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Act0-91 スタートライン

PV14000突破です!

いつもありがとうございます!


「いままで、お世話になりました」


 出張所の前で、この一か月でお世話になった、みなさんに頭を下げた。


 俺の後ろでは、モーレの弟妹さんたちも、それぞれに頭を下げていた。シリウスは元気よく、短く吼えて挨拶をしていた。


 俺たちの対面にいるのは、クーさんを始めたとした冒険者の先輩方、ギルド職員のお兄さん方、そしてギルドマスターのククルさんだった。


「しっかし、一か月でランクまで抜かれちまうとはなぁ」


 クーさんが苦笑いしていた。クーさんの言葉に、他の先輩方も同じく笑っている。


 正直言うと、俺の昇格はほとんど特例ばかりで、真面目に一からこつこつと頑張っている、他の冒険者には、気が引けてしまう。


 ずるをしたわけじゃないけれど、一か月でBランク冒険者になること自体が、ありえないことだった。


 だから、どうにもずるをしてしまったような気がして、祝われても、あまり嬉しくはなかった。


「いや、ほとんど俺の実力じゃ」


「なぁに言ってやがるんだ? ナイトメアウルフ二頭が率いる群れを殲滅させた勇士のひとりのどこが、実力がないなんて言えるんだ? もっと自信を持て、カレンさん」


 クーさんは俺の頭を、大きな手で乱暴に撫でながら言った。髪がぐしゃぐしゃになってしまったけれど、クーさんはあまり気にしてないようだ。


「まぁ、友達を喪ったばかりだから、自信をなくしても仕方がねえとは思うが、少なともこの場にいる冒険者じゃ、そんな大規模な群れなんて、どうしようもなかったぜ? すべてはカレンさん、あんただからできたんだよ。もっと自信を持て。この街の勇士さんよ」


 がははは、と豪快に笑いながら、今度は背中を叩いてくれるクーさん。


 ちょっと力が入りすぎて痛い。が、クーさんらしいことだった。


「まぁ、俺みたいな大男に慰められても、嬉しくはねえだろうがな」


「……そんなことはないよ。嬉しい」


「そ、そうか?」


「クーの兄貴、二十も下の女の子の言葉に、顔を赤くしないでくださいよ」


 クーさんのクランメンバーのひとりが呆れ顔をした。クーさんは、慌ててしまうが、その反応がかえって他の冒険者の先輩方のツボに入ってしまったのか、みんな笑いだしてしまう。


 クーさんは、居心地悪そうな顔をしながらも、手を差し出してくれた。


「……じゃあ、またな、カレンさん」


「うん、またね、クーさん」


 差し出された手を取り、握手を交わすと、クーさんはそそくさとほかの先輩方のところに戻ってしまう。その際、クーさんに呆れていたクランメンバーさんの頭を小突いていた。


「カレンさん、モルンのことをよろしくお願いします」


「ミーリンのこともよろしく」


 次に声を掛けてきたのは、ギルドの職員のお兄さん方のうちのふたりだった。


 それぞれモーレの妹さんふたりと付き合っていたおふたりだ。あくまでも宿屋時代ではなく、この一週間でという意味で。


 ちなみにおふたりともそれぞれに妹さんたちが、情報収集していた頃からのお相手だったそうだけど、ふたりの事情を知ってもなお、ふたりへと気持ちを向けてくれていたおふたりだった。


