Act8-131 侮るがゆえに
本日十八話目です。
あのエルフの軍とカオス兵が戦いを始めた。
精鋭を本隊の方に配置してしまったから、私の側に残っているのは後方担当。
戦闘もこなせはするけど、基本的には情報処理をメインにしている連中だった。
カオス兵などいくらいたところで、私を守るどころか足手まといにしかならないのだから、情報処理担当を周囲に置く癖が私にはあった。
その癖が仇になってしまっていた。
カオス兵どもが次々に討たれていく。
その速度は想定外といってもいいくらいに。
まるで張り広げた布を裂くかのように、カオス兵どもは数を減らしていく。
雑魚だと思っていた。
取るに足らない雑魚だと思い込んでいた。
牙もない犬だと思っていたが、とんだ食わせものだ。
狡猾な狼だということを私は気づいていなかったのか。
「劣勢のようだな、アイリス」
あのエルフがしたり顔で笑っている。
この状況に追い込まれたことも腹は立つが、こんな雑魚に調子を乗られていることがなによりも腹が立つ!
「調子に乗るなぁ!」
あのエルフの剣を払いのける。エルフの体勢が崩れた。確実に殺すために、胸を突いた──が。
「甘い!」
あろうことか崩れた体勢で、いや、そう見えるように動いていたのか、私の突きは容易く防がれてしまった。
それどころかかえって私の体勢が崩れていた。不味いと思ったときには、腹部に衝撃が走っていた。
たたらを踏みながら、後ろに下がるとエルフは踏み込みながら突いてきた。
が、それこそ甘い! 引き付けて避けた。今度こそお返しを──。
「うぉぉぉーっ!」
──反撃を仕掛けようとしたところでエルフが不意に叫んだ。
とっさに剣を縦に構えるとすぐにまた衝撃が走る。
突きを放った体勢からさらに踏み込みながら薙ぎ払ったようだ。
力ではあちらが上なようで、今度は耐えることもできずに、吹き飛ばされた。
あろうことか地面を転がる形でだ。私の肌が、髪が土に塗れて汚れた。
「貴様、貴様、貴様ぁぁぁーっ! この私を土塗れにさせたなぁぁぁ!」
怒りが沸き起こる。目の前が真っ赤に染まり上がる。
姉様と瓜二つなこの身を、至上の美しさを誇るこの身を、土に塗れさせるとは。
許せない。許していいわけがない!
「殺す。なにをもってしても殺してやる! 雑魚がぁぁぁーっ!」
「……弱い犬ほどよく吠えるというが、その通りかな?」
「犬? この私を犬と抜かすか!?」
この私が犬だと? この私を畜生と呼ぶだと!? 許せぬ。許せぬ。許してはおけぬ!
「なぶり殺してくれるわ!」
エルフに向かって全速で距離を詰めると、エルフは私の姿を見失ったようだ。
私が本気ではなかったからとはいえ、調子に乗るからだ。
だが、許さぬ。全力で殺してやる! 反撃さえも許さずになぶり殺してやる!
エルフの背後に回り、愛剣を振り下ろした。反応さえできないはずの一撃だった──。
「……甘い」
──がなぜか防がれてしまった。
防がれるはずなどないのに。私を見失っていたはずだったのに。なぜ?
「ちぃっ!」
奴の剣を払いのけ、今度はお返しの薙ぎを放つ。
だが、今度は紙一重で避けられてしまった。どころかまた腹部に蹴りが飛んできた。
とっさに後ろへと下がった。
なぜだ?
なぜ雑魚相手に私が苦戦している?
いえ、押されている!?
私の方が強いはずなのに。私よりも劣るはずなのに。
なぜだ。なぜ、私がこんな雑魚相手にいいようにされている!?
「……そんな殺気だらけの剣など簡単に読める。怒りに我を忘れすぎだな、アイリス」
「黙れ、黙れ、黙れぇぇぇーっ!」
怒りに我を忘れているだと!?
たとえそうであっても殺せる! 殺せるはずだ!
黙らせてやる。殺して黙らせてやる!
腹の底から叫びながら、エルフを殺すための攻撃を私は放ち続けた。
しかしいくら放っても届かない。
届かせることができない自分に苛立ちが募っていく。
そうしてどれほどまでに同じことを繰り返したのか、汗で全身が濡れ、より土に塗れたとき──。
「待たせましたね、アトライト」
──ハーフフッドらしき女とともに、あの女が。スズキカレンが現れた。
続きは十八時になります。




