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Act8-89 不気味な余裕と獰猛な笑顔

 プライドさんの宣戦布告に対して、「グラトニー」からの返事は一切なかった。


 そもそも主であるアホエルフがいないいま、なにを言っても返事などない。


 道中でそのことは話していた。でもプライドさんは、いない主に向かってなぜか宣戦布告をしていた。


 それほどの怒りが渦巻いているという証拠なんだろうな。


 プライドさんは宣言をしたままの体勢で、腕を組んだまま「グラトニー」を睨み付けている。


 その理由はいまのところ俺にはわからない。


 なにかしらの狙いがあるんだろうけれど、脳筋のようで実際はとんでもない策略家であるこの人の考えを俺程度では読み切ることはできない。


 俺ができるのは、いまなおまっすぐに「グラトニー」を見据えるプライドさんの背中を見つめることだけ。


 そうしてどれだけの時間が経ったのか。不意にティアリカがため息を吐いた。


「……本当にこの子は」


 痛そうに額をぐりぐりと指の腹で押し込みながら、ゆっくりとプライドさんに近づいていくと、なぜか無言でプライドさんの頭を叩いた、って!?


「なにしているの、ティアリカ!?」


 いきなりプライドさんの頭を叩くなんて、なにを考えているんだろうか? 


 旧知の仲ではあるみたいだけど、いきなり頭を叩くのはどうかと思うし、そもそもいまの情況はとんでもなくシリアスだ。


 シリアスな空気を生み出したプライドさんの頭を叩くというのは、いくらなんでもおかしい。そう思ったのだけど──。


「んあ?」


 頭を叩かれたプライドさんは、なぜか素っ頓狂な声を出してくれた。


 それはまるで寝起きであるかのような。ってちょっと待とうか?


  もしかしてこの人、腕を組んで「グラトニー」を睨み付けていたわけではなくて──。


「まったく立ったまま寝るとか、意味がわかりませんよ?」


「がははは、すまん、すまん。待つのが退屈でな。気付いたら、気が遠くなったんだよ」


「……道中で「旦那様」が例の簒奪者はいま「グラトニー」にはいないと説明してくださったのを忘れましたか?」


「うん? そうだったか? すっかりと忘れていたわ。がははは」


「そんなことだろうと思いましたよ、まったく」


 はぁと小さくため息を吐くティアリカと、ティアリカに説教されながらも変わらずにがはははと豪快に笑うプライドさん。


 ……なんだかちょっと面白くないと思うのはどうしてだろう? 


 そもそもなにが面白くないのかな?


  うん、意味がわからないぞ?


「まぁ、これで用事も終ったことだし、帰るとするか」


「へ?」


 今度もまた意味がわからない。というか、いま思ったことより以上に意味がわからないんだけど? 


 用事が終わったって。攻め陥すんじゃなかったの? だからいまこうして宣戦布告をしたわけで──。


「なにを言っているんだ、嬢ちゃんは? ここは「首都」だぞ? 俺様ひとりでそう簡単に攻め陥せるわけがなかろう?」


 プライドさんがなにを言っているんだ、こいつはというように俺を見ている。


 若干かわいそうなものを見る目なのは気のせいじゃない。


「……はぁ。あなたは相変わらず意地が悪いですね。「旦那様」、いまのはプライドなりの偵察なのですよ」


「偵察?」


 あんな大声で宣戦布告をしたことが偵察? 偵察っていつからああいうことになったんだろうか?


「……「旦那様」が仰りたいことは重々承知です。ですが、プライドのしたことは一見ただの宣戦布告ですが、理には適っているのです。ああして威圧行動を取ったにも関わらず、相手方はなにも仕掛けてこなかった。しかも威圧したのは、「魔大陸」の支配者の一角たる「獅子王」みずからです。それが意味することはわかりますか?」


「……意味すること?」


「はい。わざわざ「獅子王」みずからが宣戦布告をしに来たのです。なのに相手はなんの行動も取らなかった。その意味することはなんでしょう?」


 なぞかけみたいなことをティアリカは言い出した。


 しかし意味することか。


 プライドさんがみずから宣戦布告をしたのに、相手はなにも行動しなかった。


 ……もしかしてそういうことか?


「わぅ~。普通は逃げ出すとか?」


「惜しいですが、違います。「旦那様」はもうお気づきですか?」


「……うん、わかった。「獅子王」様がわざわざ宣戦布告をしても行動を取らなかった。それが意味することはひとつ。なにもする必要がないからだ」


「ええ。彼らにとっては、意味をなさないということですね」


「わぅ?」


 シリウスはわけがわからないというように首を傾げている。まぁ、いまだけの説明じゃわからないか。


「シリウスが言ったことは、普通誰だってすると思うんだよ。だって人という括りにおいて「七王」陛下方は最強だ。その最強が徹底的にやり合うと言ったら、普通は逃げ出すか降伏を選ぶ。でも相手はなにもしてこなかった。相手の総大将が留守ということもあるだろうけれど、それ以上の理由がある」


「理由って?」


「そうだな。たとえば、シリウスはルルドにいくら凄まれても怖くないよね?」


「わぅん。あいつ、私よりも弱いもん。全然怖くない」


「……それと同じことをあいつらは思っているってことだよ」


「わぅ? つまりプライドさんが怖くないってことなの? 勝てると思っているってことなの?」


 シリウスが目を見開いていた。


 まぁ、驚くわな。


 俺も気づいたときはあまりの荒唐無稽さに、かえってありえないと思ったほどだもの。


 でも考えてみると、それ以外にはありえないとしか思えなかった。


 何度も言うけれど、「七王」陛下方はこの世において、人という括りでは最強だ。


 その最強の一角である「獅子王」プライドがあそこまでの宣戦布告をした。


 それでもなにも仕掛けてこないということは、なにも怖くないということだ。


 むしろ相手をしてやるとでも思われている可能性がある。


「いまのところ、そういうことだな。やつらの隠し玉がなんなのかはさっぱりわからん。わからんが、少なくとも俺様を相手取るほどの自信はあるということだな。大した情報ではないかもしれんが、この情報を得られただけでもここに来た意味はあった。ゆえに今日はここまでだ。ちと策を練らねばならんな」


 そう言ってきーやんのそばへと向かっていくプライドさん。


 その目は真剣だが、口元は獰猛に笑っていた。


 久々にやりがいのある獲物だと思っているのかもしれない。


「どうしますか、「旦那様」」


「プライドさんが帰るっていうなら帰ろう。残っていても仕方がない」


「ですね」


 ティアリカが笑う。


 口元を押さえて上品に笑っている。


 でも押さえている口元は、わずかに露わになっている口元はプライドさんと同じで、獰猛に笑っているように俺には見えたんだ。

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