 ちなみにモルンが、下の妹さんで、ミーリンが上の妹さん。弟さんは、アルーサさんだった。


 振り向けば、モルンさんとミーリンさんがそれぞれなにか言いたそうな顔をしていた。


 俺に挨拶するのはいいけれど、それよりも恋人とお別れをしてください、と職員のお兄さんふたりをモルンさんとミーリンさんの方へと追いやった。


 おふたりは、少し躊躇していたけれど、すぐにモルンさんとミーリンさんのもとへと向かって行く。


 あー、もう、爆発しろよ、と言いたくなる光景が後ろで繰り広げられているのだろうけれど、あえて見る気はしない。というか見る気がしねえ。


 アルーサさんの助けてください、という視線を感じるけれど、んなもん知らん。俺の下に就くということは、そういうことなのだから、慣れてほしいものだ。


「やれやれ、今生の別れというわけでもないのに、大げさですね」


 ククルさんが呆れながら、近づいてくる。呆れつつも、笑っていた。


 皮肉を言わずにはいられないククルさんらしい。


「ククルさん、一か月お世話になりました」


「本当ですよ。面倒ばかりかけられました。今日でようやく出て行ってくれるんですから、せいせいしますよ」


「あははは、本当にすみません。いろいろとご迷惑を」


「……嫌味を笑い流されると、言った方が惨めになるので、やめてくれません?」


「だから笑い流したんですよ? ギルドマスター?」


 にやりと笑い返してやると、ククルさんはため息を吐いたが、どこか嬉しそうに笑っていた。


「言うようになったじゃないですか、小娘ちゃん」


「どこかのロリ婆に、たくさんいじめられましたからね」


「ふふふ、この私にそれだけの口が叩けるのであれば、ギルドマスターとしてやっていけるでしょうね。なにかあったら相談しに来なさい。一応、私はあなたの上司にあたるのですから」


