Act8-120 子供の力
本日七話目です。
どんな日でも夜明けは訪れる。
この世界に来て、これで何回目になるだろうか?
訪れた夜明けを見つめながら、「黒狼望」を鞘に納めた。
結局交代の時間になってから、少し寝ただけになってしまった。
いまのいままで、延々と素振りをし続けていた。
『なにやら悩みでもあるようだな、主』
ガルムが気遣うように声をかけてきた。
気遣いなんていらない。気遣われるべきなのは俺じゃないのだから。
「少しだけな」
衛兵の制服のジャケットを脱ぐと、ちょうどいい風が吹いた。
夜明け頃の風はいくらか寒いけど、全身から汗を掻いたいまの体にはちょうどいい。
「……なぁ、ガルム」
『覚悟を決めた者の心のありようを変えるにはどうしたらいいかなどとは聞いてくれるなよ?』
「お見通しか」
『今日の主がわかりやすすぎるだけだ。まるで開いた本のようだ』
「開いた本、か。言ってくれるじゃんか」
コツンとガルムの本体である「黒狼望」を叩く。ガルムは苦笑いしていた。
でも言い得て妙なのかもしれない。
いまの俺はたぶんカティ相手でも簡単に考えていることを読まれてしまうはずだ。
あ、でもカティはわりと勘が鋭いところがあるから、普段でも読まれてしまうし、カティを例にするのはどうなんだろう?
『まぁ、普段よりも読まれやすいということではいいのではないか?』
「そうだな」
『それにだ。主が言いたいことはまだあるのだろう?』
ガルムは笑っていた。声からして人の姿であれば、にやりと人の悪そうな笑顔を浮かべていそうだった。
「……本当にないのかな?」
『ふむ。難しいことだ。一度覚悟を決めた者はそう簡単には考えを変えたりはしない。すでに覚悟が決意となっているのであればなおさらな』
「決意、か」
たしかに決意を抱いている相手の考えなんて変えられるわけがない。
もう迷いを捨て去っているんだ。並大抵のことでは変えられない。
『特に惚れぬいた女のためとなれば、男という生き物はあっさりと決意を抱いてしまうものさ』
「そうなの?」
『あぁ、男というのはわりと単純なのでな。まぁ、男でないが、主も少しわかるのではないかな? 愛する者のためであれば、生き方を変えても構わないという気持ちは』
「……そう、だね」
わからないようで、わかる話だった。
愛する人のためであれは、人という生き物はあっさりと生き方を変えることができる。
あくまでも端から見ればの話だけど。
本人にしてみれば、どれほどの葛藤と苦悩の末の答えなのか。それは本人にしかわからない。
そうして得た答えを胸に人は生きるのか。
それが「大人」になる瞬間なのかもしれない。
俺の目にはククルさんとアトライトさんはそういう風に見えてしまう。
あのふたりこそが、本当の「大人」なんだと思えてならない。
『だが、主は違うだろう? 「大人」でなければなしえないこともあろう。しかしそれは平定された時代を生きるためにだ。いつだって新しい時代を作るのは「子供」の力だ。そして主はまだ「大人」ではないのだ。ならばもうわかるであろう?』
「……そうだね」
自分でもわかるくらいに口元を歪ませていた。
そう、ククルさんとアトライトさんは「大人」だ。
その行為が正しいか正しくないかはさておき、やろうとしていることは「大人」のすること。
でも俺はまだ「子供」なんだ。正真正銘の子供だ。
であれば、やることなんて、やりたいことなんて決まっている。
「ぶっ壊すぞ、ガルム」
『心得た。我が主』
こんな決まった茶番劇なんてぶち壊してやる!
そして皆が笑える結果を掴みとる。
ククルさんたちが決意を抱いているのあれば、俺も決意しよう。
ふたりとは真逆の決意だけど、それでいい。子供は子供らしく引っ掻き回すだけだった。
夜明けの太陽に向かって俺は不敵に笑いながら誓いを立てたんだ。
続きは七時になります。




