Act8-115 真なる忠義
本日二話目です。
今回はセリフだけな回です。
「……これでいいのか?」
「ええ。問題はありません」
「問題だらけだぞ」
「そうでしょうか?」
「そうだよ。本当におまえはバカ真面目な奴だ」
「そういう性分でごさいます。「我が君」」
「……本当にいいのか?」
「いいとは?」
「ごまかすな。たしかに尻尾をつかめはしたが、これ以上の汚名をおまえが被る必要はない」
「……」
「もう十分だ。おまえの忠義はたしかに受け取った。これほどの忠義を見せてくれたのは、いままでの延臣でおまえが初めてだよ。見事だったぜ。だからもうやめろ。もう十分だよ、坊主」
「まだです」
「聞いていなかったのか? もうやめておけ。これ以上は洒落にならん。これ以上は──」
「逆賊になる、と?」
「わかっているなら、もうやめろ。これは命令だ」
「……申し訳ありません。その命はお聞きすることはできません」
「なぜだ?」
「……私は誓ったのです。「殿下」のお命を奪った奴を討つと」
「あれはあのバカ息子が」
「それでも私は「殿下」の敵討ちをしとうございます。たとえ「我が君」、あなた様の命を背いてでも。「殿下」の血に濡れた手を拭うには、そうするしかないのです。身勝手なこととは思います。「殿下」がお望みではないこともわかっております。それでも、それでも私は「殿下」の友であったのです。友のために、友の無念を晴らすためであれば、この命、この身のすべてを捨てても構いません」
「……友のため、か。その言葉に俺が弱いと知って言っているんだな?」
「はい」
「……たとえ討てたとしても、おまえは逆賊どころか、狂人として歴史に名を残すことになる。それでもか? いまならまだ俺に、そして国に忠を尽くした勇者として名を残せるのにか? 死してもその高潔な魂が讃えられることになるのにか? それでもおまえは」
「最初から覚悟はできております。この身は祖国の盾となり、「我が君」の剣となる。この命を燃やし尽くすことになろうとも、誓いを背くことはしない。「ベルゼビュート」入隊の際に、そう私は誓っております」
「……知っている。俺自身が問いかけて、おまえが返した誓いだったからな」
「憶えていただけているとは。恐悦至極にございます」
「……大真面目にあんなことを言うのはおまえくらいだったからな。だからだ。だがそれでもあえて言わせてもらうぞ?」
「はっ」
「バカ野郎が」
「それも性分ですから」
「……わかった。おまえの望み、たしかに聞き受けた。「もうひとつの望み」もまた聞き入れよう」
「ありがたき幸せ」
「「蝿の王国」における真の勇者の願いだ。相手にとっては重すぎる想いだろうがな」
「やはりそうでしょうか?」
「あたりまえだ。恋人でもなければ、夫婦でもない相手にそこまでされたら、さすがに重いだろうが。だが、おまえらしいし、「あの娘」であれば、大丈夫だろう」
「……そうですね。彼女であれば」
「……では、最後に命ずる。最後のおまえへの命令だ」
「は」
「この国のために、いや、この世界のために逆賊となって死ね」
「承知いたしました」
「……すまんな。本当にすまぬ」
「なんの。幸せにございます。この命が祖国を、そして世界の礎となるのであれば、これ以上の幸せなどありますまい。だから泣かないでください、「陛下」」
「……泣いてなどおらん。死せる勇者との最後の謁見で、なぜ泣かねばならん? 俺は笑っている。笑っておまえを見送っている」
「さようでございますか」
「ああ」
「おさらばでございます。「我が君」」
「さらばだ、我が誇り。我が最高の忠臣」
続きは二時になります。




