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Act8-90 幼なじみ

 プライドさんに連れられて俺たちは、「ベルルの街」へと久しぶりに帰ることができた。


「ほう、「ベルルの街」を拠点にしているのか。なかなか考えたじゃないか、嬢ちゃん。ここは「蠅の王国」でも要所のひとつだ。ここを抑えておくのは、「蠅の王国」を攻略するのには必要不可欠と言ってもいいだろう」


 うんうんと腕を組みながら、プライドさんは俺が「ベルルの街」を拠点にしていることを褒めてくれた。


 もっとも理由はとても単純というか、そんな考えたものではなかったのだけど。


 単純にククルさんのお父さんであるクルスさんが領主をしているから、間借りさせてもらっているというだけだった。

 

 いわば偶然の産物と言ってもいい。だからそんなに褒められても正直反応に困ってしまう。


「がははは、運も実力のうちだ。気にするな」


 最終的には豪快に笑いながら、俺の背中をばしばしと叩いてくれた。


 普通に咳込みました。


 半神半人になってから、多少は頑丈になったんだろうけれど、それでもプライドさんの力の前ではなんの意味もないことがよくわかったよ。


「さぁて、嬢ちゃんが間借りしている家とやらに行くとするか」


 颯爽と門を抜けて、俺たちが過ごしている社宅に行こうとするプライドさん。


 しかし待ってほしい。


 まだその段階ではないのである。


「すみません、プライドさん。まだ社宅には行けないんですよ」


「うん? なんでだ? 帰ってきたら家に帰っても」


「いや、それはそうなんですが。俺はいまここの衛兵として働いているんで、まずは詰め所に戻らないといけなんですよ」


「はぁ? 衛兵だぁ?」


 プライドさんは理解できないという顔をしながらも、俺たちの後を着いて詰め所まで一緒に来てくれた。


 まぁ、プライドさんだけだと社宅の場所がわからないのだから、ある意味当然ではあるんだけどね。


 とにかく、そうして報告をしに詰め所に向かうと、ちょうどクルスさんとクルルさん親子が待っていた。


「おお、カレンさん。帰ってきましたか」


「シリウスちゃんも元気そうでなによりです」


 ふたりはニコニコと笑っていたが、俺の後ろに立つプライドさんを見て、少し萎縮しているようだった。


 まぁ、いきなり「七王」の一角である「獅子王」陛下が現れたら萎縮するよね。


「「獅子王」陛下はなぜこちらに?」


 クルスさんはへこへこと頭を下げながら、プライドさんの機嫌を取ろうとしていた。


 だが、プライドさんは鼻を鳴らした。


 というか、面倒臭そうにクルスさんを見つめていた。


「機嫌取りはやめろ、クルス。いろいろと積もる話もあるが、いまはとりあえず休みたいからな。嬢ちゃんのところで休ませてもらう。おまえもあとでそこに来い。ああ、そっちの娘もな。たしかククルだったよな?」


「はい。「獅子王」陛下のお記憶に残っているとは光栄至極と──」


「だから、そういうのはいいって言っているだろうが。まったく親子そろって」


 ため息混じりにプライドさんは言う。


 クルスさんもククルさんも相変わらずへりくだっているようだった。


 そんなふたりの態度にプライドさんは辟易としていた。


「とにかく、親子そろって来い。俺様たちは先に行かせてもらうぞ」


 プライドさんは要件だけを言うと、詰め所を出て行ってしまった。


 俺たちも慌ててその後を追おうとして、ひとつ聞きたいことがあったことを忘れていた。


「あの、ククルさん」


「はい?」


「えっと、アトライト・ホリなんとか、エーデル?」


「アトライト・ホリネウス・エーデルバイト・ルーカス・プリズムのことですか?」


「あ、はい。えっと、お知り合いですか?」


 そう、あのアホエルフはククルさんのことを「ククルたん」と呼んでいた。

 

 つまりは最低でも知人ということだった。


 どの程度の知人であるのをなんとなく知りたくなった。


 そうして尋ねるとククルさんはなんとも言えない顏で、苦虫をかみつぶしたような顔で言った。


「一方的に片思いされている幼なじみですね」


 やれやれと肩を竦めながら言ったククルさんのひと言で、アホエルフとククルさんの関係がなんとなくわかってしまった。


 なんというか、憐れです。


「まぁ、あんなアホのことはいいですから。「獅子王」陛下がお待ちですよ?」


 ククルさんに言われて、はっとしたよ。


 あのプライドさんのことだ。この街でなにかを仕出かしそうで怖い。


 たとえばゲリラで天空肩車を道行く子供に──。


「う、うわぁぁぁーん、お母さーん!」


「き、きゃぁぁぁぁ、坊やぁぁぁぁーっ!」


 ──すでに手遅れだった。


「へ、陛下ぁぁぁ、あんたなにしているんですかぁぁぁぁーっ!?」


 俺は慌てて詰め所を出て行った。


 その際、ククルさんの表情が、苦虫を噛み潰したような顔だったのが、どこか寂しそうな顔をしているように見えた。


 でも詳しく確かめることはせずに、凶行をやらかすプライドさんを止めるべく、俺は詰め所を出て行ったんだ。

 今夜二十四時よりマグネット版の更新です。

 よろしけばどうぞ。

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