Act8-106 つかの間の その十六~秘密~
ティアリカを襲いかけたことを、モーレにばっちりと見られていた。
そうモーレ自身の口から言われたことで、現在のリビングはとても居心地が悪かった。いや、悪いのは俺なんですけどね?
でもあのときは自分でもよくわからないくらいに、自分を抑えることができなかったんだ。
あのときタマちゃんが目を醒まさなかったら、きっと俺はあのままティアリカを抱いたと思う。
ティアリカを抱く自分の姿をたやすく想像できる。
いや、別に抱きたくないわけじゃないんだよ。
でも抱くのであれば、もっとムードというか、手順が必要だと思うんだよね。
あんな強引なのはレイプみたいなものだよ。
そんなことなんてしたくないのに、なんで俺はあんなことをしていたんだろうか?
自分で自分がよくわからないよ。
でもそんなことを言ってもいまのモーレには通用しそうにないですね、はい。
「まったくカレンちゃんは、スタイルがいい女性を見るとすぐに手を出しちゃうんだから、困っちゃうよね」
頬を膨らませながらモーレは憤慨とされています。
ただ語弊があります。
俺は別にスタイルがいい女性を見たからと言って、すぐに手を出すわけでは──。
「いいわけは見苦しいよ?」
にっこりと笑うモーレ。「あ、はい」としか俺は言えませんでした。
ほかの言葉を口にしたら死ねる。だらだらと冷や汗を掻きながら、しみじみと思いました。
「……まぁ、あのときは仕方がなかったと思うけれど」
「そ、そう言っていただけると」
「それは言いますよ? だってあのときは「緩んで」いたからね。寝起きだってこともあったのだろうけれど、その前に「力」を使っちゃっていたし。無理もなかったと思う」
「へ?」
モーレが言いたいことがよくわからない。
緩む? 力を使っていた? どういうことだろう?
というかあのとき俺はなにかあったのかな?
自分でもよくわからないうちにティアリカを襲っていた。
なんであんなことをしたんだろうね、俺は。
あんなことをするのは嫌いなはずなのに。
「……ちょっと言い過ぎたね。ごめん、気にしないで」
モーレは繕うように笑っている。
モーレらしい笑顔なのだけど、その直前に言われたことが気になった。
緩むってなんのことなんだろう? 力ってなんのことなのかな?
「えっとモーレ。いまの話って」
「……ん~、気にしない方がいいよ? 聞いたところで意味ないし」
「なんで?」
「大丈夫だからだよ?」
「なにが」
「うん、とにかく大丈夫だから。カレンちゃんはそのままのカレンちゃんでいてくれればいいの。そうすれば全部終わるからね」
「終わるって」
「うん、だから気にしないでいいんだよ」
モーレは詳しいことを教えてくれるつもりはないようだ。
笑顔から頑ななにかを感じ取れた。どうあっても教えてくれるつもりはないみたいだ。
「……ひとつだけ教えて」
「なに?」
「俺にはなにか秘密があるの?」
「ないよ? 半神半人ってこと以外にはなにもないからね」
モーレは嘘を吐いているようだ。笑っている。笑っているのに目だけは笑っていない。
いや、笑っているはずなのに雰囲気がとても堅い。
普段の笑っているときのモーレが纏うものとはまるで雰囲気が違っていた。
「……そっか」
「うん、だから気にしないでね」
ニコニコと笑うモーレ。言い繕えたと思っているのか、それとも俺が疑っていることを知ってあえてしているのか。俺には判断がつかなかった。
「それよりもお話しようか。なにから話そうか?」
「……そうだね。モーレが話したいことでいいよ」
「ふふふ、そんなことを言っていいのかな? なかなか終わりませんよ?」
にやりと不敵に笑うモーレを見つめながら、「構わないよ」と言うとモーレは「それじゃあねぇ」と頬に指を当てながら楽しそうに考えこんでいた。
「なにか、あるのかな?」
わからないけれど、まだ俺にはなにかあるようだった。
そのなにかがなんであるのかはわからない。
わからないまま、俺は夕食までの時間をモーレと話をして過ごしたんだ。




