表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
886/2052

Act8-88 怒れる獅子

 この国に来て初めて見たときから、「グラトニー」はまるで変わっていなかった。


 天を衝くほどに高く、山を思わせるほどに大きい「世界樹」だった。


 でも「清風殿」の「世界樹」に比べると、やはり見劣りはする。


 むしろ「清風殿」の「世界樹」が大きすぎるんだろうね。


 それに「清風殿」のはクライミングしていたという実感も踏まえられている。


 まぁ途中からはクライミングではなく、張りついていただけだったのだろうけど。


 いまさらながらにジズ様の、いや神獣様方の圧倒的な実力の一端を理解できる。


 あの森の中という限定的な要素はあれど、いま目の前にあるものよりも巨大な「世界樹」を自在に操れるんだから。


 およそ人の身ではとうていなしえないことだ。


 それをあっさりとしてしまうのだから、神獣様は本当にこの世界の最強の存在なんだなと改めて実感させられてしまう。


「どうした、嬢ちゃん? 呆けていないで、どこから攻めるかを決めるぞ」


プライドさんはあっさりと前提を覆してくれた。


「鎮守の森」の近くで偵察に頷いてくれたと思ったのは気のせいだったかな?


「えっと、偵察では?」


「まどろっこしい。相手が態勢を整えるまでに攻め陥せばいいだけだ」


「それはそうかもしれませんけど」


 たしかに間違いではないよ? 


 間違いではないけど、城を攻めるにしても兵力がいるわけなのだから、いまこの場にいる人数だけでは圧倒的に足りない。


 そもそもこの人数だけで城を攻めるとか、軍学を真っ向否定しているようなものだ。


 軍師がこの場にいたら、頭を抱えそうだよ。


 もっともそれは地球での話だけども。この場には、地球ではなしえないことをなしえる戦力がいるのだから。


「さて、まずはあいさつと行くか」


 にやりと不敵に笑うとプライドさんは、大きく息を吸い込んだ。そして──。


「我が名はプライド! 「獅子王」プライドなり!」


 ──遠くからでも聞こえる大音声をあげた。下手な鬨よりも大きく、はるかに威圧感がある声だった。


「我が友「蝿王」グラトニーの墓前に馳せ参じた! 志半ばにして卑劣なる暗殺によって倒れた我が友の墓前に!」


 プライドさんの声は変わらない大きさだったけど、徐々にだが感情が入り交じり始めた。


 抑えきれないほどの怒りと悲しみが伝わってくる。


「我が友から王位を掠め取った簒奪者よ! 我が友の命を奪っただけでは飽きたらず、我の命をも狙っているそうではないか! いい度胸である! 簒奪者風情がよくぞ抜かした! だが!」


 プライドさんが目を見開いた。


 同時に炎がプライドさんから立ち込めていく。一種の陽炎のようにさえ見える。


 立ち込める炎はその怒りと悲しみがどれほどのものであるのかを表しているようだった。


 その怒りに突き動かされるようにプライドさんは言った。


「俺様を甘く見るなよ、小童」


 静かに、でも響くような声だった。


 それまでの大声の方がはるかに大きい声であるはずなのに、その声はどこまでも遠くまで聞こえたと思う。


 それほどの声だった。


 それほどの怒りをプライドさんは抱いていた。


「貴様の部下が何千、何万いようとも。俺は貴様の喉笛を噛みちぎるまで止まることはない。我が友の無念を晴らすそのときまで、俺は止まらぬ。ここに俺は宣言する。最後の一兵になるまで、俺は貴様らと戦い続けると! 母神の名のもとの聖戦を始めると! この俺「獅子王」プライドは宣言する!」


 プライドさんの声が再び大きくなった。


 その声に、その威圧に、その場どころか世界自体が震えているようだった。


「……相当に頭に来ているようですね。まさか「母神の名のもとの聖戦」とまで言うとは」


「そんなに凄いことなの?」


「ええ。この世界において、「母神の名のもとの聖戦」とは、不倶戴天の敵だと宣言したようなものです。それだけプライドはグラトニーを討たれたことに腹を立てているようですね」


 ティアリカの言葉を聞いてから、改めてプライドさんを見やる。


 その背中は俺が知っているプライドさんの背中とは違っていた。


 穏やかさなど欠片もない。


 世界さえも震えさせるほどの威圧を纏った一頭の獅子が、字の通りの獅子が立っていた。


 その背中はどこまでも大きく、そしてどこまでも強く、そしてひどく悲しみに満ちていた。


 そんなプライドさんの背中を、不意に吹き抜けていく風を浴びながら俺はただ見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