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Act8-80 さらば、「清風殿」

 本日二十四話目です。

「うぅ~、もう帰っちゃうの?」


 ジズ様は涙目になりながら、俺を引き止めようとしているようだ。


 だけど、こればかりはどうしようもない。


 あのアホエルフたちが来る前に退散したかった。


 もっともジズ様曰く連中が「清風殿」にたどり着くのは数時間ほどかかるようだ。


「連中の夜営地周辺の道をだいぶ弄ったからね。「世界樹」は見えていても、大回りしないとたどり着けないようにしたから、当分は来ないよ? そう、妹ちゃんに「女の子の快感」を教えられるだけの時間は──」


「あ、そういうのいいんで」


「最後までいけずぅ~!」


 ジズ様は最後の最後まで実にジズ様らしい振る舞いを見せてくれた。


 こういうのもお約束なのかな?


「次はカティちゃんにも会わせてね、カレン殿」


 ジズ様とお別れするということは、サラ様ともお別れということだった。


 シリウスはサラ様に抱きつきながら、名残惜しそうにしていた。


「ばぁば」


「またすぐに会えるわ」


「……うん」


「またね、シリウスちゃん」


 サラ様はそう言ってシリウスを抱き締めていた。


 シリウスはすんすんと鼻を鳴らしながら、サラ様に抱き着いていた。


 サラ様にはなかなかお会いできないからなぁ。


 いつもよりも甘えているようだ。


 いつかサラ様とも年がら年中会えるようになれればいいんだけどなぁ。


 そればかりは、いくらお金があっても難しい。


「お金? お金を払えば、妹ちゃんいてくれるの?」


 ジズ様が勢いよく顔をあげた。


 どうも嫌な予感がしますね。


 というか、その言い方だとホストに貢ぐ独身女性のような──。


「妹ちゃんがそばにいてくれるのであれば、なんだっていいの! それでいくら? いくら払えば私のそばにずっといてくれるの!?」


 目を血走らせながらジズ様は叫んでくれた。


 耳鳴りが起きそうなほどの声量でした。


 そして言っていることはホストにドハマりした独身女性そのものです。


 俺は冒険者兼ギルドマスターであって、ホストではないんだけどな。


 そもそも俺は女だから、ホステスさんにはなれてもホストにはなれません。


 なんて言ってもいまのジズ様には通じなさそうだな。


「いくら払えば、妹ちゃんとベッドインまで──」


「シリウスちゃんの教育に悪いことを言うんじゃありません」


 ジズ様の頭をサラ様はわりと手加減抜きで叩かれました。


 スパンっていい音がしたからね。スパンって。


 ジズ様は頭を痛そうに押さえて蹲っています。


「サラ様、ひどいですよぉ~」


「ひどいのはあなたの頭の方よ、ジズ」


 やれやれとシリウスから離れて、サラ様は腰に手を当ててお説教を始められた。


 その仕草はどこかおばあちゃんとよく似ていた。


 じいちゃんがライコウ様だったように、おばあちゃんがサラ様だったらなと、そんなバカなことを考えてしまった。


「「旦那様」、そろそろ」


「あ、うん。そうだね」


 別れ惜しいけれど、いつまでも惜しんでいても仕方がない。


 どこかで未練を断ち切らないとこのままずるずるとい続けることになりそうだ。


「では、サラ様もジズ様も。またいずれ」


「ええ、またね、カレン殿」


「うぅ~、またねぇ~、妹ちゃん」


 サラ様もジズ様もそれぞれにらしい対応をされながら、俺たちを見送ってくれた。


 二人に見送られながら「清風殿」を後にすると、すでにサカイさんが湖から顔を出していた。


「では、このまま森の中ほどまでお送りしますね」


「お願いします」


「畏まりました」


 サカイさんは湖から大きく体を這い出された。


 這い出した背中に乗り、俺たちは「清風殿」の麓から離れた。


 この森にはアイリスがいる。


 けれどあいつとの決着はまだここで着けるべきではないんだろう。


「首を洗って待っていろよ」


 森のどこかにいるアイリスに向かって呟いた言葉は、風とサカイさんの泳ぎによって生じた水しぶきの音に掻き消されたが、俺の胸のうちにはしっかりと刻み込んだ。


 そうして俺たちは「清風殿」を後にしたんだ。

 これにて十月の更新祭りは無事に終了です。

 続きは明日の十六時になります。

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