Act8-114 違和感と事情
十一月の更新祭りを開始します。
まずは一話目です。
「聞こえるか、我が臣民よ」
不意に聞こえてきたのはアホエルフの声だった。
また「遠声」を使っているんだろう。
けれど、以前とは状況が異なっていた。
以前は「グラトニー」の城でグラトニーさんを討ったときに使っていた。
でも、ジズ様の言葉を信じるのであれば、あいつがいるのは「清風殿」だ。
ここから「グラトニー」まではそう離れていないから、ここまで「遠声」を届かせることはできたのだろうけども、「清風殿」からここまでは歩きで一週間は掛かってしまう。
それくらいに離れているのに「遠声」でここまで届けさせられるのかな?
「……この国の中であれば、届かせることはできるよ。私が神託をするときもああしているからね」
そんな俺の疑問にジズ様は答えてくれた。神託の際に使うなにかしらの機能を使っているのか。
些細な疑問ではあったけども、一応納得はできた。
あとはあのアホエルフがなにを言おうとしているのかということだ。
ククルさんの話から踏まえると、答えはひとつしかないんだろうけども──。
「我はこれより「魔大陸」の主となるべく覇道を歩む! 我以外の「七王」を相手取る戦を開始するのだ。我こそはと思うものは我が元に馳せ参じよ!」
──想像通りの言葉だった。
想像通りのバカな言葉だった。残りの「七王」陛下を相手取る戦いを始めるなんて無謀にもほどがある。
でもジズ様が使う「清風殿」の機能で国中に届かせたということは、「清風殿」までをも掌握したという証拠だ。
普通に考えれば無謀だけど、可能性が皆無というわけではない。
であればだ。こういうときに名を挙げるだろう国中の不穏分子があいつのいる「清風殿」に集まり──。
「……あれ?」
──ちょっと待てよ?
なにかおかしくないか?
いや、おかしくはないんだろう。
「七王」陛下方を相手取るというのであれば、戦力の補充は不可欠だ。
うん。それはわかる。わかるんだけど、ここまでする意味はなんだろう?
あいつはまがりなりに「蝿王」になったんだ。
なら国中の領主から兵を派遣させればいい。いや派遣させられるはず。
逆らう相手なんて「清風殿」の機能を使っている段階で誰もいなくなる。
なにせジズ様さえも従わせたと誰もが思うはずだ。
そんな相手に従わない人なんていない。
従わなかったら滅ぼされるだけだ。
だから兵の派遣なんて思うままのはずだ。
なのになんでこんな大々的に募兵するんだ?
絶対数が足らないと言うのであればわかるよ。
でもそれだって各領主にやらせればいいだけだ。
わざわざ自分のところに来いとは言わない。
だってそんな奴のところに来るなんて、いままで恵まれていなかった立場の人や、甘い汁を啜ろうとする人くらい。大雑把に言えば不穏分子たちくらいだ。
そんな不穏分子を募ってもまともな軍にするのには時間がかかる。
個々に勝手に戦おうとする連中をひとつにまとめる。最低でも方向性を統一させなきゃいけない。
時間はどれだけあっても足りない。足りるわけがない。
それこそもとから誼を通じていないかぎりは無理だ。
もし誼を通じている相手を呼んでいるのであれば、「同志よ、集え」とか言うんじゃないか?
でもあいつは同志とは一言も言っていない。
合言葉があるのかもしれないけど、それらしい言葉も言ってはいない。
じゃああいつは最初から軍を作るつもりなのか?
方向性さえも持たない、なにひとつ纏まっていない数だけの軍を?
そんな軍で各国の軍と戦えるわけがない。祖国を守るという統一した意思を持った軍に勝てるわけがない。
局所的には勝てる場面もあるだろうけど、大局的に見れば負ける。
そして一度でも負ければ、それで終わりだ。
いまは求心力がある。
でも負けてしまえばその求心力は落ちる。
負け方にもよるけど、大敗してしまえば目も当てられないことになる。
そんな戦いをあいつはするつもりなのか?
暗愚にもほどがあるだろう。
でももし別の「目的」があるとすれば?
たとえば不穏分子をひとつに纏めるのではなく、「一纏め」にしたいのであれば?
「……まさか」
「そのため」に「清風殿」を占拠したのか?
いやそう考えるのが妥当で──。
『それ以上は考えないで、妹ちゃん』
ジズ様が俺を止める。しかも念話を使ってだった。
つまりはそういうことだ。
『ジズ様も噛んでいるんですか?』
『……あまりにもまっすぐだったからね。まっすぐすぎて眩しくなるほどに』
『事情を話してください』
『……うん。わかっている』
ジズ様はそう言って事情を話してくれた。
続きは一時になります。




