Act8-109 つかの間の終り
「母の日」のお祝いもそろそろたけなわとなってきた。
であれば、そろそろプレゼントを渡すのもありだろうね。いや、このタイミングをおいてほかにないはずだ。
「レア、プーレ、サラさんも来てくれる?」
今日の主役である三人を呼ぶと、三人は不思議そうに首を傾げながら、俺の方へと来てくれた。
三人はそれぞれにお祝いを楽しんでいるようだった。
プーレはウェディングケーキのようなケーキを真剣な表情で観察していた。
時折頭を捻ったり、深々と頷いていたりしていた。実にプーレらしいことだった。
サラさんは所せましと置かれたごちそうをシリウスと一緒に頬張っていた。
ふたりともハムスターのようにぱんぱんに頬を膨らませていたけれど、らしいなと思ったね。
そしてレアはというと、いけ好かない女さんと一緒に呑んでいたようだ。
なにも話をしていなかったようだけど、ふたりともどことなく楽しそうだったね。
……もしカルディアが生きて、飲酒ができる年齢になったら、ああしてレアと一緒に呑んでいたのかなって思ってしまった。
どうにもいけ好かない女さんが「カルディア」の名前を呼んで反応したことで、妙にあの女とカルディアを重ねてしまう。
あの女とカルディアが同一人物なわけがない。
そもそもカルディアはもうどこにもいない。
俺の腕の中で眠ったんだ。
もう目覚めるはずのない眠りについたんだ。
だからあの女がカルディアであるわけがない。
だってカルディアであれば、正体を隠すわけがないもの。
カルディアであれば、ちゃんと自分がカルディアであることを口にするはずだ。
それをしないということは、あの女はカルディアではない、はずなんだ。
でもモーレという例外もいるんだよな。
モーレもやっぱり俺の腕の中で眠りについた。その身を灰にした。
それでもモーレはエレーンとして戻ってきた。
ならカルディアだってカティアとして戻ってきてもおかしくはないんじゃないかな?
可能性はあるんじゃないかなとは思う。
でも認めることはできない。
だって認めたら、俺はいままでカルディアに酷いことばかりを言っていたってことになる。
愛している彼女を傷付けていたってことになる。
だから認められない。認められるわけがない。
……自分でもつまらない意地だと思うけれど、仮にあの女が本当にカルディアであるのであれば、正体を露わにするまで、俺はあの女をカルディアと同一人物だとは思わないことにした。
まぁ、いまはいけ好かない女さんのことはどうでもいい。いまはレアたちにプレゼントを渡す方が重要だもの。
「これ、プレゼントだよ」
アイテムボックスからひとりずつに「雫石」を渡していく。
プーレとサラさんはそれがなんなのかわからなかったみたいで、「きれいな石ですね」と言っていたけれど、レアだけは唖然としていた。
声にならないのか、なにか言いたそうに俺と「雫石」を見やっていたけれど、最終的には顏を覆ってため息を吐いてしまった。
「……プレゼントに「雫石」とかなにを考えているんですか。しかもこれ、「清風殿」産のものじゃないですかぁ」
レアの深いため息と呟きに、プーレとサラさんが固まった。
そして二人そろって叫んでくれた。耳が痛いです、はい。
「……嬢ちゃんは相変わらずとんでもないなぁ」
「というか、物の価値を知らなさすぎじゃろう」
プライドさんとデウスさんが呆れていた。
……もしかして「雫石」ってとんでもなく高価なの?
「清風殿」と「グラトニー」の「世界樹」でしか採れないとは聞いていたけれど、そんなに高価だったんだ。
「……まぁ、一般的に流通しているのは「グラトニー」産ですね。「清風殿」産となれば、その価値は国宝レベルです」
いけ好かない女さんもため息混じりに教えてくれた。国宝レベル。どう考えても金貨数枚程度じゃすまないよね?
「星金貨でも十枚は硬いですね」
「……俺やっちゃった?」
星金貨十枚以上の価値のものをプレゼントにしてしまった。
どう考えてもやっちゃったよね、俺。
そんな俺のといかけに皆さん、ため息混じりに頷いてくれました。
「と、とにかく、これはプレゼントだから受け取ってね!」
ひとつで星金貨十枚以上の価値。考えただけで頭が痛くなるけれど、それでもプレゼントだと言った以上、ひっこめる気はない。
俺は改めて三人に「雫石」をプレゼントだと言いきった。プーレとサラさんがなにか言いたげだったけれど、聞く気はありません。
「……もういいです。ありがたく受け取っておきます」
レアが苦笑いしていた。プーレとサラさんも最終的には受け取ってくれた。
なんだかどっと疲れた気がするけれど、これでプレゼントを渡すことができたし、よしとしようかな。うん。
そうしてプレゼントも渡し終えると、あとはみんなで騒ぐだけだと思っていた、そのときだった。
家のドアがノックされる音が聞こえてきたんだ。




