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Act8-67 風の中に消えゆきて

 本日十一話目です。

「……あるよ」


 モーレの遺灰は、いまだアイテムボックスの中にあった。


 いまはきちんとした布に包んで、厳重に保管してあった。


 いつまでも保管していてもとは思っていた。


 それにベルセリオスさんには、故郷の風の中に還してやればいいと言われていた。


 その故郷である「蠅の王国」にこうして訪れたんだ。


 モーレの遺灰を風の中に還してあげるのはいまなんだろう。


 でも、いまのいままで忘れていた。モーレのことを忘れていたわけじゃない。


 ただこの国に来てからはいろいろと大変だったから、気を回すことができずにいた。


 これじゃあ、どのみち忘れていたというようなものなのかもしれない。


「出してもらっていい?」


「……いいよ」


 アイテムボックスから遺灰を包んだ布を取り出す。


 モーレの遺灰をアイテムボックスから取り出すのは、布に包んだ以来だ。


 布も、その中に包まれた遺灰もなにも変わっていない。


「出して」


「うん」


 言われるがままに結び目を解く。中にはあのときのままの、真っ白な遺灰が収められていた。


「……そっか、これが私なのか」


 モーレは自身の遺灰を眺めながら、物珍しそうに見つめている。


 たしかに他人の遺灰であればともかく、自分の遺灰なんて絶対に見られないものだ。


 物珍しそうにするのもある意味では当たり前だった。


 ……あまり光景的にはよろしくないことではあるのだけども。


「……流していいかな?」


 しばらく遺灰を眺めていたモーレだったけど、遺灰を流すと言い出した。


 もともとはそのつもりだったんだと思う。


 俺自身も流すのであれば、ここがいいかなと思っていた。


「清風殿」からの、「世界樹」からの景色はきれいだった。


 山並みの向こうへとゆっくりと沈んでいく夕陽に、目の前のすべてが、この世界自体が淡いオレンジ色に染まっていた。


 一日の終わりの時間。黄昏時と言われるいまがちょうどいいのかもしれない。


 オレンジ色に染まっていく風景の中へと流すのが、一番の供養なのかもしれない。


 ……その本人と一緒に行うというのは本来ではありえないことだろうけども。


「モーレ自身で決めればいい。これはもともとの君のものだもの」


「でも持ち主はカレンちゃんだよ?」


「……それはそうかもしれないけど」


 たしかに遺灰自体はモーレのものだけど、持ち物という意味であれば俺のものだ。


 けど俺としてはモーレから預かったものと受け止めているから、やはり決めるのであれモーレの意思に任せたい。


 ……決して優柔不断というわけではない。


「ふふふ、優柔不断って、こんなときにも言うんだね」


 クスクスと笑うモーレ。その笑顔はとてもきれいだった。


 気づいたときには開いていた距離は詰まっていた。そして──。


「んっ」


 モーレはまぶたを閉じていた。


 ほっそりとした体を強めに抱き締めながら唇を割り開き、口内の舌とゆっくりと絡めていく。


 あぁ、まずい。まずいなぁ。理性が少し飛んでいる。


 でもやめられないし、止めることもできない。


 およそ、不釣り合いな水音をモーレと共にしばらくの間かなで続けた。


「……タラシだよね」


「……ごめんなさい」


「怒っているわけじゃないよ。嬉しいから。だからさ」


「うん」


「一緒に流そう?」


 モーレの言葉にうなずきながら、俺たちは一緒にモーレの遺灰を風の中に流した。


 別れは消え、再会を果たしたという意味合いを込めながら、風の中に消え行く遺灰を眺め続けた。

 続きは十一時になります。

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