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Act8-47 エレーンとモーレ

 本日三話目です。

 エレーン改めモーレの独白です。

 ああ、やってしまったなぁ。


 素顔を露わにするつもりなんてなかった。


 このままずっと「エレーン」としてカレンちゃんのそばにいるはずだったのにな。


 でも仕方がないと思うんだよね。


 だってあまりにもらしくないんだもん。


 私の知っているカレンちゃんらしくないんだもの。


 あのとき、死にかけていた私を抱き締めてくれていたときもそうだったけれど、カレンちゃんは教えてくれた。復讐に意味がないことを教えてくれた。いや、思い出させてくれた。


 わかってはいたんだよ? 仮に「蒼獅」に復讐したところで、お父さんとお母さんが戻ってくるわけがないことは。わかっていたんだよ。


 それでも心は納得してくれなかった。受け入れてくれなかった。お父さんとお母さんがいなくなったことを認めてくれなかった。


 だから私は復讐を選んだんだ。


 意味がないとわかっていても、荒れ狂う心を鎮めるには、「蒼獅」の血を浴びる以外にないと決めてしまったんだ。


 それはきっとあの子も、カルディアも同じだったんだろうね。


 カレンちゃんはあの子にも同じことを言っていたよね。それどころか言っていたよね、幸せになれって。


「──君が復讐だけで人生を終わらしても君のおじいさんは喜ばないよ。幸せになれと言ってくれたんだろう。なら幸せになれよ。幸せな日々をどうしたら送れるかを考えた方がいい。君には復讐は似合わないよ」


 カルディアに向かって、縛られて地面に転がされている状態にも関わらず、その気になればいつでも殺されてしまうかもしれないという状況だったのに、カレンちゃんは言っていた。


 あの子のおじいさんが、私の両親を殺した「蒼獅」が最期に言ったという言葉を、幸せになれというひと言を。あの子に投げ掛けていた。


 でもカレンちゃんは知らないだろうね。


 そのとき、私もその言葉を聞いていたってことを。


 天使になって、私が得たのは影から影へと移動する力である「影渡り」を以てすれば、カレンちゃんがどこにいようと私はカレンちゃんの元へと向かえるんだ。


 だから知っていた。カレンちゃんが「蒼炎の獅子」のアジトへと連れていかれたことを。


 そしてカルディアが当代の「蒼獅」だったということも。


 そしてカルディアにカレンちゃんが説教をしていたことも。


 私はすべてを知っている。


 カレンちゃんと一緒に見聞きしていたからね。


 でも見聞きしながらも、そのときの私は息を殺してカルディアを伺っていた。


 だってそのときの私はカルディアを殺すつもりだったから。


 たとえ私の両親を殺したのが先代の「蒼獅」だったとしても、「蒼獅」を継いだということは、私の両親を殺したという罪をも一緒に受け継いだということだ。


 そんな自分勝手な持論を秘めて、息を殺してカルディアの隙ができるのを待っていたんだ。


 不意打ちで殺してやろうとしていたんだ。


 けれどカレンちゃんが言った言葉で、あの子へと向けて口にした言葉で気が変わった。


 ううん、気づけたんだ。本当の意味で気づくことができたんだ。


 復讐にすべてを費やしたところで、お父さんとお母さんは喜ばない、と。


「蒼獅」が言ったように幸せになってほしいと思っているんだろうな、と。


 そう思ったら、カルディアを殺す気にはなれなくなってしまった。


 泣きじゃくりながら、カレンちゃんを馬乗りで殴り続けていたあの子を見ていたら、ああ、この子も私と同じなんだなと思った。


 復讐に身を費やす姿からは忌避感ではなく既視感しかなかったから。


 握りしめていたナイフはひとりでに手から離れてしまっていた。


 復讐をしようと思えなくなってしまった。


 だから私はもう復讐をする気はなくなってしまった。


 でも、私の代りにカレンちゃんが復讐に囚われてしまった。


 らしくない姿を見せるようになった。


 そんなカレンちゃんなんて見たくない。


 そして今度は私が救ってあげる番だ。


 二度も私を救ってくれたあなたのためであれば、私は──。


「そうだよ。私はモーレ。モーレ・ゼルトリア。あなたの腕の中で旅立ったモーレだよ、カレンちゃん」


 エレーンではなく、モーレとして私は再びカレンちゃんの前に立ったんだ。

 続きは六時になります。

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