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Act8-108 つかの間の その十八~プレゼント~

「母の日」──。


「旦那様」が私たちのために用意してくださったお祝い。


 おそらくは以前に言った「目に見える形での謝罪」というのがこれなのでしょう。


 あのときは単純に「なにかプレゼントをください」と言ったつもりだったのだけど、まさかこんなパーティーを開くとは。


 本当に「旦那様」のお考えは読めない。


 でもそういうところも好き。


 いいえ、そういうこの人を私は愛している。


 それはプーレちゃんやサラも同じでしょうね。


 もちろん、ティアリカやエレーンちゃんだって同じはず。


 なにせ「清風殿」から戻って来たら、いつの間にかに「旦那様」と呼んでいるんだもの。


 旅の間になにがあったのやら。


 もっとも「旦那様」の魅力はそばにいればいるほど気付くものだから、一週間もそばにいたのであれば、心を奪われてしまっても無理もない。


 いえ、ティアリカの場合はおそらくあのとき、「旦那様」と事故でキスしたあたりから、心を奪われ始めたんでしょうね。


 正確に言えば、「鍛冶王」と「剣仙」のどちらかしか選べなかったあの子に、「両方を選べ」と言ったときから、ティアリカは「旦那様」に惹かれていったんでしょうね。


 そういう私も同じような口だから、ティアリカの気持ちはよくわかる。


 ……凌辱の限りを尽くされた身であり、およそ人とは言えない「化け物」である私を、あの人は「きれいだ」と言ってくれた。


 その言葉がどれほどに嬉しかったのか。あの人はきっとわからないでしょう。


 でもそれでいい。少し抜けているあの人が私は好きなのだから。


 ただ欲を言えば、もう少しご自分の魅力に気付いてほしいものなのだけど、それを含めての魅力なのだから、痛しかゆしかしら。本当に困った「旦那様」だこと。


 でもその「旦那様」は少し変わられたように思える。


 なんというか、抱え込んでいた闇が少し払われたような気がする。


「旦那様」はカルディアちゃんの復讐に目を向けていた。


 それも的外れな相手にだ。もっとも「彼女」がカルディアちゃんを殺したのかどうかはわからない。


 カルディアちゃん本人は教えてくれなかったから。


 ただ詳しくは言わなかったけれど、下主人が誰なのかはわかっていたようだから、たぶん間違いではないんでしょうね。


「彼女」の凶行を「旦那様」は知らない。


「彼女」自身が「旦那様」に悟られないようにしているということもあるんでしょうけど、その凶行の犯人に仕立て上げられたアイリスには少しだけ同情してしまう。


 もし、事実を「旦那様」が知ったら、「彼女」への気持ちは愛憎となるでしょうね。


 愛情と憎悪が入り交じった複雑なものになるのかもしれない。


 ……もしかしたらそれが「彼女」の目的なのかもしれない。


 愛憎であっても、「旦那様」に常に想われることには変わりない。


「彼女」がもっとも欲しているものを手に入れられるとあれば、そういう凶行に及んでもおかしくはないのかもしれない。


 もしくは気づかれないと考えているのかもしれないけれど、気づかれないなんてことはないでしょうね。


 なにせ「被害者」が「旦那様」のそばにはいるのだから。


「楽しまれておりますか? 蛇王様」


 その当の本人が覆面越しににこやかに笑って私の隣に座った。


 まったく正体を隠すためとはいえ、髪どころか尻尾の色さえも染めてしまうとは。


 口調を変えるだけでは不十分だというのはわかるけれど、せっかくのきれいな銀髪と銀毛だったのに、もったいないと思う。


「ええ、それなりにはね」


 酒精が弱めのワインを口にしながら頷くと、即座に私はひそかに念話を飛ばした。


『あなたは楽しんでいるのかしら? カルディアちゃん』


『……レア様には通じないかぁ』


 カティアと名前を変えたところでわかる人にはわかってしまう。


 実際シリウスちゃんは気付いているみたいだし。


 初めての出勤のときに泣いていたとティアリカが言っていたけれど、そうなるのも当然だった。


 なにせ死んだはずのママが、妹を抱っこして見送りをしてくれたのだもの。


 泣かないわけがない。


 正直な話、同じママとして少し嫉妬しそうだった。


 私がカティちゃんを抱っこして見送りをしたところで、シリウスちゃんは笑ってはくれるだろうけれど、泣くことはないだろうし。


 だからと言って娘であるあの子を泣かせたいわけじゃないのだけど。


 やっぱり感涙したと言われてしまうと、嫉妬のひとつやふたつはどうしてもしてしまうもの。


『私としては「旦那様」のそばにずっといられるレア様が羨ましいよ。「旦那様」ってば、私のことにまるで気づかないんだもん。……私を想ってくれるのは嬉しいけれど、想ってくれるのであれば、「カティア」が私だってことにも気付いてほしいよ』


『ふふふ、鈍感さんだからね』


『そうだね。でもそういうところも好き』


 穏やかに笑うカルディアちゃん。正体を隠してもこの子の想いは決して変わらない。


 ママとしては一歩譲ったとしても、嫁としては決して一歩も譲るつもりはない。


 とはいえ、それを口にするほど私は空気が読めないわけじゃない。


 カルディアちゃんも隠してほしいようだし、いまは隠しておいてあげましょう。


「レア、プーレ、サラさんも来てくれる?」


 不意に「旦那様」に呼ばれてしまった。なんの用かしら? とりあえず向かいましょうか。


 カルディアちゃんにひと言断わりを入れてから、「旦那様」の元へ向かうと、「旦那様」は──。


「これ、プレゼントだよ」


 ──そう言って、「雫石」を渡してくれたのだった。

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