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Act8-53 「世界樹」クライミング

 本日九話目です。

 風が吹いていた。


 下から噴き上がるような風が常に吹き続けている。


 その風を浴びながら細い足場を命綱なしで伝っていく。ぶっちゃけめちゃくちゃ怖い。


 怖いけれど、下手に下は見られない。


 というか見たら一歩も動けなくなるのが明白だった。


 むしろ動けなくなる自分の姿が、ありありと想像できてしまうんだもの。


 ゆえに下は見られません。だからと言って上も見られないんだな、これが。


「だ、「旦那様」、上を向いてはいけませんからね!?」


 頭上からティアリカの焦った声が聞こえてくる。


 まぁ、焦るよね? 普通は焦っちゃうよね? 


 おそらく俺が思っている焦りとティアリカの焦りはまた別物なんでしょうけど。


 でもそれを確認する余裕はない。というか物理的に無理です。


 だって上を見るなとそのティアリカから言われているんだもの。ティアリカの様子を伺える余裕なんて存在しないよ。


「大丈夫。見ていないから」


 そう見てはいない。だって俺はずっと「世界樹」の幹ばっかり見つめているもの。だから上なんて見ちゃいません。


『なんて体たらくを! そこはあえて上を見るべきでしょう!? 見るなと言うことは、つまり「見てください」ってことでしょうが!』


 脳内ピンクがうるさい。どうしてこいつはこういうことに関して全力全開なんだろうね。もうちょっと慎みをだね。


『慎み? そんなことをしてなんになると言うのですか? そんなことよりも目の前のヘブンを眺めることこそが重要でしょう? あなただって本当は見たいくせに。なにをカマトトぶっているんです? さぁ、素直になれよ、です』


 ふふふと怪しい笑い声を響かせてくれる変態脳内ピンク。


 本当にどうしてこいつはこういうことに関しては、いかんなく変態っぷりを発揮してくれますかね? 


 いや変態だからというのはわかるよ? わかるけれど、もう少し。そうもう少し貞淑な様をですね。


『だーかーら! そんなどうでもいいものよりも、嫁のあられもない肢体を眺めてこそでしょうが! いま目の前にあるんですよ!? 目の前にはティアリカのあーんなところやこーんな部分があるんですよ!? なのに見ない? 見ないだとぉぉぉ!?』


 切れどころがおかしいですよ、恋香さん。なんて言ってもいまの恋香には通じないかもしれないな。


 いや通じるとは思えない。恋香のアイデンティティである変態っぷりが急上昇しているもの。


 俺には止められません。かと言ってティアリカの言葉を無視するわけにもいかないしなぁ。


『いいから見なさい! いや見せなさい! 見せてください、お願いします!』


 脳内で恋香が土下座をしているようだ。だからと言って見せるつもりはない。というか、こんな足場の悪いところでラッキースケベなんて、いちいちしていられるかよ!


『バカ! こんなときだからこそのラッキースケベでしょうが! だいたいこのときを逃して、いつラッキースケベが起こるというのですか!?』


 恋香がいつも以上にしつこい。思春期真っただ中の中学生男子か、こいつは!? エロイことばかり考えているんじゃねえよ!


『エロがなくて人生が過ごせるかぁぁぁぁ!』


「開き直るな、脳内変態ピンク!」


 アホなことを俺の頭の中で叫ぶんじゃない! なんて言っても聞いてくれやしないだろうけどね。


 だって恋香だもん! 聞いてくれるわけがない。そもそもそんなことを実際にしたらだなぁ。


「見たらジズ様やレア姉様に言いますからね!?」


 ……これだ。こんな脅しをされてしまったら見るなんて選択肢は俺の中には存在しないんだよ!


 いい加減わかってくれよ!


『いいえ、わかりません! わかるはずがない! スカートの中身やシャツの隙間から覗く下着が見えそうという、いまの情況を無視するあなたの気持ちなんて私にはわかりません!』


「このド変態がぁぁぁ!」


 わかってくれないド変態ピンクに向かって、俺は「世界樹」の幹をウォールクライミングしながら叫んだ。


 どうしてこうなったのかは、一時間ほど前のことだった。

 続きは十八時になります。

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