Act8-54 「世界樹」を登ります。
本日十話目です。
「とりあえず「雫石」を取りに行っちゃおうか?」
ジズ様がなにやらおかしなことを言っていた。
言われた意味をすぐに理解することができなかったよ。
だって、「雫石」を採取はできないと言われていたはずだったのに、今度は取ってこいとか矛盾している。
でもジズ様はそんな俺の反論には耳を貸してくださらなかったよ。
「いいから行ってきなさい! お姉ちゃんの言うことは絶対なの!」
胸を張りながらジズ様は言われた。
ド級のシスコンお姉ちゃんはどこに行ったのやら、とんでもない横暴なことを言ってくださいましたよ。
おかげでこうして俺は「世界樹」のウォールクライミングをさせられているわけだった。
というのも「世界樹」の頂上に「雫石」があるからだ。
そう、雲よりも高い「世界樹」の頂上にだ。
……言われたとき、俺の気が遠くなったのは言うまでもない。
むしろ気が遠くならない方がおかしいよね。
地上何千メートルだっつーの。
それを自力で行けとか、無茶にもほどかあるでしょうに。
でも救いはあったよ?
「清風殿」は「世界樹」の中腹くらいにあったからね。
「清風殿」の上層部から外に出られる勝手口のようなものがあった。そこから登ることを許されたからね。
もっともそこからでもせいぜいスカイツリーくらいの高さだった。
上を見上げても頂上は見えない。見えるのは大木の幹のような太い枝と俺の身長くらいはある大きな葉、そして遠くに見える白い雲くらいだった。
「……これを登れと」
想像よりもはるかにひどかった。むしろ想像の方がはるかにましだった。
頑丈なロープというよりも綱引きの綱レベルの蔦がところどころに生えていたり、ところどころに階段のようになっている葉があったりとか、途中で迷路のようになっている大きなうろがあったりとか考えていたのだけど、そんなお助けギミックは一切存在していなかった。
まさに自力で登れでしたね。
そんな現実により一層気が遠くなりました。
しかも命綱はなしだ。いや違うか。命綱が使えないと言われてしまった。
「「世界樹」は再生力がすごく高いんだよ。たとえばこうして少し穴を空けても──ほら」
ジズ様は試しにと「世界樹」の幹に少しばかりの穴を空けた。
ピッケルが空ける穴よりかはやや小さめものだったけど、その穴は一瞬で塞がれてしまった。
ハンガーボルトを差し込もうにも意味はなさそうだった。
「幹に穴を空けてもすぐに塞がるんだ。なにかを詰め込んだとしても、塞がる仮定で吐き出されてしまうの。枝に結びつけたとしても、枝と枝との距離がありすぎるからそもそも届かないし。仮に届くほどのロープがあってもかえって邪魔になる。だから命綱は使えないんだ」
わかるようなわからないような理由だったけど、とにかく命綱なしはそういう理由だった。
そしてティアリカがいる理由はというと、
「「雫石」の採取はある意味試練のようなものだからね。二人一組でないとダメなの。そしてその試練には天使は参加できないんだ」
とのことだった。
つまりティアリカと組むしかないということだった。
そしてティアリカの今日の格好は袴着のようなお召し物でした。
そしてティアリカは一度ここの「世界樹」を上ったこともあるということだったので、先導してもらうことになった。
そうなればですね、当然見上げれば見えてしまった。
あとは言うまでもありません。
いろいろと頭上から言われることになったとだけあえて言おうかな。
とにかく俺はこうして頭上も見上げられないウォールクライミングをすることになったわけですよ。
続きは二十時になります。




