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Act8-66 遺灰

 本日十話目です。

 モーレたちの元に戻るとすぐに、シリウスは完全に目を覚ましてくれた。


 ティアリカも交えて話でもしようかと思っていたのだけど──。


「積もる話もあるし、あとはパパとエレーンママだけでだよ?」


 そうやいなやシリウスは、ティアリカとジズ様を連れてそそくさといなくなってしまった。


 ティアリカはともかく、ジズ様は抵抗するんじゃないかと思っていたのだけど、意外なことにシリウスに続いて俺とモーレをふたりにしようと言ったのはジズ様だった。


「あとはお若いふたりだけって奴だね」


「それはお見合いですよ、ジズ様?」


 ジズ様が言ったことは、ティアリカの言う通り、お見合いの定型句だった。


 けれど当のジズ様はティアリカの指摘をまるっと無視されてしまった。


「まぁまぁまぁ、細かいことは気にしちゃダメだよ、ティアリカ」


「そうだよ、ティアリカさん」


 しまいにはシリウスまでもが、ティアリカを抑える側に回ってしまった。


 義理の娘であるシリウスまでもが敵に回ったことにティアリカはいくらかショックを隠せないでいた。


「シリウスちゃんまで。これでは手前だけが悪者のようではありませぬか」


 ティアリカはため息を吐いていたけど、ふたり同様に俺とモーレをふたりだけにすることには賛成のようだった。


「なんだかんだと手前は、「旦那様」とご一緒することが多いですからね。ここは先逹たるモーレ殿にお譲りするべきでしょう。もっとも「正妻」の座までは譲りませんが」


「上等ですよ、ティアリカ殿。私もカレンちゃんの「正妻」の座を譲らないから」


 火花を散らせながらも、ふたりのやり取りはとても健全だった。


 某三人には見習ってほしいくらいの健全さだった。


 ……言ったところで無意味だろうが、せめてこのふたりだけはヤンデルにならないでほしいと思わずにはいられなかった。


 そうしてふたりのやり取りが終わると、シリウスたち三人はそそくさといなくなってしまった。


 残るのは、微妙な距離を保って座る俺とモーレだけだった。


「……」


「……」


 距離を保って座りながら、俺とモーレは暮れていく空を見つめていた。


 ……正確には見つめることしかできなかった。


 というかなにを話せばいいのかがまるでわからなかった。


 さっきただいまとお帰りを言ったから、また言うのは変だし。


 かといってきっかけが思い浮かばないしと。どうしようもない状況だった。


 どうしたものかなと思い悩みながら、沈み行く夕陽を眺めていたら──。


「ねぇ、カレンちゃん」


 ──不意にモーレが口を開いた。普段のモーレとは少し違っていた。


 真剣な声色だけど、どこか躊躇っているようにも思える。


 いったいなにを躊躇っているんだろうか。


「あれ、まだ持っている?」


「あれ?」


 いったいなんのことを言っているのか、すぐにはわからなかった。


「あれ」だけじゃ、なにを指しているのかはわからない。


 でもモーレが言うのだから、モーレに関するなにかであることはたしかだった。


 そうして考えているとモーレは静かに、でもはっきりと口にした。


「私の灰。まだ持っている?」


 それでようやくわかった。モーレが言っているのは、あの日、あのとき、モーレの体を燃やしたときに出た、モーレの遺灰のことだったんだ。

 続きは十時になります。

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