Act8-65 おかえりとただいま
本日九話目です。
ジズ様とのやり取りを交わしながらも、俺とティアリカはシリウスたちが待つ出発地点、「清風殿」の外に出られたバルコニーへと向かった。
その間もジズ様は「ちょっとでいいからぁ~」と引き下がってくれなかった。
それどころか、俺の脚にしがみついて、文字通り引きずられながらも俺の捕食を願っていました。
……いったい俺自身のどこにそんな魅力があるのかはわからない。
だけど、ジズ様がここまでされても引き下がらないところを見るかぎりは、それなりの魅力はあるんだろうね。
そう思いながら、シリウスたちのところへと向かうと、シリウスとモーレはバルコニーに直接腰を下ろして、こちらに背を向ける形で腰を下ろしていた。
正確にはモーレが直接腰を下ろして、その膝の上にシリウスが座っているという形だった。
生前の頃は十歳前後の見た目だったモーレだけど、生前の姿と見比べるといまの姿はだいぶ成長している。
プーレとアルトリアと同じか少し年上くらいの見た目だ。十四、五歳くらいかな。
生前の頃では、ああしてシリウスを膝の上に座らせることはできなかっだろうけど、いまであればできる。
言っちゃなんだけど、それだけだ。
それだけの光景でしかないのだけど、なぜか少し視界が歪んでいた。どうしてかな?
「……エレーン殿が、いえ、モーレ殿が生きておいでなのが嬉しいのではないでしょうか?」
ティアリカが隣に立ちながら笑っていた。
でも笑いながらもどこか悲しそうでもある。
その悲しみがなんであるのかは俺にはわからない。
「そう、なのかもしれないね」
「モーレ殿とは、たしか」
「……うん。「エンヴィー」で出会ったんだ」
モーレとのことは「世界樹」クライミングをしながら、ティアリカにも話してあった。
ずっと幹を登るだけでは、気が滅入りそうになるだろうから、登りながらもいろんな話をした。
ふたりっきりだったから話すことはたくさんあった。お互いの話を交互にしても、いろんな話ができるほどには時間はあったから。
その際に聞いたのが、ティアリカのお兄さんの話であり、神器への思いだった。
俺が話したのは、家族のことだったり、いままでこの世界で過ごした話だったりと、本当にいろんなことを話したよ。
特に俺が熱心に話したのは、カルディアとモーレのことだった。
俺が目の前で喪ったふたりのことを、守ることができなかった大切なふたりのことだった。
でもそのうちのひとりであるモーレがエレーンだとは思わなかったけどね。
だからモーレとの再会は嬉しいサプライズだった。
そのモーレが「ママ」としてシリウスを後ろから抱っこしている。
その光景を見て視界が歪んでしまったのは、ティアリカの言うとおりモーレが生きてくれているのと、そしてふたりが仲のいい母娘でいてくれているのが嬉しいからなんだろうな。
「妹ちゃん。いってらっしゃい」
いつのまにかに立ち上がっていたジズ様が文字通り背中を押してくれた。
ふたりがああしているのは俺を待っているからだ。
であれば言うことがある。そして俺からも言いたいことがあった。
「「いって」きます」
それだけを口にしてふたりのもとへと向かう。
あと一メートルほどのところで、シリウスの耳が動いたのが見えた。同時にモーレが振り返った。
「カレンちゃん?」
「ぱぱ?」
モーレは驚きながら、シリウスはやや舌っ足らずでそれぞれに俺を見つめていた。
シリウスはたぶん寝ていたね、これは。
まぁ、そういうところもシリウスらしいかな。
「いろいろあったけど、戻ったよ。だからその」
モーレは不思議そうに、シリウスは口を動かしながら、それぞれにらしい反応を見せてくれていた。
そんなふたりに向かって俺は言った。
「ただいま。そしてお帰り、モーレ」
いまさらかもしれないけど、俺が言いたかったのはこの一言だった。
モーレはわずかに目を見開いたけど、すぐに笑ってくれた。
「お帰り。それとただいま、カレンちゃん」
最期に見たときと同じモーレらしい笑顔を浮かべてくれたんだ。
続きは九時になります。




