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Act8-87 ゼルストリア

 本日二話目です。

 モーレの素性をちょっとばっかりですね。

 空路はやはり速かった。


 水上をサカイさんの背に乗って進むよりも段違いに速い。徒歩とはもう比べようもない。


 そんな空路を進みながら、俺は疑問に思ったことをプライドさんに聞くことにした。


「プライドさん」


「うん?」


「ゼルストリアって、特殊な家柄なんですか?」


 きーやんが張ってくれている風の魔力の結界により、大声を張らずに会話ができているのは素直にありがたい。


 おかげで風に体があおられることもない。


 まさに優雅な空の旅になっている。


 そんな優雅な旅の中で気になることがあるとすれば、出発前にプライドさんが言っていた「ゼルストリア」という一言だ。


「ゼルストリア」とはプーレの家名だった。


 でもその「ゼルストリア」という名を聞いて、プライドさんは驚いていた。


 それは「ゼルストリア」がよほど特殊な家だという証拠だと思う。


 でもモーレの前では、プライドさんが話さなかったことを踏まえると、あまり聞かせたくないことなんだろう。


 でもいまであれば、モーレには聞こえないだろうから問題はないはずだ。


「ふむ。嬢ちゃんは「巫女」を知っているか?」


 シリウスを抱えて飛ぶモーレを見やりながら、プライドさんが言う。


 この世界の「巫女」は俺が知っている巫女とは似ているようで、少し違っていた。


「たしか神獣様や母神様にお仕えする存在ですね?」


「ええ、正確には神様様方と母神様にはそれぞれの「巫女」が存在されているのです」


 ティアリカが補足をしてくれた。


 それぞれの神獣様に「巫女」か。


 でも、ガルーダ様やジズ様のところには「巫女」なんていなかったけどな。


「あくまでも以前はいたのさ。というかその末裔を嬢ちゃんは知っているぞ? いや嫁にしたという方が合っているな」


「もしかして、カルディアですか?」


「あぁ。あいつの一族の始祖がガルーダ様の「巫女」であり妻だった。つまりはあいつは「巫女」の一族でもあるが、ガルーダ様の子孫ってわけだ」


「……そうだったんですか」


 カルディアはずいぶんと特殊な血筋だったんだな。


 そうだろうなとは思っていたけど、それほどに特殊な血筋だったんだな。


「「旦那様」」


 ティアリカが悲しそうに俺を見つめていた。ティアリカはカルディアをほとんど知らない。


 以前にいた俺の嫁のひとりということしか知らない。


 それでも俺がどれほどカルディアを想っているのかを知っている。


 彼女がいなくなっても俺はいまだに彼女を想っている。


 心の中の大半は彼女への想いで埋め尽くされていた。


 あえてそれを誰にも言ってはいないが、ティアリカにはお見通しのようだ。


 ティアリカの目は少しだけ揺れている。


 凪いでいたはずの水面にさざ波が立っているかのように揺れ動いていた。


「……ティアリカ。その」


「お気になさらずに。手前はまだ新入りですので」


 ティアリカは笑っていた。けど俺には泣いているようにしか見えなかった。


「あー、まぁ、ガルーダ様のところの「巫女」はガルディアの一族だ。そしてそれはゼルストリア家も同じだ。ゼルストリア家も「巫女」の一族だ。ただしガルーダ様ではなく、ジズ様のだがな」


「ジズ様の「巫女」ですか? モーレが?」


 そんな話は聞いていなかった。 


 だってジズ様はそんなことを一度も言われなかったし、モーレもやはりなにも言っていなかった。


「……正確に言えば、ゼルストリア家は元「巫女」の一族だな」


「元?」


「あぁ、何代か前の当時の「巫女」がジズ様の怒りを買い、一族郎党すべてを罰されたという話だ。おかげでジズ様には現在「巫女」はいない。そしてその影響で「清風殿」にも人はいないんだよ」


 どうりで「炎翼殿」同様に「清風殿」にも人がいないはずだ。


「炎翼殿」はおよそ人が生きていける環境ではなかったからわかるんだ。


「清風殿」は「炎翼殿」とは違っていた。


 人が住みやすい環境だったのに、ジズ様以外に住んでいる人が誰もいないのはおかしいと思っていたけれど、そういう事情があったのか。


「でも、モーレは」


 そう、モーレはゼルストリアの家の者のはずだ。


 そのゼルストリア家のモーレを前にしていたというのに、ジズ様はなにも仰らなかったし、怒りをあらわにもしなかった。


 あれはどういうことだったんだろう?


「それなんだよなぁ。もしかしたら、ゼルストリアという家名をたまたま名のっているだけなのかもしれん。詳しいことは俺にもわからんが、もし「巫女」の一族であるのならば、ジズ様が罰を与えられない理由がわからん」


 プライドさんにも事情はわからないようだ。


 そもそもゼルストリ家が本当にジズ様の怒りを買うようなことをしたのか。


 それを知っているのはいまやジズ様くらいか。


 いや、もしかしたらゼルストリア家と同じゼルストリアという名前であるだけなのかもしれない。


 どちらであるのかは、モーレにもわからないだろう。わかるのはジズ様だけだ。


「まぁ、本当にゼルストリア家のものなのかはおいおい調べればいいさ。それよりもそろそろ見えてくるぞ」


 プライドさんの言葉に顔を上げると、遠くに「グラトニー」の「世界樹」が見えた。


「清風殿」の「世界樹」を見た後だと、少し格落ちではあるけれど、プライドさんはあれを陥落すと言った。あれを本当に陥落せるのか。


 本当にできるのかはわからない。


 でもやれるだけのことはやろう。


 いまはいないグラトニーさんのためにできることがあるとすれば、もうそれだけだろうから。

 続きは明日の十六時になる予定です。

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