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Act8-85 鬼が出るか蛇が出るか

「「首都」を陥落すって」


 プライドさんの思わぬひと言に頭の中が真っ白になった。


 たしかにそれが一番手っ取り早いことではある。


 だいたいあのアホエルフだって、真っ先に「首都」を陥落させた。


 正確にはこの国の王であるグラトニーさんを討ったんだ。


 そうしてこの国をあいつは手に入れた。


 けれどあいつはまだこの国を平定できたわけじゃない。


 国を手に入れることと国を平定させることは、同じようでまるで違う。


 国を手に入れた先にあるのが、国を平定させることだった。


 つまりあいつはまだスタート地点に立ったというだけだ。


 本当の意味でこの国の王になったわけじゃない。


 本当の意味でこの国の王になるためには、まずするべきこと。


 それは反乱分子への対処だ。


 どこの馬の骨とも知らない相手を、国の王と認めるような人はいない。


 特に貴族と呼ばれる人たちは、それまでの繋がりや血筋などを気にする人が多い。


 その理由は様々にある。政治的な思想や派閥、家の財産などそれこそ多種多様だろう。


 でも一番気にしているのは、その人物が信用にたる相手なのかってことだ。


 この相手は自分を裏切ることはないのか、信用してもいいのかを知りたがっている。


 それが自分たちの上に立つ存在である王であればなおさらだ。


 この王に従ってもいいのか。


 家を繁栄存続するためにはこの王の下に着くべきなのか。


 それを貴族たちは測っている。


 そのためにまずは出自を調べる。


 過去に名を馳せた勇士やら大魔導師とも呼ばれた生粋の魔導師一族の出とか、そういう情報をまず集める。


 それから精査する。


 この王は大船なのかそれとも泥舟なのかを判断するんだ。


 誰だって大船には乗っても、泥船になんて乗るわけがない。


 まぁ、中には外見は立派だけど、それは張りぼてで実際は泥船ってこともあれば、泥船に見えて実際は、とてもしっかりとした骨組をした大船だったということもありえる。


 でもそれは実際に乗ってみないとわからないもんだ。


 その判断基準になるのが血筋だ。


 たとえば、「英雄」と謳われるベルセリオスを祖先に持つとか。


 まぁ、本当に子孫かどうかはわからないし、そもそも確証なんてなにもないが、少なくとも「英雄」の子孫と自称するのだから、それにふさわしい人物でなければ誰も信じないし、そんなことは本人が一番わかっていることだ。


 だからこそその名に恥じないように日々を生きる。


 その積み重ねたものを貴族たちは知ろうとしている。


 相応しいと思えば、頭を垂れればいい。


 相応しくないと思えば、それこそ自分こそが王に相応しいと思うのであれば、叛乱軍を興せばいいだけだ。


 それだけの財力と兵力は貴族であれば持っているからね。


 つまり平定とは、各地にいる貴族たちに自分を認めさせることだ。上が認めれば下も認める。そうして国に棲む一人一人に認可させていくことが平定だった。


 認めさせないまま、自分が王だとしか、口だけのままでは、誰も力を貸そうとはしないだろうし、むしろ追い落とそうとするだけだ。


 追い落とされないために各地の貴族と誼を作ったり、不穏な動きをする貴族を潰したりといろいろと面倒なことが多い。


 言うなれば、王として立ったばかりの頃が一番その王の度量を知れる。


 ひと言で言えばお試し期間のようなもの。


 であるからこそ、いまが攻め時とも言える。


 王としての地盤が不安定で、王自身が「首都」を離れているいまこそが、「首都」を陥落させるまたとない機会だった。


 でも同時にそれは奴さんも理解している。


 それ相応の戦力を残しているだろう。


 でもそれ相応の戦力程度では、ここにいる「獅子王」様を止めることなんてできるわけがない。


 加えてこっちには「剣仙」と謳われたティアリカもいる。


 たしかに攻め時と言うのであれば、いまを置いてほかにはないのかもしれない。


「どうする、嬢ちゃん? 俺様はどちらでも構わんぞ?」


 不敵に笑うプライドさん。


 判断材料がちょっと乏しいが、やってやれないわけではないはずだ。やってみる価値はある。


 ただ不安要素がないわけじゃない。


 相手の戦力がわからないいま、ただ突撃するっていうのは下策にもほどがある。


 であれば、だ。


「まずは偵察をしませんか? それから考えるのはダメでしょうか?」


「偵察、か。ふむ。やや消極的ではあるが、確実性はあるな。いいだろう、まずは偵察を行うとするか!」


 がはははと高笑いを始めるプライドさん。どうやら俺の案をお気に召してくれたみたいだ。


 気に入らんとか言われたら、どうしようと思っていたけれど、結果オーライかな?


「さぁ、行くぞ。「グラトニー」に殴り込みだ!」


 がはははと豪快に笑って、俺の言葉を理解してくれているのか、それとも理解したうえであえてからかっているのか。


 いまいちわからないことを言いながら、プライドさんは歩いていく。


 その後を俺たちはため息を吐きながら、着いていくことにした。


 さて、鬼が出るか蛇が出るか。たしかめに行きますか。

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