足地」で戦った奴よりも強い。


 どれほどの命をこいつは喰らったのだろうか? 


 その中にかつてのカティやその両親のように、生きながら喰われた人たちもいるのだろうか?


「潰す」


 正義の味方ぶるつもりはない。


 正義なんてものは往々にして移り変わってしまうものだし、十人いれば十の正義が存在する。


 正しき義と書くくせに、普遍たるものが存在しない。それが正義というものだ。


 だから正義の味方なんてものは存在しない。


 けれど正義は存在しなくても義憤はあるんだ。


 そう俺はいま怒っている。なんの罪もない人たちが生きながら喰われてしまった。


 でもそれは人だって変わらない。なんの罪もない家畜や動物を殺し、その肉を喰らって生きている。


 命を奪って生き永らえる。それは人だって変わらない。そのことをとやかく言うつもりはないんだ。


 ただ、俺は知っている。こいつがいるせいで、こいつらという存在があるせいで、ひとつの家族の思い出が壊されてしまったということを。俺は知っている。


 俺は正義の味方じゃない。正義の味方になるつもりもない。普遍的な正義の味方になんてなりたいとも思わない。


 でも、俺は愛する者のための味方にならなろう。


 いや、愛する者たちの味方にしかなりたくない。


 その愛する者をこいつらは泣かしたんだ。苦しめたんだ。その尊厳を穢したんだ。


 許せるわけがない。許していいわけがない。許されるわけがない!


「行くぞ、ガルム」


『心得た。神代の腐肉よ。我らの前で再び塵となれ!』


 ガルムの咆哮が聞こえる。「黒狼望」の刀身が眩い光を纏っていく。


 ガルムの咆哮に重ねるように俺もまた雄叫びを上げた。


 雄叫びを上げながらまっすぐにカオスグールへと突っこんだんだ。

 続きは二十一時になります。

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