Act8-121 戦闘準備
本日八話目です。
野営地の片付けは、あっという間に終わった。
普段からしなれているようにさえ感じられるほどに、的確かつ迅速だった。
もしかしたらそれもまたククルさんの采配によるものなのかもしれない。
指揮官というものは、戦うだけじゃない。
細かなところにも目を行き届けさせられてこそだ。
なかには細かなところは、副官に任せる人もいるだろうけど、ククルさんの場合は人には任せずにきちんと指示を出せるタイプだ。
一番上の人ってなかなか細かいところまでは見えないものだけど、ククルさんは細かいところまでこだわっている。
こういう人ほど名将なんだよね。実際プライドさんも感嘆としていた。
「グラトニーも惜しいことをしたなぁ。怪我なんて無視して取り立ててればいいものを」
「あら、横取りはダメよ、プライド? あの子は私の部下なのだから」
「わかっているよ。ただ惜しいと思っただけだ」
惜しいことをとは言っているが、プライドさんは明らかに部下としてククルさんを欲しがっているようだった。
ククルさんの能力の高さがわかるやり取りだった。
そんなやり取りが行われていても、ククルさんは我関さずという体で細やかな指示を、適材適所で振り分けて行った。
その後、簡素な朝食が終わるやいなや、野営地から出立した。
昨日までとは違い、進軍速度は速かった。
すでに「鎮守の森」の近くだからなのか、まるで馬を乗り潰す勢いで進んでいた。
今回の戦いで「ベルル」から選ばれたのは、ほぼ歩兵だった。
騎兵は偵察がメインでせいぜい十騎もいなかった。
戦であれば騎兵もそれなりにいないといけないけど、騎兵というものは、森の中では力を発揮しづらい。力を発揮するのはなにもない平地とかだ。
今回の戦いは森の中であるし、最終的には「清風殿」を攻めることになる。
であれば余計に騎兵は力を発揮しづらくなる。
今回で騎兵が役立つのは移動の際の偵察の時だけだった。
歩兵の移動はもっぱら馬車を使っていた。
一台につき、十数人は乗っている。
その馬車が二十数台。
「ベルル」の部隊は二、三百程度が今回参戦する総数だった。
もっと多く参加させることもできるそうだけど、街の防備を疎かにするわけにもいかないので、これが参戦させられる最大の数のようだ。
馬車を二十数台もすぐに手配できるわけがなかった。
前々から決まっていたからこその光景だった。
そしてそれは馬車を引く馬も同じなんだろう。
戦には使わないからこそ、乗り潰す勢いで馬を走らせている。
馬だって安くはないけど、長期に渡っての多大な戦費よりかは安い。
その分馬はかわいそうだけども。
でも戦というものは得てしてそんなものだった。
「……偵察の兵が帰ってきたか」
遠くから土煙が見えてきた。
少し前に出した偵察の兵が帰ってきたようだった。
偵察の兵がクルルさんの馬車に向かっていく。
御者役の兵に報告をしていた。
すぐにククルさんからの念話が飛んできた。
『「鎮守の森」周辺は問題ないようです。が、第一種戦闘配置をお願いします』
ここからは敵地になる。
だからこそ、すぐにでも戦闘ができるように準備をしておけという指示が来た。
俺の乗っている馬車には、ほかにはレアたちが乗っている。
いわば中核をなす小隊という扱いになっていた。
「戦闘準備をお願いします」
全員に聞こえるようにククルさんからの指示を改めて伝えた。
ここからはなにが起こるかわからない。
俺も精一杯にやれるだけのことをやろうと決意しながら、荒れ狂う馬車の揺れに身を任せていた。
続きは八時になります。




