Act8-110 突然の訪問者
恒例の土曜日更新となります。
まずは一話目です。
「クルスたちじゃないか?」
プライドさんがノックの主の見当をつけていた。
たしかにプライドさんは、後で親子そろってくるようにとあのふたりに言っていたから、たぶん時間的にはクルスさんたち親子なんだろうね。
でも、俺はなにか違っているような気がしていた。
というか、あの親子領主って立場だからなのか、それともここの社宅を提供しているからなのか、ノックなんざしないし。
そもそも気づいたら家の中にいるからね、あの人たちの場合は。
まぁ、状況が状況だったし、今回はノックしてもおかしくはないんだろうけれど、それでもなにか変な気がする。
ノックをしているのがあのふたりだというイメージが俺にはわかなかった。
であれば、だ。いったい誰が来たんだろうか?
「妹ちゃーん、開けてぇ~」
ドア越しに聞こえてきた声は、とても聞き覚えのあるものだった。
特にレアたちは「え?」と唖然とした顔になっている。
なっているがすぐに「妹ちゃん?」と首を傾げてくれた。
まぁ、「清風殿」に行かなかったメンバーにとっては、誰のことだろうかと思うんだろうね。
でも俺やシリウスたちにとっては、「清風殿」に向かったメンバーにとっては、なじみがあるというか、もう聞きなれたというか。
「……なんで来たんだ、あの人」
なんでわざわざ神獣様がお越しになったのかがまるでわかりません。
それでもお客さんであることには変わらない。
ため息を吐きながら、ドアを開けに行くと──。
「ああ、よかった。やっと見つけたよぉ、妹ちゃん」
──なぜか風呂敷を背負ったジズ様が立っていた。
なんだろう、この「家出をしてきました」と言うかのような姿は?
意味がわからない。
「えっと、どうされたんですか?」
ゆっくりと、開けたドアをゆっくりと閉めながら尋ねたが、とっさにジズ様は足をドアの間に差し込んできた。
閉めさせないという意思表示だ。
いや、中に入れてという意思表示か。
現にジズ様はニコニコと笑っているし。
……本当にこのお姉ちゃんはなにがしたいのやら。
「帰る場所がなくなっちゃったんだよねぇ。入れてちょうだい」
「は?」
「だから帰る場所がなくなったのぉ~」
「ふぇーん」と泣き声をあげるジズ様。
でも言われた意味がいまいちわからん。
帰る場所がなくなったってどういうことですか?
「いや、「清風殿」が」
「それが奪われちゃったのぉ~」
「はぁぁぁっ!?」
思わず叫んでいた。
「清風殿」が世界に五つの社殿が、神獣様の聖域が奪われたってどういうことだよ。
ますます意味がわからない!
「いや、あの、ちょっとマジで意味がわからないんですけど、どういうことですか?」
「……説明するから中に入れてぇ~。寒いよぉ~」
しくしくと泣き声をあげるジズ様。
実にわざとらしいが、言われた内容が内容だった。
「清風殿」を奪われたなんて冗談でも言わないだろう。
であれば、「清風殿」が占拠されたというのは事実なんなろうな。
でもいったいどうやって?
どうやって「清風殿」を奪われたんだ?
誰になのかはなんとなくわかるからいいとしても。
でもあれにそんな力があるとは思えない。
あるとすれば、アイリスくらいか?
でもこの世界で最強の一角であるジス様から社殿を奪い取れる力が奴にはあるってことなのか?
どのみちここじゃ話もできない。中に入れるしかなかった。
「……とりあえず、中に入ってください。話はそれからでいいですよね?」
「うん。よろしくお願いします」
申し訳なさそうに頭を下げるジズ様。
面倒なことになったなと俺はしみじみと思いながら、ジズ様を家の中に入れたんだ。
想定外のことをしてくれるお姉ちゃんことジズ様でした。
続きは二十時になります。