 ククルさんが手を出してきた。


 出された手を取り、握手をする、ククルさんの言う通り、俺は書類上では、ククルさんの部下という扱いになっていた。


 俺が設立するギルドは、ここ蛇の王国出張所の支部という扱いになっている。


 が、エルヴァニアの総本部からの支援等は受けない。


 出張所の支部という扱いだけど、実際は独立した別の組織なのだから、支援なんて受けるわけがない。


 書類上では、買い取りしか行わないことになっているが、実際は仕事の斡旋も行う。


 その際中間マージンはいただくが、報酬のほとんどは冒険者に渡すという、冒険者ギルドと同じやり方をしていくつもりだ。だが、依頼自体は俺も受ける予定だった。


 やっぱり他人だけに任せておくというのは、どうにも落ち着かないし、自分のための金を、他人に稼いでもらうというのは、なんだか嫌だった。


 だから俺も冒険者たちと同じ依頼をこなしつつ、ギルドマスターとしての仕事をこなしていこうと思っている。


 まぁ、ギルドマスターの仕事は、モルンさんにほとんど押し付ける予定だから、問題はない。


 ほら、君臨しても統治せずって言うし。俺は肉体労働メインに頑張ろうと思っている。


 もちろん、俺が出なければならないときは、俺が出張るつもりだけども。


「まぁ、頑張ってくださいね。あなたの目標が叶うことを祈っていますよ」


 握手を終え、ククルさんはひらひらと手を振りながら、背を向けてしまう。俺はククルさんの背中に向かって、静かに頭を下げた。


 そうして挨拶を終えて、俺たちは大門を抜け、首都を後にした。


 結局勇ちゃんたちは、俺が首都を出るまで帰ってくることはなかった。


 ククルさんが言うには、先に竜の王国に帰っているそうだ。そのククルさんもエンヴィーさんから、聞いた話らしいので、詳しいことは知らなかったようだった。


「……エンヴィーさん、いなかったなぁ」


 ここ最近エンヴィーさんと顔を合せていなかった。


 少し前までは、口うるさく、いろいろなことを言いに来ていたのに、一緒に風呂に入った日から、一度も会いに来てくれなかった。


 ククルさんが言うには、マバ関係のことが、コアルスさんでも処理できなくなってきたから、その対応に追われているそうだ。


「そう言えば、三人はマバって知っていますか?」


「マバですか? あれは美味しいんですけど、漁師さんには厄介者の魚として嫌われていますねぇ」


 アルーサさんはため息を吐きながら教えてくれた。


 なんでも、値崩れするほどの大量に獲れてしまうくせに、網などを食い破ってしまうくらいに凶暴らしいので、漁師さんには嫌われているそうだ。


 そのうえ一匹一匹が、かなり大きくて、なかなか食べきれないらしい。ただ味は美味だそうだ。しかし脂がのりすぎていて、量が食べられないということだった。


 話だけを聞いていると、マグロみたいな魚だった。


 まぁ、マグロが網を食い破るかどうかは知らないけど、脂がのりすぎていて、量が食べられないというのは、マグロと似ている。


 美味しいけれど、なかなか食べきれないというのは、その脂のせいで食べきれないということだろう。


 まさに江戸時代ごろ、マグロが下魚とされていたのと同じだった。さすがに俺の知っているマグロそのものだとは思わないけれど。


「ふぅん、次来るときは食べてみようかなぁ」


「ふふふ、じゃあ、そのときはお願いしますね、カレンちゃん」


 エンヴィーさんの声。振り返ると、木陰にエンヴィーさんが立っていた。


 それも街娘のレアさんとしてではなく、蛇王のエンヴィーさんとして立っていた。


 要は、あの清楚なのに、エロい恰好だった。


 その隣には、執事服姿のコアルスさんがいる。


 コアルスさんは、目の下にクマができてしまっている。いったいエンヴィーさんは、コアルスさんになにをしたのだろうか。聞きたいようで、聞きたくなかった。


「お別れに来てくれたんですか?」


「ええ。カレンちゃんは、私にとって妹みたいなものですから。その妹が旅立つのです。お見送りをしないわけにはいかないでしょう?」


「でもなら」


「ああ、私はあまり人前に出ない方がいいんですよ。これでもこの国の王さまですから。おいそれと人前に出るわけにはいきません。でも」


 くすりと笑い、エンヴィーさんはなぜか俺を抱き締めると耳元に唇を寄せてきた。


「カレンちゃんが会いたいと言ってくれるのであれば、いつでも行きますよ? たとえば、夜寂しくなって眠れないときとかは、添い寝してあげますから、ね?」


 下唇と上唇を合わせる、艶やかな音を耳元で鳴らしてくれた。


 背筋がぞくりと震える。顔が真っ赤になっていくのがはっきりとわかった。


 当のエンヴィーさんは、ニコニコと笑っている。


 なんでこの人は、いちいちエロいのだろうか。でも痴女というわけじゃなく、単に俺をからかっているんだろう。からかわれる俺として堪ったものではないけれど。


「か、からかわないでください、エンヴィーさん」


「ごめんなさいね。カレンちゃんをからかうのはとても楽しいので。また一緒にお風呂入りましょう。次はお姉さんがすみずみまで洗ってあげますからね」


 そう言って、なぜか胸を強調するエンヴィーさん。


 いったいドコで洗うつもりなんだと言いたい。


 が、言ったらそれはそれで後悔しそうな気がする。


 なんか、こうどうしようもない戦力差に傷つきそうな気がしてならない。


 うん、あえてなにがとは言わない。そう、なにがとは。


「……陛下。あまりカレンちゃんさまをからかわないでください。それにそろそろお時間ですよ」


 なんだか暴走しているエンヴィーさんを、コアルスさんが止めてくれた。


 しかし時間っていうと、エンヴィーさんの時間がもうないってことなのだろうか。


 そう思っていると、なぜか暗くなった。雲がかかったのかなと思い、何気なく頭上を見上げると、ドラゴンがいた。数頭のドラゴンが降りて来るところだった。


「やぁやぁ、カレンちゃんさん。おひさしぶりですねぇ~」


 ドラゴンの一頭、というか、ゴンさんが嬉しそうに声を掛けてくれた。


 どうやら時間というのは、ゴンさんが迎えに来てくれる時間という意味だったのだろう。


 っていうか、なんでゴンさんが迎えに来ているんだろうか。


 そんな話は聞いていないのだけど。アルーサさんたちもいきなりのドラゴンの登場に唖然としていた。


「ゴンさん。なんでここに?」


「ふぇ? 私はご主人に言われてきたんですよぉ~? エンヴィーさまから、カレンちゃんさんに話は通っているということでしたけど~?」


 ゴンさんの言葉に、エンヴィーさんを見やると、エンヴィーさんは舌をちろりと見せて、頭を軽く小突いているところだった。


 テヘペロって奴だね。異世界で見るのは初めてだよ。まぁ、地球でも、実際にやる人は見たことなかったけど。


「……まぁ、いいですかねぇ~。さぁて、それでは竜の王国に向かいますので、背中に乗ってくださいねぇ~。ひとりにつき一頭ということで、私の部下も連れてきましたので、優雅な空の旅をお約束しますよぉ~」


