Act8-56 頂上にはまだ遠く
本日十二話目です。
「世界樹」クライミングはとんでもなくヤバい。
それを俺はいま実感させられていた。
そもそも命綱なしという状況が一番ヤバい。
そんな状態ではるか雲の上を目指せということもまたね。
「雫石」の採取ってこんなにも危険なことをしなきゃいけないんだろうか?
いくら名産品とはいえ、こんな危険極まりないことをしていたら、命がいくつあっても足らない気がしてならないよ。
というかさ、ジズ様の言葉が矛盾している気がするんだよね。
「雫石」の採取は難しいとか言っておいて、さっさと取ってこいとか意味がわからないんだけど。
その取ってくる方法がこれですよ? 誰がどう見てもおかしいでしょうよ、これ。
文句を言っていいのであれば、小一時間ほどいい続けられる自信はあるよ。
でもいまそんなことを言っても現状を打破できるわけじゃない。というか、そんな元気があるのであれば、登ることにその気力を使いたいですね、はい。
とはいえ、登るにしてもいまだ頂上が見えないどころか、雲にまで達していないんだ。まだまだ頂上には程遠いというのがよくわかるね。
もっとも俺はいまだに頭上を見上げることができないという責め苦に遭っているので、いまがどのくらいの位置にいるのかもわからないんだけどね。
この試練で俺くらいじゃないかな?
頭上を見上げることができないという縛りプレイをやらされている挑戦者ってさ。
不思議だね。改めて現状を再確認すると、こんなにも泣きたくなるんだね。
……本当にどうして俺はこんな特殊なことをせにゃならんのだ。
目隠ししていろと言われるよりかははるかにマシだけどさ。
「「旦那様」がお望みであれば、目隠しくらいであれば用意できますが?」
……なんだろう。いま聞きたくない戯言が聞こえてきたよ?
ティアリカには悪いけれど、いまのは俺にとっては戯れ言以外の何者でもないよ?
そんなことをされたら俺死ぬよ? 確実に手を滑らして死ぬからね!?
というか俺を殺したいの、ティアリカはさ!?
「いえいえ、そんなことはないですよ? お慕いする方を死なせるなどできるはずがありませぬ」
「じゃあなんでそんなことを?」
「いや、そうするべき雰囲気かな、と思いまして」
ティアリカはあっさりと言ってくれた。
顔は見えないけれど、きっとしれっとした顔をしているんだろうね。
……うちの嫁ズはどうしてこうもバイオレンスなことを言ってくれるんでしょうね。
俺はまるで理解できません。
「いえいえ、そんなことは。手前はせいぜい「旦那様」の困る顏を、おかわいらしい姿を見たいだけでありまして」
「なにそのドエス発言?」
なに、なんなの、そのドエス発言はさ?
いつぞやのレアを思わせてくれるよ?
最初の頃のレアもいまのティアリカみたいなことを言っていたよなぁ。
……あの頃のレアはちょっと天然な美人のお姉さんだったのに、どうしていまみたいな痴女のようなことを言い出すようになったんだろうなぁ。
まぁ、レアのことはいい。そんなレアを「姉様」と慕うからこそなのかな?
ティアリカの言っていることがおかしいのは。
まぁ、一番遠慮したいのはヤンデルな嫁なんですけどね?
というかうちの嫁ズってどうしてみんなヤンデルになってしまうんだろうね?
一番それが解せないよ。
「ヤンデル。ああ、「旦那様」を追いかけられているときのレア姉様たちのことですね? 手前もああした方が?」
「勘弁してください」
冗談でもそれだけは勘弁願いたいよ。
レア、プーレ、サラさんとヤンデルな嫁はもう結構です。
これ以上ヤンデルな嫁はいりませんから!
……でもそんなことを言ってもなんか増えそうで怖いよ。
いまのでフラグが経ったとかありえそうだもの。
「「旦那様」はときどきよくわからないことをおっしゃいますが、そういうところも手前は好ましいと思っていますよ」
ふふふ、とおかしそうに笑いながらティアリカは「世界樹」の幹を登っていく。
ティアリカが登ったであろう痕が残っているから、俺もその後を続けばいい。
不思議なことに傷をつけたらすぐに再生するくせに、登った痕跡は残ってくれている。
俺としてはありがたいことだから問題はないけどね。ちょっとだけ違和感はあるけども。
「頂上はまだ見えない?」
「まったくですね。そもそも雲さえも遠いです」
「そう」
かなり登ったはずなのに、まだ頂上には程遠い。いったいどれだけかかるのやら。
「……まぁ、頑張りますか」
やれやれとため息を吐きながら、引き続き「世界樹」クライミングに挑むしかない俺だった。
十月の更新祭りの前夜祭はこれにて終了です。
本祭はこのあと十二時からです




