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Act8-127 お守り

 本日十四話目です。

 切り結ぶ。


 袈裟懸けを放とうとも。


 唐竹に振り下ろそうとも。


 胸を穿とうと突きを放とうとも。


 すべてが切り結ぶことになる。


 渾身の力を込めても、全速で切りかかっても、小細工をしても、すべて結果は変わらない。


 まるで、すべて決まりきった動きであるように。


 すべて定められた演目であるかのように。


 すべてがすべてこうなることがお互いにわかっているかのように。


 剣と剣が切り結ぶ。


 火花が散る。


 鉄と鉄がぶつかり合う。


 互いの服と鎧にわずかな傷を付け合っていく。


 あぁ、楽しい。


 楽しい、楽しい、楽しい。楽しいなぁ。


 いくら必殺の斬撃を放ってもすべて防がれてしまう。


 すべていなされてしまう。それどころか返しの斬撃が飛んでくる。


 あぁ、これです。


 これこそが手前が求めていたもの。手前が欲していた「死合」です。


 この極上の瞬間こそが、手前が最も欲していたものです。


「……相変わらず、壊れているな。おまえは」


 彼は呆れたような声で言っていますが、言われた意味がうまく理解できないですね。


 なにを言っているのでしょうか?


「ふふふ、壊れている? なぜ? こんなにも楽しいのに?」


「……俺は怖いよ。いまのおまえが」


「ふふふ、戯れ言を。怖い怖いと言っている割には、その剣は必殺のものではないですか? 手前を殺そうとされているではないですか?」


 そう、相手は手前を殺そうとしている。殺すつもりで手前に斬りかかってきている。


 なのに、怖い?


 戯れ言です。怖いのであれば、剣に恐怖が乗ります。


 でも彼には恐怖などない。


 つまり怖いなどというのはただの戯れ言ではないですか。


「ふふふ、壊れているのはあなたも同じでしょう? でなければ、手前と戦えるわけがない! 手前と打ち合えるわけがない!」


 まともな人格では、手前とは打ち合えない。手前の剣を受けきれるわけがない。だから彼も壊れているのです。


 なのに自分はまともなような振る舞いなどしないでほしい。不愉快です。


「……たしかに俺は壊れているだろうな。人としても親としても壊れてしまっているんだろう」


 苦悩に満ちた声でした。彼なりに苦悩した結果が、いまなのかもしれません。


 ですが、手前はその苦悩よりも、「親として」というひと言の方が響きました。


「親として」というひと言が手前の胸を疼かせてくれる。


 胸の疼きとともに「ある光景」が脳裏に浮かぶ。


「っ! 消えよ!」


 浮かんだ光景を振り切るようにして、ミドガルズを振る。


 それまで同様に防がれてしまった。でも、彼にはそれまでにはなかった余裕が見えました。


「……そうか。おまえも親になったんだったな。手首のそれはお守りだよな?」


 右手首のそれ。目をそらすべきではないのに、手前は目を落としてしまった。


 そこにあるのは、灰色の毛で編まれた丸いわっか。「旦那様」がミサンガと言われたものでした。


「ぁ」


 見てはいけないのに、見てしまった。目にしてしまった。


「隙だらけだぞ?」


 とっさに後ろへ飛んでいた。


 だがわずかばかりに肌を切られた。血が滴っていく。


「卑怯な!」


「お稽古じゃないんだ。卑怯もくそもあるか」


 言い返すことはできない。実際にその通りだ。


 勝てばいい。剣は、いや戦場というのはそういう場所だった。


「お返しをしないといけませんね」


「やってみろ」


 冷静になれ。


 心を静めろ。


 沸き起こる感情を抑え込みながら、手前は百一戦目の戦いに集中していった。

 続きは十四時になります。

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