 ゴンさんが静かにため息を吐くのと着地するのは同時だった。


 それから背中に乗りやすいようにと、寝そべってくれた。


 ゴンさんの部下さんたちも同様にアルーサさんたちの前で寝そべっている。


 アルーサさんたちは、困っているようだったけれど、馬車でも一週間かかる距離なのだから、馬車なしに竜の王国に行くなんてありえない。


 なので、乗るしかなかった。それに空の旅であれば、馬車よりも早く竜の王国にたどり着けるだろうし、コストもかからない。うん、素晴らしい。


「アルーサさんたちも、固まっている暇があったら、さっさと乗ってくださいね。シリウスは服の中に入っておけよ」


 俺はそれだけ言って、ゴンさんの背中に乗った。


 その際、シリウスはその小柄な体には似合わない跳躍をし、俺の背中にしがみついた。


 ゴンさんの背中に乗ったときには、シリウスはつなぎの中に入り、胸の間から顔を出していた。


 エンヴィーさんのようにグレートかハイパーか、下手をすれば、インパクトレベルのものがあれば、シリウスを固定できるのだろうけれど、すとーんとしている俺のでは、固定させてあげられない。か、悲しくなんかないもん。まだ成長期が来ていないだけさ。


 そうして自分を慰めている間に、アルーサさんたちも慌てて、ゴンさんの部下のドラゴンさんたちの背中に乗っていた。


 全員がそれぞれのドラゴンに乗ったことを確認すると、ゴンさんが短く吼えた。ゴンさんたちの部下さんたちから空に上がっていく。最後にゴンさんと俺になった。


「カレンちゃん。頑張ってくださいね。応援していますよ」


「はい。頑張ります」


 見様見真似の敬礼をした。シリウスも短く吼えている。エンヴィーさんは寂しそうに笑っていた。


「行きますよぉ~」と気の抜ける声を上げて、ゴンさんが翼をはためかせ、空に舞い上がった。


 あっという間にエンヴィーさんとコアルスさんの姿が見えなくなっていく。


 首都も徐々に小さくなっていく。それでもまだとても大きな街だった。


 俺がこの世界で一番長く過ごした街を離れていく。感慨深いね。


「さぁ、行きますよ、カレンちゃんさん。数時間もあれば、首都に着きますので~」


「速いですね」


「ええ、最高速で行きますので」


「一応、安全運転で」


「大丈夫ですよぉ~」


 ゴンさんは笑っていた。


 笑っているが、その笑顔がとても不吉に見えて仕方がない。


 なんだか、とても嫌な予感がする。気のせいではないと思う。


「よぉし、行くぞ、てめえらぁぁぁ!」


 ゴンさんが大きく息を吸い込んだと思ったら、急に野太い声で叫んだ。


 え、ちょっと、キャラが違いませんか。あなた、そういうキャラじゃないでしょう。


 そう言うよりも早く、ゴンさんが竜の王国へと向かって飛び始めた。部下さんたちも続いた。


 後ろからアルーサさんたちの悲鳴が聞こえてきた。


「行くぜ、行くぜ、行くぜ、ぶっこむぜぇぇぇ!」


 ゴンさんの背中を必死に掴みながら、「安全運転」と叫ぶが、ゴンさんの叫びに掻き消されて、ゴンさんの耳に届くことはなかった。


 シリウスは楽しそうに、わんわんと吼えている。なんでこういうところで、お父さん似なのかな、この子は。しがみつきながらも、そう思わずにはいられなかった。


 その後、竜の王国に着いてから、ラースさんに聞いたのだけど、ゴンさんは最高速で飛ぶと、性格が変わってしまうそうだ。


 なんでも風のドラゴンは、みんな全速力で飛ぶと性格が変わってしまうようだ。


 ゴンさんは、普段のんびりとしているから、落差がひどいと笑いながら言っていた。


 正直性格が変わると言うか、豹変だろうと思った。むしろなにかに乗り移られているんじゃないかと言いたくなった。


「あんた、どこの○田さんだよぉぉぉ!」


「あんまり叫んでいると、舌を噛むぜ、カレンの嬢ちゃんよぉぉぉ!」


 だが、それも数時間後のことだ。このときの俺は、振り落とされないように必死になって、背中にしがみつきながら、某お巡りさん漫画の白バイ隊員の名前を叫んでいた。


 こうして俺は元の世界に戻るためのスタートラインにようやく立つことができるようになったのだけど、それはまた別の話になるかな。

序章はこれにて終了です。

次回から特別篇です。

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